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アンティークショップ『マーロン』へようこそ  作者: 飛来颯
ホスト始めました
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涙のシャンパン・ナイト‥‥中編

 ‥‥‥ホストクラブ『SIREN』(サイレン)は、開店一時間前になると、次々とホストたちが出勤してくる。

 つい最近、入店したばかりの《ユウヤ》は、まだ新人だが類まれな容姿に恵まれ、それに目を付けた新しい物好きのマダムたちに指名されることが多い。

 彼が席に座ると、彼の持つエキゾチックな雰囲気に呑み込まれ、魅了された客は読んで字の如く、湯水のように金を使うといわれる。

 まさに、魔性の男。彼は媚びる事など一切することなく、売り上げはNo.1に追いつく勢いだという。

 まだ、入店して間もない新人だというのに。


 もちろん、それを面白く思わない奴らもいる。

 No.2のタクミの取り巻きたちであり。無論、タクミ本人もである。

 だが、そんな男特有の嫉妬に気付かない、ユウヤ(恋愛沙汰以外は疎い)は今日も開店準備をテキパキとこなしていた。


 「ねぇ、ユウヤさん聞いた?」


 ユウヤの元に訪れたのは、セナというユウヤと同じ新人である。

 どうやら、好きな子と海外旅行に行く金を貯める目的で、この店に入ったらしい。

 (浅はかなヤツめ) 


 「昨日の売り上げ、ユウヤさんがトップだって。今の勢いだったら、No.1になるのも夢じゃないよ」


 ‥‥‥なんだ、そんなことか。それよりも準備を早くしないと、またドヤされるぞ。ビラ配りは終わったのか?


 「さっき終わったよ。それよりもさ〜」


 などと、くっちゃべていたら案の定、イヤミ言う奴らが出勤。No.2のタクミと、取り巻きの奴らだ。

 しかも、気に食わないのかセナを巻き添えにして、ユウヤに絡みはじめた。


 「おいおい、いつからココは井戸端会議所になったんだ? それよりもユウヤ、ちょっと顔を貸せ。セナ、お前もだ」


 ‥‥‥やめてくださいよ。そういうユウヤたちをタクミ一派は路地裏へと連れて行く。


 そして、誰もいないことを確認すると、ザコAがおもむろにユウヤの顔をブチ殴った。

 するとユウヤは、後ろにあったゴミ箱を巻き込むような形で、ガッシャアァァンと倒れ、そして2発・3発と続けざまに殴る。


 「ライさんの時代は終わった! ここでは、タクミさんが法律なんだよ。出しゃばったマネすんじゃねぇよ!」


 おいおい。顔じゃバレるから、殴るならボディにしろ。じゃ、ないのか?

 ニヤニヤ笑いやがって、悪趣味だなタクミ。嫌いじゃないぜ!

 ちなみに《ライ》は、この店No.1の男だ。

 《ライ》と《タクミ》の大きな違いは、一匹狼かハイエナみたいな団体かの差だと、百鬼は感じた。

 どの道、自分の手は汚さずに子分が手を下しているあたり、たかが知れているが。


 ゴミまみれになったユウヤを見て、満足したタクミ一派は、ユウヤにゴミ箱を片すように言い付けると、悠々と店内に戻って行った。

 ユウヤさん大丈夫? と、セナが心配そうに自分のハンカチを差し出す。

 

 心配すんな。すぐ行くから、先行っとけよ。じゃなきや、一体誰が開店準備を進めるんだよ? 大丈夫、後はウマく誤魔化すからさ。


 そう宥めて、セナを店に戻らせた。

 ユウヤは、倒れた時に一緒に倒してしまったゴミ箱の後始末をする。


 ‥‥‥しかし、妙なものである。さっきのNo.2であるタクミの取り巻きの様子がだ。

 奴らの体から、微かな麻薬の匂いがした。

 しかも、1回や2回じゃない常習的なものだ。長期的に吸引すれば、当然の如く体に染み付く。

 だとすれば、中毒者は麻薬が切れた時が一番危ない。暴れた時に客までも被害に遭う確率があるからだ。


 ‥‥‥そもそも、ユウヤとは源氏名であり、彼の正体は《百鬼》こと、森本鉄郎である。

 実は、彼は他店の情報筋で、《本田留美子》を殺した憎むべき相手である《古賀浩一郎》の孫娘が、ココの近くにある大学に在籍しているという事を突き止めたのだ!


