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【 6 】 闘気

 俺とヴァイスは今、コナーと共に夜の市街地にいる。


 あの襲撃騒動の後、ドラゴンだと思われた魔物の死体は回収され、“ワイバーン”というドラゴンの亜種のつがいだとわかったらしい。しかし、何故ガルダの縄張りでもある霊鳥王国に侵入してきたのかは調査中とのこと。噂好きのおっさんがその辺で自慢げに披露していた話だから、真実かどうかはわからない。コナーの呟いた言葉が俺の耳に残った。


「この星における食物連鎖の頂点の一角である霊鳥ガルダの縄張りに、知能の高いワイバーンが番で現れたということにはそれなりの理由があるはずだ。これが不吉の前兆でなければいいんだがな。」


 ドラゴンの亜種とはいえ、ワイバーンは食物連鎖の中間くらいだそうだ。ちなみに原種のドラゴンは霊鳥ガルダと双璧を為す存在らしい。そういえば、トラロックは過去にドラゴンを倒した事があるんだったな。ワイバーン相手なら造作もなかったという事か。

 それでも、ワイバーンによって壊滅的な被害を被った町は過去いくつかあったらしい。トラロックが迅速に動いていなければ少なからず被害が出ていただろうと、コナーが言っていた。





 町は危機から一転し、お祭騒ぎとなっている。俺達もそれに便乗し、夜の出店にやってきた形になる。コナーの情報収集と、俺達にたまには羽を伸ばせという心遣いだ。ヴァイスはいつも羽を伸ばしているような気がするけどな。


 ビアガーデンの様になっている広場の一角に空席を見つけ、とりあえずそこに座った。


 酔っ払いがそこかしこで騒いでいる。どこもトラロックの話で持ち切りだ。そりゃあ、あれだけ見事な完勝を見せられたら、男なら憧れるだろう。トラロックは元々“竜殺し”とか“雷神”という二つ名を持っている。実際に戦いっぷりを見た俺は納得した。あれは見た目からして雷神だった。


 『気』というものの奥深さと、それを極めし者の圧倒的な力を改めて知った。ただし、今の俺は「トラロックすげー」とは思うものの、あそこまでの強さを渇望しているわけではない。


 トラロックが纏った…いや、“噴き出した”か。その金色の気が何なのか。その点に俺の興味が集中していた。実はなんとなく予想はしているのだが。


「こういう雰囲気もたまにはいいだろう?オレはここにいるから、二人で食べたい物を買って来るといい。」


 コナーはそう言うと銅貨が入った巾着を俺達に渡した。


「お祭のお小遣いみたいですね。」

「ははは。そうだな。嫌か?

 あ、オレの分も頼む。何でもいいから。」

「わかりました。適当に買ってきます。」


 そんな遣り取りをした後、俺はヴァイスと共に出店を見て回る。ヴァイスが何でも欲しがったが、そんなに食いきれるのかと聞くと黙った。違うものを見る度に言うので、爆弾オニギリとドラゴンの形をしたタイ焼きを買うと大喜びでコナーのいる席に走っていった。子供みたいなリスだな。


 俺はと言うと、今日倒されたワイバーンの串焼きと、ピザの様なお好み焼き、6個入りのたこ焼きみたいな物をそれぞれ二人分と、ビールを一つ買って席へ戻った。


「ん?お前はビール飲まないのか?」

「俺はまだ未成年ですよ!」

「ここでは十六で成人だ。それに、この国なら成人まで酒はダメと言う決まりもない。

 気にせず飲んでいいんだぞ?」

「…いえ、まだ成長期なのでやめておきます。」


 成長期の飲酒は良くないと聞いた。未成年の飲酒はダメ、ゼッタイ。決してイタズラで口を付けたビールの苦さにトラウマがあるからではない。


「そうか。いつか、オレと一緒に飲んでくれよ。

 かつて、カールとは一緒に飲んだもんだ…」


 コナーが少し寂しそうに遠い目をした。そうか、父と飲んだ様に俺とも酒を酌み交わしたかったのか。正樹を無事迎えに行くことができたら、その時は一緒に飲もう。…たとえ二十歳になっていなくとも。


「正樹を迎える時は盛大に祝いましょう。その時に。」

「あ、ああ。そうだな。」


 その後は買ってきた物を食べながら、コナーのドラゴン講座や食文化講座を聞いた。


 原種のドラゴンと呼ばれる竜種の生態は不明な事が多いらしいが、この星で英雄と呼ばれる人物は皆ドラゴンの血を浴びたり、肉を食ったりしているそうだ。どこかで聞いたことがある話しだな。たしか、その代わりに呪いを受けるんだ。コナーが言うには呪いなどないそうだが。

 ワイバーンの串焼きが美味い。肉は固めの鶏肉の様だが、スパイスと塩加減が絶妙だ。

 このワイバーンの肉、高い滋養強壮効果があるらしい。亜種とはいえ、やはりドラゴンの一種という事か。どんな原理なのか気になる。そういう成分が含まれているだけなのだろうか。試しに気を視てみたが、何も視えなかった。


 たこ焼きの様なものを食べた時は吐きそうになった。いや、二つ目までは美味かったんだ。食感はタコのようで、味はエビに似ていた。中身が気になって、三つ目をほじくったのが間違いだった。


