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アンティークショップ『マーロン』へようこそ  作者: 飛来颯
ホスト始めました
16/37

涙のシャンパン・ナイト‥‥後編

 「今日は、先輩たちと一緒じゃないんだ? いけないな、こんな所に1人で来るなんて」


 あの‥‥‥ユウヤさんに相談に乗ってもらいたくって。こんな事、他の人に相談できないから。


 「とりあえず、こちらへどうぞ。言っとくけど、まだ20歳きてないからオレンジ・ジュースだよ」


 身内の情報を拾うには、まず標的の懐に入り込むこと。これは、同業者の言葉。

 実は、百鬼は標的の孫娘にあたる《古賀沙織》とサークルの先輩が、この店がある場所に1番近い陸橋を通ることを知っていた。

 だから、以前の『要人&愛人救出大作戦』の功労者である、ディアナを連れて、『SIREN』に下見を兼ねて来たという訳だ。

 ここで、自分の顔を売る必要があったからだが、すぐその場でスカウトされるとは思ってもみなかった‥‥‥

 それを頼りに面接にかこつけたのだが、それにしてもイタい出費だった。

 ディアナの飲んだ酒が、一本が30万以上もする最高級のコニャックを10本近くもラッパ飲み。

 仕舞いには支配人が白旗挙げて、お帰りを乞う始末。

 百鬼は、珍獣と化したディアナを抱え、薄暗い午前様の中、ホストクラブ『SIREN』を後にした。

 その後、この店に面接を受けて合格した百鬼は、その足で客引きを始め、沙織と先輩を客として引き込むことに成功したって訳だ。

 それにしても、先に沙織に接触した栗栖の仕事の早さといったら‥‥‥

 大学構内に入り込んだ栗栖は、ごく自然に沙織に接触してきたらしいが、どうやら彼女は王子様的風貌の栗栖に一目惚れしてしまったみたいだ。

 その〝王子様みたいな〟というのは、前回の仕事で、助っ人に来た栗栖は顔カタチが全く変えて、まさに〝死人〟の《本田留美子》ソックリに作り替えてきやがったというワケだ。

 何をヤツが隠しているのか分からないが、今はとりあえず、お手並み拝見といったところである。


 

 百鬼は手招きで、沙織を奥の空いてる席へと案内した。


 「へぇ 。好きな人がいるけど、向こうが自分の事をどう思ってるか分からない?」


 沙織は、コクリと頷く。


 「そうだなぁ。とりあえず思い切って、ママの誕生日会に誘ってみれば? ほら、口実になるだろ。〝私のボーイフレンドです〟って」


 でも、それで彼が嫌がらないかなぁ?


 「私の〝彼氏です〟と〝ボーイフレンドです〟って言うのでは、言葉の重さが全然違うだろ? だったら最初から男友達として軽い気持ちで誘うんだ」

 

 ボーイが、運んできたジュースを1口飲むと、不安そうに沙織が百鬼の顔を覗き込む。


 「ほら〝今度、ママの誕生日パーティーがあるんだけど、一緒に行かない〟ってね。大丈夫、沙織ちゃんカワイイから断わる男なんていないよ」


 本当に、そう思ってくれるかな?


 疑心暗鬼に問う彼女に対し、百鬼は満面の笑みを浮かべ、大丈夫だよ。と、太鼓判を押す。


 よかった 。ユウヤさんに相談したら、何かスッキリしちゃった。


 笑顔が綻ぶ沙織の表情は穏やかで。あぁ、なんで素直でカワイイ彼女が、アイツの孫娘なのか、考えるだけで残念で仕方ない気持ちになる。


 「沙織ちゃん‥‥‥そろそろ、お帰り。これから慌ただしくなるから」


 え? なぜなのか 聞こうとした沙織は、有無も言わされないまま、セナという若いホストに預けられた。

 丁重に帰すようにと。

 ‥‥‥時間はまだ、9時を過ぎたばかりである。これから何か始まるのだろうか?


 「ユウヤさん。ちょっと、お母さん気質だからね。君みたいな大人しい子は、あまり店に染まってほしくないんだよ。悪い大人もいるからね、この世界は」


 セナが、沙織を玄関へと送る姿を見届けていると、どこか焦っている様子のボーイが、百鬼に耳打ちをしてきた。


 「なんだって、月子が?」


 ボーイの話では常連客の月子が、ユウヤを出せ。と言ってきかないらしい。

 ちなみに、月子とは百鬼と旧知の中である《ディアナ》の本名である。


 「もう大変なんですよ。店のボトルは殆んど飲んじゃうし、ホストのみならずお客様にも絡もうとするし‥‥」


 ボーイの泣き声にも似た喋り方に、百鬼は思わず溜め息を漏らした。


 これからヤツが来るというのに、俺にこれ以上の仕事を増やさないでくれ!


 百鬼とボーイは、足早にディアナのいる席へと急いでいると、ここには似つかわしくない雰囲気の客に気が付いた。


 後ろ姿では確認できないが、確実に自分の悪口を言われている気がする。

 豪快に座っているホストたちの中で、こじんまりとして座るは、森本家長男の《烈》と百鬼の恋人《圭吾》の2人。心なしか、少し涙目で。


 ‥‥‥なんで、いい年したオッサンがホストクラブで女に媚び売ってんの。

 男好きじゃないの? とか、いつの間に女好きになったのとか。

 全然、似合ってないとか!

 

 聞いているだけで、気分が悪いわ!! 2人が座るソファの後ろに百鬼本人が仁王立ちでいるというのに。

 よく見たら他の席では、珍獣〝ディアナイザー〟と化した物体が、軟体動物のようにウネウネと動き回ってるし、酒の注入しすぎか?

