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如何様物(いかさまもの)④

 ‥‥それは、台風の目が来たような衝撃だった。


 その日のアンティークショップ『マーロン』は、とてもヒマで、いつもなら女子高生や仕事帰りのOLで、賑わう時間帯なのに。

 その日に関しては、ドラマの撮影があるとか何とかで皆そっちに行ってしまい、すこぶるヒマであったので、烈(長男)と海(次男)には、次の仕事の下見に行かせた。


 刑事の久保田が、連れてきた栗栖要に関しては、ここ最近は姿を見ていない。それどころか行き先も皆目見当も付かず、探しようもなかった。


 「あ〜あ、今日は暇だなぁ。今、売り出し中のアイドルのドラマだろ? 俺、観ないよ。あんな面白くないドラマ」


 つまんなさそうに、あくびを噛みしめる百鬼に戸塚も、蒼と紅の二人の赤ん坊をあやしながら頷く。


 「う〜ん、千夏司(三男)も遊びに行っちゃったしな。昼飯は出前でも取るか?」


 そうだな。百鬼が出前を取ろうと、ピンクの公衆電話のダイヤルを回そうとした、その時。後ろの方でドサッと、何か音がしたような気がした。


 「なんだ、外の方か?圭吾、外を見てきてくれ」


 分かった。戸塚は、そういうと外に出た。そして彼の瞳に映ったのは‥‥‥


 「烈‥‥嘘だろ? 鉄郎! 早く来て手伝ってくれよ。チクショウ! 一体、誰にヤラれちまったんだ!」


 先に外に出た戸塚からは、悲鳴にも似たような、悲痛の叫びが聞こえてきた。


 「圭吾、どうしたんだ?」


 恋人の叫びに、百鬼は慌てて飛び出した。

 そして、彼は見てしまった。泣きじゃくる戸塚の腕に支えられ、頭から大量の血が流れて血塗れとなった烈の姿を‥‥‥

 ‥‥‥!! 百鬼は、自分の血が凍るような想いがした。

 

 ‥‥‥酷い、誰がこんな事を!!


 赤くなってしまった、烈の顔をハンカチで拭おうと懸命にしている百鬼の背後を、一つの影が建物の死角から覗いている。


 「レツ。一体、誰にやられたんだ? ママ(?)の声が聞こえるだろ!」


 百鬼の懸命な声に応えるように、瞼を開け微かに動いた口からは、ヒナと聞こえたような気がした。


 「ヒナ? おい、ヒナって何のヒナだよ。あっ!鉄郎、今日の昼飯は比内地鶏の親子丼が食べたい」


 一体、こんな時に何を言ってんだ。コイツは!


 「今、それどころじゃないだろ? 早く中に運ぶの手伝え!」


 「でも、鉄郎。コイツの血のり、やけにケチャップ臭いんだよ。お前は動転してて分かんないだろうけど、こっちは腹減ってるしさ。早く出前頼も〜」


 は‥‥‥? あんだって!!?


 百鬼は、ホッペに付いてる血のりを指ですくい、ペロリと舐めてみた。

 血のりと思ったソレは、ちょっと水っぽいケチャップだった。


 「‥‥‥ホントだ、甘い」


 だろ? 昼は、久し振りにナポリタンも食べたいなぁ。ほら、半熟目玉焼き乗ってるヤツ。


 呑気に話す戸塚に、百鬼は叱咤した。烈をベッドに寝かすのが先だ。

 ‥‥‥オムライスもいいかもね。

 でも一体、誰が何の為にこんな事を?

 その答えは、すぐ後ろにあった。


 「こんの、腐れ外道が! お前らに、あの子と暮らす資格なんかない!! へなちょこ兄貴と男夫婦なんかに安心して預けられるか!」


 建物の死角から、彼らの目の前に現れたのは、黒のライダースーツに、黒いサングラス。見るからに怪しげな短髪の女が立っていた。


 怪しいアンタに言われたかね〜よ。

 (怖くて、本人に言えねえけど‥‥)


 「アタシ、今すっごく幸せなの!!」


 幸せならE~じゃん!!(ブーブー!)それと、俺ら襲撃すんのと関係あんのかよ?


 「それなのに、アンタらときたら! のらりくらりと仕事しやがって、さっきも〝暇だから、出前でも取るか?〟だって? それよりも彼の護衛に行けよ。彼が誘拐されたら、どーすんだよ?」


 もしかして、モンスター・ペアレント? いや違う、もしかしてコイツは!!


