【 5 】 兆し
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《半年に一度の新月の夜
三つの月は姿を隠し
世界が闇に包まれる。
夜空に見えるは
数多に煌めく星達のみ。
それは闇の侵食を拒む小さな光》
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「『我が魂力により創り出すは淡く照らす光。魂と波の混沌より、我が魂力が導く掌に新たなる輝きを灯せ。』」
おお…手の平に溜めた虹色の煙…魂力が淡く光った。
遂にできたぞ!
闘神流トラロック道場に通う様になって五日目の夜、俺はいつもの様に法術習得の為の訓練を行っていた。今、初級法術“淡く照らす者”の術式に初めて成功したところだ。気の操作と魂力の操作の違いがわかり、ようやく術式の構築までできた。
『気』に関してもかなり上達した。ただし、闘気を練り上げるまでは出来るようになったのだが、全身を纏うところまではいっていない。纏おうとしても斑の様になってしまう。ちょうどアルデバランの様な状態だ。まあ、気の操作は俺の方が上手いが。
全身を闘気で包む為には全身の気をまとめて練る必要があり、簡単に言えば“練りムラ”ができやすいのだ。師範代から、明日は組み手稽古ではなく瞑想によって気を練る稽古を集中的に行うと言われた。
驚くべきはヴァイスだ。既に完璧な闘気を纏っていた。気の操作も上手く、気を視る事もできている。まあ、初日に気の色について言っていたから視えることには驚かなかったが、樹上族の成長には脱帽するしかない。
そうそう、師範代…メツトリと少しづつ打ち解けてきた。俺は元来人懐っこい性格ですぐに他人と仲良くなれるタイプなのだが、メツトリは自分の周囲に壁を作るタイプで、俺に対しても一定の壁があることを感じていた。それが、今日になってポツリポツリと自分の話をしてくれるようになったのだ。
厳しさを内に秘めた優しき美女の悲しい過去を聞いてしまい、複雑な気持ちになった。
なんでも彼女は捨て子だったそうで、旅の途中だったトラロックに拾われ育てられたらしい。10歳頃に自分がアボラドゥラという少数民族の血を引いている事がわかりトラロックと共に集落を訪れたが、裏切り者の子供と罵られ、以降一切接触しないと誓ったそうだ。それからはトラロックの下で魔人空手の修行に明け暮れる毎日だと言っていた。
気になったのでトラロックの歳を聞くと、784歳というとんでもない答えが返ってきて驚いた。そりゃあ強くもなるよな。メツトリの歳?女性に歳なんて聞けるか!俺はデリカシーある男だ。
…51歳らしい。トラロックの歳を聞いた後、メツトリを見つめたら教えてくれた。俺の母が生きていたとしたら、それよりも年上だ。見た目はどう見ても20歳前後の美女なのに。いや、歳を聞いて複雑な気持ちになったわけではないぞ。決して。
それにしても、アボラドゥラの女性は皆似ているのだろうか。クレーターで俺を襲ったヤツはメツトリそっくりだった。メツトリにストレートに聞いた時は「何があろうとも不意打ちが如き突然の攻撃など致しません!」と怒られた。
しかも、メツトリは火球を飛ばす魔術など使えないそうだ。…というか、魔術は一切使えないらしい。「治療系の法術なら少々は…」と恥ずかしそうに言っていた。
そんな事を思い出しながら、繰返し“淡く照らす者”の術式を繰り返す。成功率は未だ60%程度。まだまだだな。
こうして夜は更けていった。
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高校の教室で俺が仲間達と騒いでいる。それを教壇から見る俺。
…またこの夢だ。しばらく見なかったのにな。
眩い光と共に教室の中心に異形の者が現れる。
やはり全く同じ夢か。
異形の者は俺に手を伸ばす…
どうにも癪だな。もしかしたらコイツ、俺を乗っ取るとか、魂を喰うとか考えてるんじゃないだろうな。今回は殴り飛ばしてやろう。そうして身構えようとすると、フッと場面が変わった。
真っ暗な空間に浮かび上がるように俺と異形の者が睨み合う。
あれ?この空間、覚えがある。
ああ、自分の意識の底の更に奥深く、初めて自分の魂を感じることができたあの場所によく似ている。違うのは、光の筋も光の玉もないということ。
目の前のコイツは何者なのか。そうだ、魂を見た感覚を思い出せ。意識と思考を捨て、感覚だけを研ぎ澄ますんだ。何か分かるかもしれない。
うっすらと赤黒い光の筋を感じる。
そんな…
ヤツから伸びる赤黒い光の筋は、俺に繋がっていた。
「余はウヌ。ウヌは余。
心眼を用いたところでそれを確認するだけのこと。
次に闇が世界を包む夜、ウヌが力を欲すれば
全てを教えてやろう。」
今度は精霊語でそう言い残すと、ヤツは霧のように消えた。
ヤツは俺で、俺はヤツ?
