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如何様物(いかさまもの)⑤

 その日《本田涼介》は、一人で里親になってくれる木下家に向かっていた。

 本来なら《ことり園》の誰かが付いて来てくれる筈だったのだが、慢性的な人手不足の園なので、彼の方から丁重に断りを入れた。


 バス停を二つ乗り継ぎ、閑静な住宅街を歩いて五分の所、そんな遠くない筈だ。


 思えば、涼介は物心がつく頃から〝家〟は《ことり園》だった。父親は知らないし、母親は亡くなったと聞かされた。

 ‥‥‥哀しいというよりは、赤ん坊の頃だったので、分らないと言った方がよかった。

 今回の里親の話も寝見に水で、自分にしてみれば腑に落ちない点も多々ある。

 考えてみれば、自分は成人間近の人間であり、普通は養子に貰うとしても幼い子供を貰う筈である。

 何か意図がある筈だが、答えなんて当人にしか知り得ないことではあるが。


 養子先の家まで、あともう少し。というところで涼介は、ある違和感に気が付いた。


 ‥‥‥自分の目の前に、自分がいる。


 涼介は目を瞠り、目の前の現象に驚愕する。これは、何の冗談だ? と。

 目の前の自分は、同じ顔に髪型、服装までもが全く同じ。時折見せる、爪を噛むクセも、よく周りの人間から指摘されるものだった。 

 一体、どこから現れたのだろう? もちろん、こんな道端に鏡なんてある筈もなし。

 これは、俗に言うドッペルゲンガー現象だというのか?

 涼介はガタガタと肩を震わせ、目の前の状況を呑み込もうと必死だった。

 するとドッペルゲンガーは、涼介の心を見透かしたかのように嘲笑う。


 「必死だな、涼介」


 「‥‥なぜ、俺の名前を知ってるんだ? お前は何者なんだ?」


 俺は、如何様物いかさまもの。本田涼介、お前に成りすまし全うする者。


 ドッペルゲンガーは、隠し持っていたバレットナイフを取り出すと、涼介目掛けて切り付けにかかった。


 ギャアァァァッ‥‥‥!!!


 住宅街に、涼介の断末魔のがコダマする。



 


 ‥‥‥‥今、大分落ち着いたところだ。最初の頃は、暴れて大変だったらしいが。


 養護施設《ことり園》にて、二人の男が話している。一人は犬居刑事、もう一人は《百鬼》こと森本鉄郎。

 二人が話しているのは、襲撃された《本田涼介》のことだ。


 襲われたのは、実は少し時間が経ってからのことだ。見るも無惨に顔を斬り付けられた涼介は、息も絶え絶えの状態で見つかったという。

 あまりの事に、園長は犬居に打ち明ける勇気がなかったらしい。


 最初は、通り魔ではないか? という見解だったが、それにしても傷が酷すぎる。警察としては、怨恨の線で犯人を探している。

 そして涼介は今、病院のベッドで顔に包帯を巻いた痛々しい姿でいる。

 今の精神状態では、手術は無理だという医者の判断からだ。今も彼は、病室で窓の外を眺めている。

 《面会謝絶》の札を下げて。




 「なぁ、鉄郎。お前か? 栗栖要に涼介を襲わせたのは?」


 百鬼は、項垂れるように頭を横に振る。そんな訳があるか。と彼は言い放つ。 


 「涼介は、留美子の忘れ形見だ。俺はアイツの後見人になってくれって、言われたんだ。俺には、アイツを見守る義務がある」


 犬居はチッと舌打ちし、バキッと百鬼の顔を思いっきりブチ殴った。バカ野郎! と‥‥


 イテッ! 思いっきりグーで殴られた百鬼は、ただボー然と犬居を見つめた。

 そして、犬居はこう言い放つ。

 子供の責任は、親の責任だ。と‥‥‥


 「鉄郎、俺たちは栗栖を捕まえることも咎めることもできなかった‥‥‥でも、お前にはアイツの行動を捉える事ができたんじゃないのか?」


 だがな、俺たちは栗栖の奴を責める訳にはいかない、久保田の思惑にまんまと乗せられたんだから。

 まさか、久保田が涼介を襲わせるなんて思いもよらなかった。


 「アニキ、分かってるさ。カナは単に久保田に躍らされているだけって事を‥‥‥」


 犬居は言った。

 アイツの目的の先には、涼介の母親‥‥‥つまりは、本田留美子の恋人が関わっていることなんだ。

 久保田は、その男に留美子が麻薬を託していると思ったんだろう。ところが、ヤツはそれに関しては完全にシロだった。

 それでも、まだ久保田はまだ諦めてないらしいがね‥‥‥なぁ、知ってるか? 留美子の相手が誰かを?  


 「古賀恭介。衆議院議員、古賀浩一郎の娘婿だ」

 

 それを聞いた瞬間、自分の中に通っていた血が、サーッと引いていくのが分かった。


 留美子と古賀浩一郎が、繋がっているのは知っていたが、よもや留美子の恋人までもが繋がっていたとは‥‥‥

 一体、古賀は何を考えている?


 「古賀は、俺にとって疫病神だ。あの男が生きている限り、平穏な日が訪れるとは思えない」


 犬居は、気落ちする百鬼の背中をポンポンと叩き「俺もだ」と、答えた。


 「古賀グループの息が掛かった木下は、元は負債を抱えていて、一家離散になるんじゃないかって噂もあったんだ。そんな家が急に養子を迎えるなんて、変だと思わないか?」


 確かに、おかしな話ではある。

 園長の話じゃあ、羽振りのよい経営者と聞いたのだが。それに古賀が関わってるというのか?

 だとしたら、その真意は?

 ‥‥あるいは、やはり《涼介》は古賀浩一郎の実子であり、奴が涼介に何かを仕掛けようってのか? 答えは、当人が知るのみ。


 「これは、ある筋からの情報だが。つい最近、留美子の顔をした人物が古賀家の周りをウロついているらしい。俺はカナが怪しいと思うんだが‥‥」


 「確証は、あるのか?」


 「今は、ない。だが、必ずカナは『マーロン』に現れる。なんせアイツの帰ってくる家は、あそこだけだからな」 


 

 ‥‥‥そして、百鬼が言った通り《栗栖要》は、アンティークショップ『マーロン』に現れた。

 《本田留美子》の、顔に模した姿で‥‥‥


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