 ――中には丸まった芋虫が入っていた。

 もっとも、既に二つも食べているのだからと言い聞かせて完食したが。


 ヴァイスは爆弾オニギリを完食し、ドラゴンの形をしたタイ焼きを食べている。平和だ。実に平和だ。


 こうして、霊鳥王国ガルダの宴は夜通し続いた。





――――――――――――――――――





 翌日。

 俺は今、道場の応接間でトラロックを待っている。トラロックは今日王城に呼ばれているのだが、道場を出るまでには少し時間があるらしく、話を聞けることになった。

 やがて、ずんずんと足音をたててトラロックがやってきた。向かい側のソファにドスンと座る。


「おう。何を聞きたいんだ…

 お!上出来だな!しっかり気を纏ってやがる。」


 トラロックは上機嫌だ。


「昨日の闘い、流石でした。」


「ちょっと弱い者苛めになっちまったな…

 あの野郎、師範!ドラゴンです!なんて呼びやがって…

 大体ドラゴンが近づいてるなら感知できるっつうの。

 ワイバーン2羽ならメツトリでも倒せたじゃねえか。

 まあ、ちゃあんと町の皆で命を分け合ったから善しとしてくれ。」


 トラロックはそう言いながらポリポリと額の端を掻いた。俺はそんなトラロックにストレートな質問を投げかけてみる。


「昨日、師範が纏っていた金色に輝く気は…闘気ですか?」


 それを聞いたトラロックの表情が一瞬固まった後、徐々に怪訝な顔になっていく。


「お前…気が視えるのか?」


「はい。師範代も知っています。」


 しばしの沈黙。怪訝から困惑へと変化するトラロックの表情。しかし、トラロックが徐にガハハッと笑い出した。


「お前、面白いな!

 ついこの間は気も纏ってなかったってのによ。

 しかし、あれが闘気だとよく分かったな!」


 トラロックは尚も笑っている。何がそんなに可笑しいのか。それにしても、俺の予想通りだったか。


「分かったというよりも…勘です。

 色が闘気とそっくりだったので。」


「おう。普通の闘気じゃ、ああは輝かねえけどな。

 …ん?ああ、もうすぐ時間か。」


 いつの間にか入口にメツトリが立っていた。


「ユウキよ。あの闘気を纏うのは簡単にはいかねえぞ。」


 トラロックは急に真剣な表情と声を取り繕ってそう言った後、立ち上がるついでに上半身をこちらにぐいっと寄せ小声で呟いた。


「…コツはな、練って溜めて爆発させるんだ。」


 そのまま立ち上がると、またガハハと笑いながらメツトリと共に去って行った。



 練って溜めて爆発させる?表現がヴァイスとどっこいどっこいだ。俺は新たな疑問に頭を悩ませながらも、後に繋がるヒントを得た。トラロックの金色の闘気は、俺にとって魔闘気よりも習得しやすいかもしれない。

 しかし気というのは本当に奥が深そうだ。自分の工夫次第で色々変化させることが出来るんじゃないだろうか。魔闘気のことなど、他に色々と疑問はあるが今はここまでわかれば十分だろう。


 トラロックとメツトリが出掛けた後は、ヴァイスと共にいつもの稽古に励んだ。






――――――――――――――――――







 その晩。


 初級法術“淡く照らす者”の練習をしていた俺は、ふと法術入門書のあるページを開いた。


 初級法術“解析する者”のページだ。


 法術の効果は『指定した対象の状態概要を知ることができる』というものだ。“淡く照らす者”の反復練習だけではなく、別の初級法術も少しづつ試した方がいいだろう。そして、この“解析する者”の効果は非常に興味深い。俺のイメージでは、おそらく対象のパラメーター的なものが分かるものだと思う。


 発動には条件があり、対象物に魂力を触れさせてから術式を組む必要がある。基本的にはどんなものにも使用可能らしい。


 俺は部屋の片隅にある観葉植物に触れて、術式を組んでみた。


「『我が魂力が導くは此の事実。我に知を。』」


 術式を組んだ途端、心に響く声のような声が聞こえた。いや、もっと機械的な抑揚のない声だ。


{ネム目ネム科 名称:ソムヌス草。 多年草 高原植物ネム草の亜種。温暖な地域に広く自生する。煎じれば睡眠薬となる。}


 すごい。図鑑いらずじゃないか。こんな法術が初級なんて信じられない。人間にも使えるのだろうか。俺はページを隈なく読む。


「…あ。」


 駄目だった。【この法術の適用範囲は魂の宿らない物に限られます】としっかり書いてあった。


 ん?


 どうやら、この術の上位に当たる上級法術“見透かす者”ならば可能らしい。さらに複合上級法術には“知る者”がある様だ。それ以上の詳しいことは書いていなかった。ただ、反対法術“隠蔽する者”があるらしく、対人で使うには簡単なものではなさそうだ。


 俺は少しがっかりした気分を紛らわせる為、他数種類の術式を組んだりして過した。



 入門書に記載のある法術には、俺がイメージしていたような火水風土などの属性術はなかった。本当に入門用のちょっと便利な法術しか載っていない。ここから考えると、法術はものすごい数になるだろうと予想できる。


 まあ、止血や目くらましなどの、ちょっとした治療系や防御系の術が載っていたからよしとしよう。


 入門書の使えそうな術を覚えたら、他の色々な術に挑戦していけばいいのだ。



 そうして俺は“淡く照らす者”での魂力の操作練習を再開した。


 地道な基礎訓練こそ、最も重要なのだから。

次話からいよいよ戦闘訓練開始です。


次話投稿は11月9日の予定です。

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