奇人 〜チャラ男風味〜
くっそ、ツイてないぜ!
久保田は、心の中でチッと舌打ちする。
前から犬居が、自分の事を訝しんでいたのは知っていた。
ヤツの相棒となって20年、大体の行動は一緒なのだが、多少なりとも煙たい存在ではあった。
ヤツの同僚のキャリア組は、官僚になるか、他の出世街道を歩んで行くが、ノンキャリ組は、ただひたすらに歩き続けるしかない。
俺だったらゴメンだね。何が嬉しくて革靴を擦り減らしてまで、歩き続けなきゃならないんだ。
どうせ安月給。ワルい奴からワイロ貰ってなにが悪い! 証拠品くすねて、なにが悪い? 俺はアンタの言う正義感とか、道徳とか気持ち悪くて仕方がないんだよ!
ここで捕まってなるものか! 探せば必ず活路はあるはずた。
久保田はわざと体を屈ませ、血走った目をキョロキョロと動かして、逃げ場所を探っていた。
「久保田、観念するんだな」
犬居は、とんだ悪足掻きだと思いながらも、久保田の腕を捻り上げて両手に手錠を掛ける。
俺は、ここじゃ終われない。ブツブツと喋りながら片膝を上げ、久保田は立ち上がった。
‥‥‥絶対、拘置所になんか入るもんか。
以前、森本の店で運び屋をやってた女が殺された。その時の犯人を、大家に仕立て上げ逮捕してやった。
真犯人は別の誰かだが、そんなことはどうでもいい。俺は手柄を立てるのに必死だからな。
案の定、証拠不十分で釈放されたが、別件で逮捕。
‥‥‥その後は何があったか知らないが、独房で遺体となって見つかった。
事の詳細は、表沙汰にはならなかったが「誰かに殺されたのではないか?」というのが、もっぱらの噂だ‥‥‥
口封じされたのかもしれない、真犯人にだ。
もし、それが噂ではなく、本当の話だったならば、自分も殺される可能性は十分にある。
なんせ、こんな商売をしていると、恨まれることなんて多々ある事だし、裏の世界でも俺を恨んでいる奴なんてゴマンといる。
‥‥だから、俺はここで捕まる訳にはいかない。その前に逃げてやる!
ほら、歩くんだよ! 犬居は両の手に手錠を掛けている久保田に歩くよう促すと、裏口の扉へと向かう。
外に出る裏口には、そう遠くない廊下なのだが。今の久保田の気持ちにしてみれば、死刑台に向かう死刑囚の感覚に陥る気分であった。
俺の人生は、これで終わり。これで俺は‥‥‥俺は、ここでは終わらない!!
久保田は、最期の足掻きともいえる行動に移す。
今まで繰り返してきた悪行が、今頃になって精算されようとしている。
皮肉なものだな、たった1つの不注意が招いた自業自得お前の行動は、全部お見通しだ。
ただ、現行犯で捕まえなければ、久保田はすぐにトカゲの尻尾切りみたいに逃げるのだ。
汚職刑事とは、よくいったものだ。だが、これが表沙汰になる前だったからよかった。
ヤクザやチンピラから押収した覚せい剤を、横領して私的に売買していた‥‥‥こんなことが発覚すれば、職務怠慢で世間になじられるどころか、ただでさえ蓄積している警察形態への不満が、爆発するだろう。そんなことがあっては、ならない。そんなことは‥‥‥
だが、その時。犬居にとっては不運としかいいようがない出来事が起こった。
不意に‥‥本当に不意にだが、扉が開いたのだ。勿論、従業員が酒の入替えに入ってきたのだが、ほんの少しの油断が禁物だということが悔やまれる出来事であった。
一瞬。キイッという音に、気を取られてしまった。
だが、久保田はその一瞬の隙を見逃さず、学生時代はラクビーの花形選手だという経歴の持ち主は、腰をを低くし体の向きかえると、思いっきり犬居の腹めがけてタックルしてきた。
グエェッッ!!
ボキッという鈍い音とともに、犬居はその場に脆くも崩れ落ちていった。
学生時代に、つちかってきたラグビーの技量をここで発揮するとは、夢にも思わなかったが、まぁ良いだろ。
久保田はさっきのタックルで、腹をおさえて倒れ込んでしまった犬居を一瞥すると、手錠を掛けられた状態の久保田は、そのまま店内の方へと走っていった。
くそ〜っ。アイツを野放しにする訳には、いかないんだ!