おかしなことを言う奴だ。俺は二重人格者じゃないぞ。猫を被ることはあっても、決してもう一人の自分などいない。
馬鹿馬鹿しい。
俺は一抹の不安を抱くもそれを一笑に付し、眠りへと戻っていく…
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《全てを覆う新月の闇は
夜明けと共に静かに終わる》
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…頭が痛い。俺は意識の底の更に奥深くで碌でもないものを見た様な不快感を感じながら目覚めた。嫌な夢を見ていた気がする。
ッ!!…またこれだ。夢の内容を思い出そうとすると頭痛がひどい。
何か分かるかもしれないと思い、魂力を引き出した時と同じ瞑想をしたが、俺の魂や精神、魂力や気の流れはそのままだった。
痛む頭を抱えながら朝食を摂っていると、ヴァイスとコナーに心配された。
あまり心配させては悪いと思い、俺はコナーに頼んでおいた本『魔人誕生の秘密』について話を振る。
「ユウキ、急ぐ気持ちは分かるが、あまり根を詰めるなよ。
『魔人誕生の秘密』は魔人の国パイス・デル・ディアブロからの取り寄せだ。
4日前に発注したから、あと3日程で届くと思うぞ。
テスカポリトカの本なんて、随分マニアックな本を読みたいんだな。魔人族の彼女でも出来たのか?」
最初は心配しておいて、茶化すような口調でコナーが尋ねてきた。このイケメンオヤジ、何を言ってるんだ。メツトリは彼女じゃない。俺の先生だぞ!
「いやいや、正樹を迎えに行くまでは色恋沙汰はしないと決めているんです。単純な俺の好奇心ですよ。道場でオススメされたんです。」
…嘘は言っていないぞ。俺は自分の気持ちが分からない程鈍感ではないせいで、今非常に複雑な気持ちではあるけどな。51歳のメツトリからしたら、俺なんてお子様だろう。いや、赤ん坊かもしれない。彼女なんて…無理に決まってる。それに、正樹そっちのけで恋愛できるほど俺は器用じゃない。
しかし、コナーのおかげで夢の事を考えなくなったからか、頭痛はしなくなっていった。
「テスカポリトカって聞いたことがありますよね。」
「ああ。アステカ神話の神と同じ名だな。
アステカ神話も、もしかするとこの星の何らかの出来事なのかもしれんな。詳しいことはオレも知らんが、テスカポリトカは魔人の作家としても相当古い。1500歳を越えてなお存命らしいしな。『魔人誕生の秘密』だって、何百年も昔に発行された本だぞ。しかし…魔人語で書かれているのに大丈夫か?」
…しまった。メツトリがあまりにも当たり前に精霊語で話しているから考えていなかった。魔人族が使っているのは違う言語なのだ。
「魔人語の翻訳辞典はないんですか?」
「そう言うと思って一緒に発注しておいた。魔人語と精霊語の翻訳辞書だ。高かったぞ。」
流石。やることもイケメンじゃないか。じゃあ「大丈夫か?」なんて聞くなよと思ったのはこの際飲み込んでおく。
「ありがとうございます。お金は必ず返しますよ。」
「冗談だ。高かったのは本当だが、うちの店はこう見えても儲かっているんでな。ユウキやヴァイスを養うくらいどうってことない。弟・・・マサキだったな。マサキが来てもまだ余裕があるくらいだ。贅沢しなければ、だがな」
「心強い限りですね。でも、いつまでも何から何までお世話になるのは、俺自身が許せません。」
「そうか、じゃあ“いつか”返してくれればいい。」
わざわざ「いつか」を強調したな。…コナーは俺達を息子として見ているのかもしれない。父にどれだけ義理を感じているんだよ。とは思うが、今はその厚意に甘えさせてもらおう。
俺にはまだまだ知識も力も経験も足りないのだから…。
「(ユウキ、そろそろ行こうぜッ)」