 ならば、ここで《古賀家》に先に潜り込んでいる筈のカナと、タッグを組んだ方がいいだろう。

 古賀の孫娘には悪いが、これを大いに利用させてもらおう。《古賀浩一郎》以外の誰も、百鬼の正体は知らない筈である。

 それにしても無精ヒゲとメガネを取った百鬼は、どう見ても、20代のチャラ男にしか見えない。完璧である!


 ‥‥‥それにしても、さっきのニャンニャン・パンチはなんだ? わざと倒れたが、叩かれた顔よりもコケた時にできた擦り傷の方が痛いわ!


 そう思いたった百鬼は、手早く散らばってしまったゴミを片付け、店内へと戻った。




 「いらっしゃいませ」


 20:00〜、ホストクラブ『SIREN』開店。

 きらびやかなネオンとともに、艶やかな服装の女性たちが来店。

 お目当てのホストを指名する。


 「おい、ユウヤ。ちょっと、こっち来い」


 急に、百鬼を呼び止めたのは、ヘルプ専門のアキトさんだ。

 この店で一番の古株で、百鬼の実年齢(43)と変わらない筈だ。


 「お前、さっき転んだのか? スーツの後ろが汚れているじゃないか」


 俺のロッカーに、替えのスーツが入っているから、着替えて来い。と、ロッカーの鍵を渡してくれたので、有り難く借りる事にした。

 徐々に客も増えていき、他のホストもヘルプとして客の席に付き始めたので、早く着替えて来なければ。

 百鬼は、その場を静かに離れた。


 ロッカー・ルームは、店の隅っこの方だ。見た目は華やかな世界だが、彼らのロッカーは殺風景なものである。

 百鬼は部屋に入ると、すぐにアキトのロッカーまで向かう。ドアを開けて、まっすぐ歩いた突き当たりのロッカーが、入店当初から使っているアキトのロッカー・ルームだ。

 ガチャッと、鍵を開けて目当てのスーツを出す。

 グレーの地味な生地だ、型も少し古いかもしれない。百鬼は、すぐに着替えようと、グレーのスーツに腕を通す。長いこと着られてないのか、袖通しが悪く少し苦戦する。

 すると、その拍子に胸ポケットから何かがポトリと落ちた。 


 「‥‥‥?」


 何が落ちたんだろう? 彼は確認しようと、体を屈ませ落ちた物を拾った。

 ‥‥‥だが次の瞬間、百鬼に戦慄が走る。


 何故こんな場所に、こんな物騒なモノがあるのか? いや、それよりも何故〝麻薬〟がアキトさんの服から見つかったのだ?

 ‥‥‥百鬼の記憶が正しければ、この麻薬は彼が20年近くも探していた《魔女の鉤爪》ではなのか?


 ‥‥否、違う。似ているが、透明の小袋に入った青白い粉は、おそらく類似品。

 当時、裏の世界で騒がした麻薬は、百鬼を

含む数人しか知らないからだ。どうせ、便乗商法で売り捌こうとしたんだろうが‥‥‥


 問題は、誰がコレをアキトに渡したということ。

 ‥‥偽物か、類似品か? 答えは定かではない。だけど誰が持って来たかは、確かめる方法はある。

 そう思い立った百鬼は、とある人物にすぐさまコンタクトを取った。



 ‥‥‥一旦、着替えに戻ってから10分後。百鬼は何食わぬ顔で店に出た。

 

 「遅いぞ、モタモタすんな。今忙しんだから、どこでも空いてる席にヘルプ行け」


 支配人は、早く仕事に戻れ。とホールの方に顎をしゃくる。

 ホールに目を向けると、慌ただしく動きまわるボーイたちが、トレイ片手にフルーツや酒を運ぶ。

 わかりました。それだけを言うと、百鬼は先輩ホストのいる席へと向かう。


 「ユウヤです、ヨロシク」


 頭を下げて、席に座ると客の女性は「あら」と頬染めて百鬼に微笑む。

 それを見た先輩ホストは、チッと舌打ちをし客に釘を刺す。

 

 「佳苗さん、コイツはヤメといた方がい よ。見てよ、女にダラしない顔してるでしょ」


 客を横取りされない為に、イヤミたっぷりに言う先輩ホストに「そんなことないですよ 」と言葉を返す。


 (俺。香水臭い女より、アンタの方が好み)


 裏の仕事絡みじゃなきゃ、この場所は百鬼にとって、パラダイス☆思い切って、転職しましょうか? 


 ユウヤさん、ご指名です。

 

 ボーイの声に振り返ると、1人の見知った女の子の姿があった。


 「いらっしゃい、沙織ちゃん」


 それは《本田留美子》と深く関わっている、衆議院議員《古賀浩一郎》の孫娘《古賀沙織》だった。 



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