 「鉄郎、コイツ。この前の盗聴ヤローだ。ストーカーだ!」


 「アンタら、気付くの遅すぎ! また盗聴器を仕掛けられたのも知らないでさ」


 ‥‥あの、ところでアナタ様は、どちら様ですか? と聞く、彼らに女はサングラスを外し答えた。


 「アタシの名前は、小山日菜子。カイの彼女よ」




 ‥‥‥あれから、百鬼と戸塚の両名。ならびケチャップ男の烈は、アンティークショップ『マーロン』の客間にて正座して、仁王立ちの《小山日菜子》は対面する形で立っている。


 「アタシ、最初にこの仕事を引き受けた時、男ダマして情報引き出すだけの簡単な仕事だと思った。でも、カイと付き合っていくうちに彼に本気になってたの」


 ‥‥‥ところで、海は最初から調査員って知ってたよな? なんで利用されるって思わないんだろ?


 「あらアタシは、ちゃんと名乗ったわよ。探偵事務所の調査員をやっている、って。でも、まさか自分も調査対象になっているなんて知らなかったみたい」


 「まったく。一体、誰だよ? ウチの調査依頼したヤツ!」


 「アンタん処、相当怨まれてるから聞かない方がい〜よ。もっとも今回に関しては依頼者の方が、他で潰されたからい~けど。アンタに捨てられたオトコなんて山程いるんだから」


 百鬼は、自分で聞いて後悔した。隣の恋人の視線がイタい。


 「それで今日は日菜子さまは、どんなご用事で、いらっしゃったんですか?(百鬼)」


 すると、日菜子は急に真顔になり、話し始めた。


 今ここに巣食ってる〝如何様物〟の栗栖要が行動を始めたって聞いたの。マスターは知ってるんでしょ? 彼が何者なのかを、誰が依頼したかも。


 百鬼は、神妙な面持ちで彼女を見た。


 「俺もつい最近、聞かされたばかりだ。それに関わってる刑事が、悪過ぎる相手だ。どうせ、俺らの事を調べたんだろ? 下手に手を出せば捕まるどころじゃない、やってもない事件までも擦り付けられるぜ」


 ‥‥‥だから、私がここにいるんでしょ?


 百鬼は、目を瞠った。


 「お前は、何を言ってんだ? さっきの話は聞いてなかったのか、俺たちと行動すれば否応なしに警察に追い掛けられるぞ?」


 「私なら大丈夫よ、そんなヘマは踏まないわ。それよりもカイが心配だわ、筋肉バカの兄貴と違って繊細な子なんだもの。あの子を護る為なら、何だってするわ」


 何気にヒドい言葉を掛けられ、ケチャップ男、意気消沈。


 「それにしてもヒデぇ、ウチの長男をこんな目に合わせるなんて、未来の嫁失格だ。あと食べ物を粗末にするな」


 あら、貴方たちを試すつもりでやっただけよ? だって、これから何が起きるか分からないでしょ? 例えば、死んだ筈の人間が現れるとかね‥‥‥


 それは、どういう事だ? そう聞こうとした時。店の方から、気の抜けた声で「ただいま〜」と言う三男の声が聞こえてきた。

 

 「さっき、そこで海兄ぃと会ったんだ。これ、お土産のトンカツ弁当」


 三男の千夏司は、買ったばかりの新品のゲーム機を大切に抱え、隣にいる次男の海は、五人前のトンカツ弁当を抱えている。


 「あ〜、弁当。腹減り過ぎて死にそう」


 パパの圭吾は、今ある状況そっちのけでトンカツ弁当に食らいつく。


 「あれ? 烈兄ぃ。ケチャップ臭いけど、何してたの? 食べ物を粗末にしたらダメだよ」


 何気にダメ出しする千夏司に、百鬼らは首をブンブン振り、違うよアイツだよ。と指差すと、諸悪の根源はいつの間にかいなくなっていた‥‥‥


 「あれ? おっかしいなぁ、確か‥‥」


 その時、違う場所で次男・海の奇声のような声が聞こえてきた。


 「あ~、日菜子さん。どうしたの? 来てくれるんだったら迎えに行ったのに」


 いつもより、1オクターブ高い声で喋る息子に百鬼一同は、ゲンナリした目で見つめた。

 それよりも気になったのは、歌舞伎役者真っ青の日菜子の早着替えだった。

 先程までのライダースーツはどこへやら、今は白いワンピースに、スワロフスキーの髪どめをアクセントにした清楚な女性に仕上がっている。

 

 「ここじゃ何だから、俺の部屋に来てよ。あっ、待って! 部屋片づけるから」


 そういうと、海は慌てて自分の部屋に駆け上がっていった。

 ちなみに部屋は息子が増えたので、増築した。

 部屋割りは、三階部分は息子ら三人。二階部分に主寝室と赤ん坊らが大きくなった用の子供部屋。栗栖要は、急だったので屋根裏部屋。


 ‥‥‥どう見ても、海の方が《小山日菜子》にハマっている様子。

 このまま、居座られるのはマズイぞ。と考えている時、百鬼の携帯がピロピロリンと鳴った。

 ‥‥‥それは、刑事の犬居からだった。

 百鬼が、ピッ!と出るなり、犬居はこう言った。


 『何も聞かずに、《ことり園》に来い!』

 

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