あばら骨を折られた犬居は、あまりの痛みに脂汗まで流れてきたが、最後の力を振り絞るように立ち上がろうとするが‥‥‥
その頃。店内では、手錠を嵌めた状態の男が乱入したことにより、一時的な混乱になっていた。
「どけ、ババア!」
久保田は、口汚く罵りながら表玄関へと走っていく。
多分、自分に打ったクスリで幻覚症状も出てきたのかもしれない、周りがヤジを飛ばす観客に見えてきた。
それはラグビーで、全国制覇まであと一歩というところまて来た時の話である。
当時、花形選手であった久保田には、付き合っていた彼女以外にも女がいた。
二股交際なんて、別段珍しい話ではないが問題は女の方にあった。大会の決勝戦の相手主将の恋人だったということだ。
こちらには恨みなくとも、向こうは積年の恨みを晴らすが如く、力いっぱいのタックルをブツけてきやがった。
体を思いっきり突き飛ばされた久保田は、一瞬気が飛んでいったが次に気が付いた時には、相手をブチ殴っていた。
当然、誰が見ても相手側の方に非があるように見えた。しかし、大会側からみれば喧嘩両成敗で2人とも退場。
久保田は、最初に飛ばされた時に出来た傷が化膿して、それが元で選手生命が断たれ、女ともその時に縁が切れた。
その後、ラグビーの推薦で決まっていた大学の内定の取り消しになった彼は、荒れ狂い麻薬に手を出してしまい、今現在もそのクセは抜けきってない。
だから、麻薬が切れかかった時に幻覚を視る。これは皆、敵だと‥‥‥
俺は、逃げなくてはならない。誰から? 寝取った女の恋人か? それとも、俺の捨てた彼女か?
久保田は、夢と現の間を彷徨う。目の前にあるのはネオン街、彼は何処へ行くのか‥‥‥
その時、犬居は歪んだ顔でブッ倒れていたところを従業員に発見されたという。
‥‥‥たくっ、しょうがねぇなあ!!
百鬼は、文句を言いながらも犬居を背負い、自宅へと連れて行った。
一度くらいは、結婚したことはあるのだろうが、こんなくたびれたコートを着ているのだから、今は独り身なのだろう。
そう思うと、急に家が恋しくなってきた。
少しバカだけど大好きな恋人の圭吾に、本当にバカだけど、そこがカワイイ烈。
双子の烈とは違い賢いのに、女運が悪い海。勉強嫌いだけど、千夏司は店のアイドルだよね。通信制の高校だけど、ちゃんと勉強しろよ?
それに、まだ幼い蒼と紅は森本家の天使ちゃんだよ。早く会いたいな〜、このオッサン送り届けたら、すぐに家帰って皆の大好物でも作ってやるか。
百鬼は、家族の顔を想いながら家路へと急ぐ。
‥‥‥トホホ、こんな目に遭うとは。
百鬼の恋人の圭吾と、長男の烈はボロボロの状態で家に帰って来た。
家手した百鬼を連れ出す為、次男・海の彼女《小山日菜子》に導かれ、来たるはネオン街。
新宿二丁目なら、いざ知らず。ここは天下の歌舞伎町! こんな所、ゲイの彼には興味ない筈‥‥‥ところがどっこい、なんと彼は客としてではなく、ホストクラブ〝SIREN〟にてホストとして働いていたのだ。しかも28才として! サバ読み過ぎたろ、実年齢は44のクセして!
戸塚と烈にしてみれば、百鬼に一刻も帰ってきてもらいたい一心で、ここまで足を運んだというのに、百鬼に酔っ払った珍獣を押し付けられ、店から追い出されたという訳だ。
いきなりの事で、途方に暮れた戸塚と烈は酔い潰れたディアナを背負って、彼女の住む高級マンション(ナビ持ち)へと向かうのだが、何に興奮するのか薬局屋のカエル君に発狂し、洋菓子屋のペ◯ちゃんに抱きつこうとしたり、そして珍獣連れた2人が辿り着いた場所は、某大型チェーン店。そうカー◯ル像のある場所、以前にも同じ様なことがあり、完全に目を付けられた場所。
もし、その話が本当なら像の前でコワーイ顔した従業員の方々が、仁王立ちでお出迎えしてるのも分かる。
‥‥‥でも、僕たち部外者ですよ?
問答無用! とばかりに、モップで応戦する構えの従業員たちに、2人は戦々恐々だが、背負っている珍獣は喜々としてカー◯ル像を欲しがってる。
やめてくださいよ、姐さん! もう半世紀近く生きてるんだから、大人げない!
戸塚と烈は、ディアナを背負ったままスタコラと逃げてきた訳だが、酒で酔ってるとはいえ無意識に殴られた場所は鬱血してるし、引っ掻き傷もある。
ホンットに散々な目にあったよ 、と家に帰って来たならば、そこには食欲をそそる様な美味しそうな匂いが漂ってきた。
これは、もしかして!!
そう思ってキッチンの扉を開けたらば、そこには絵に書いたような美中年! 水も滴るイイ男、森本鉄郎がギャルソン・スタイルでお出迎えだ!!
「お前たち、遅かったな。早く食べないと冷めるぞ。席に着け」
は い。ウキウキして椅子に座ろうとすると、近くでドンヨリとした気配を感じた。
あの 、あそこにいるのカイとチカですよね。何してるんですか?
「あ 、ケーキは1日2個までって、決まってるだろ? それなのにワンホール1個食べるなんて、メシ抜きに決まってるだろ?」
あ 、だから2人の大好物ばかりなのね。
ところで、蒼と紅の姿は? どこも見当たらないのだが?
戸塚と烈は、互いの顔を見合わせ言った。
‥‥‥忘れてました。
こんにちは、腐女子の飛来颯でございます。
とうとう元ネタよりも、話数を過ぎてしまいすね。
これからも不定期でガンバって書いていきたいと思います。