 いつものスタイリッシュな、女店主の風体はどこに行ったんだ!


 「大体さ 、百鬼のオッサン。メガネ外したら、確かに若く見えるけどさ〜」


 え、知らないのか? アイツ、伊達メガネなんだよ。ちなみに、視力は1.5だぜ。


 ウッソ〜! と、烈が声を張り上げたところで、百鬼が思いっきり烈の首根っこを掴んだ。


 「コラッ! お前ら、こんな場所に何しに来たんだ! チカとカイはどうしたんだ?」



 ‥‥‥一方その頃、森本家は。


 「はっ、しまった!」


 次男の海の声に、三男の千夏司はケーキを頬張りながら、どうしたの? と聞く。

 2人の目の前には、小山日菜子からのプレゼントであるケーキの残骸だけが残されていた。

 それもその筈、3人の姿が見えなくなったことを良いことに、千夏司がいなくなった人間の分まで食べようと、フォークで突き刺して食べ始めたので、海も負けじとフォークで美味しく食べちゃったという訳だ。


 ‥‥‥ま、いっか。その場に居ないアイツらが悪いんだし。


 

 そして話は、ホストクラブ『SIREN』に戻る。


 「なんで、お前らがココに居るんだ。どこで嗅ぎ付けやがった!」


 鬼の形相の百鬼を目のあたりにし、急に体が小刻みに震え始めた戸塚と烈は、真っ青な顔で懇願する。


 「だ‥‥だって。朝起きたら鉄郎、居なくなってたんだもん。心配するだろ‥‥‥?」


 懸命に話す戸塚の横で、烈がコクコクと頷く。


 「〝捜さないで〟って書いてただろ? 用事が済んだら、ちゃんと帰るつもりだったんだよ! 第一、家を出るんだったら俺じゃなくて、お前ら追い出した方が早いだろ!」


 それもそうか‥‥‥妙に納得してしまっている戸塚らに、新たな怒りを覚える百鬼であった。

 今は、それどころじゃないのに‥‥‥


 「あっれ 、ユウヤの知り合い? ねぇ、君らカッコイイねぇ。ウチで働かない」


 どこの地獄耳だか知らないが、この店の店長(チャラ男)登場。


 どこで聞き付けたのか知らないが、名刺持って勧誘を始める。もちろん、2人ともドン引き。

 だが、一度狙った獲物は逃さない主義なのか、執拗に迫る。

 君だったら、ウチのNo.1になれるとか何とか言って口説きまくっている。そんな事ばっかり言うから、タクミみたいな勘違いヤローが出来るんだよ!


 ‥‥‥と、その時。店先の方が、少し騒がしい雰囲気になってきた。

 久保田刑事のお出ましだ。スーツを着替え直して戻る時に、ヤツの留守電に入れておいたのだ。

 

 ボーイたちが慌てて、支配人を呼びに行っている。‥‥‥ヤバイ、そろそろ始まる。


 「おい、そろそろ帰れ。もう遅くなるし、ついでに月子も連れて帰ってくれ」


 そう言って、へべれけに酔っ払っている、ディアナを戸塚らに強引に預けると、彼らを裏口から帰した。

 これ以上、家族を巻き添えにしたくなかったからだ。

 百鬼は3人を見送った後、彼らの勘定を済ませようと、さっきの席に戻った。

 すると、そこで百鬼が見たものは‥‥‥


 「結構、手際よくしたわね」


 気が動転して気が付かなかったのか、さっきの席にはもう一人の客がいた。

 その客は、ドン・ペリニヨンを注いだグラスを、優雅に口元に運ぶ。


 「なんで、お前がこんな場所にいるんだ?」


 もちろん、ココは女性同伴じゃなきゃ入りづらいからでしょ。

 でも、そうねぇ。仕事もあるし、私もそろそろ帰るわね。


 そう言って、クラッチバッグから取り出したるはゴールド・カード!!


 「金持ちのお嬢かよ。なんで、あんな仕事に就きやがった?」


 ふふっ、趣味と実益を兼ねてよ。


 そう言い残すと彼女は、表口の騒動はモノともせず、ネオン街へと消えて行った。

 

 てか、どうやって調べてきたんだ? 盗聴器? 盗撮機? それともGPS?

 恐るべし、小山日菜子!!! 

 ストーカー行為もここまで来ると、完全に犯罪ですよ、姐さん!



 ‥‥‥その時久保田は、ホストクラブ『SIREN』のロッカー・ルームにいた。〝善良なる市民〟からのタレ込みが、あったからだ。


 この店で、覚せい剤が見つかったと。


 その話が本当なら、それは自分が押収した証拠品を横流しした代物だ。

 ここに、アキトと言う知り合いがいるのだ。

 長年の付き合いで、押収したブツを高値で引き取ってくれる良い客だったが、そろそろ潮時かもしろない。

 ヤツは、ここで後輩ホスト相手に、商売していたらしい。

 ここで、コレをネタに奴をしょっ引くのもいいだろう。


 久保田は、アキトのロッカーの前まで行くと無理矢理バキッと、こじ開けた。


 ‥‥‥あった。水色の粉薬、これだ。


 どうやら久保田は、目当ての物が見つかったらしい。ニヤリと薄ら笑いを浮かべながら、掴もうとした。


 「久保田、やっと尻尾を捕まえたぞ!」

 

 久保田は一瞬、心臓が止まるような気がした。そこには、居る筈のない先輩刑事の犬居の姿が。


 「い‥‥犬居さん、今日は出張だったんじゃ」


 お前の動きが変だったからな、ずっと付けてたんだよ! なぜか、お前が当直の時ばかりに押収して保管している、覚せい剤が減っているんだ!

 現行犯だから、もう逃げられないぞ。


 


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