お気楽リスが早く道場へ行きたくてウズウズしだした。あれだけ目覚ましい上達が出来れば、それはそれは楽しいだろう。俺にも経験がある。
道場が楽しみなのは俺も同じだ。
「(ああ、行こう。)行ってきます、コナーさん。」
「おう。気を付けてな。」
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道場に通う様になった俺の一日は、朝食後すぐに道場に向かい、昼食まで魔人空手の修行を行う。道場にて精進料理に似た昼食をご馳走になった後は他の大勢の門下生と入れ替わりで道場を後にし、コナー書店に戻り、眠るまで法術の訓練…といった感じで過している。もちろんヴァイスも同じだ。もっとも、俺が法術の訓練をしている間は読書をしているらしい。「(ユウキが魂力を引き出せる様になったら一緒に術式を覚えようぜッ)」と言っていた。
まだ静かな大通りを歩き、道場へと向かう。6日目ともなると、毎朝散歩している人の顔も覚えてしまった。あ、あの人今日も歩いてるなー。といった具合だ。
道場に着くと、いつもの顔ぶれが揃っていた。皆早いんだよな…。俺も時間を早めようかと思っていたが、ハゲの魔人ジャブダルにやめてくれと言われた。なんでもジャブダルが練習場を開けているそうで、開けてすぐの時間に俺が来ているらしい。偶然だが、これくらいがちょうどいい時間だそうだ。
ん?一人多いな。真っ赤なバンダナを巻いた、少年漫画の主人公よろしく金髪のツンツン頭。初めて見るヤツがいる。新入りか?それにしては雰囲気が違う。もっと顔馴染みのような打ち解けた雰囲気だ。しかし、空手道場に得物持って入るなよ…。その人物は、背中にやや大振りな剣をニ本、腰には左右に刀とサーベル二本ずつの計六本もの剣を携えていた。
こちらに気が付いたメツトリが促すとその人物もこちらを向き、ゆっくり歩いてきた。
「やあ!アンタが新入りかい?
オレはブレイドってんだ。よろしくな!」
ブレイドと名乗った青年は、俺の近くまで来てバンダナを外すと愛想よくそう言って右手を出した。
褐色の肌、やや細身だがしっかりした体躯。背は低くは無いがそれほど高くなく、少し幼さを感じる様な顔つき。瞳が紫と蒼のオッドアイだ。そして、少し長くてとがっている耳にはピアスをしている。
俺も右手を出し、握手をする。この世界にも握手で挨拶って文化はあるんだな。礼での挨拶があるのだからあっても不思議ではない。
「ユウキです。限られた期間ですが、体験門下生としてお世話になっています。」
「なんでも、天空大陸に弟を迎えに行くんだってな!
天空大陸にはオレも何度か行ってるんだ。近々また行こうと思ってたし、手伝わせてくれないか?
旅は道連れって言うだろ?」
突然の申し出に俺は戸惑った。そこへメツトリが来る。
「ブレイド、それではあまりにも唐突です。ユウキさんが困惑しているではありませんか。
ユウキさん、ブレイドは当道場の門下生であり、ハンター協会に所属するハンターでもあるのです。先日、ヴィルジリオ様がハンター組合に“求ム!天空大陸への旅の護衛”という依頼を出したそうで、ブレイドはそれを見たそうです。」
あ、そういうことね。コナーも「依頼を出しておいた」とか言っていた様な気がする。それにしても、ブレイドという青年は言葉が足りないだろ。色々と勘ぐってしまったじゃないか。
「今朝、久々に道場に来たら体験入門にしとくには勿体無い二人がいるって聞いてさ。
アンタとオンザツリーのことを色々と聞いてくうちに、ギルドで見た依頼を思い出したんだよ。あ、ギルドってのはハンター組合のことな。
ティラン・ティノスに用事があるし、道中の魔物は山分けだろ?オレにとっても願ったり適ったりな依頼ってわけさ!
ま、依頼の出発日までにはまだ日があるし、オレはまたしばらく道場に通うから、よろしくな!」
ヤバイ。少し早口で身振り手振りが多いブレイドのテンションに若干付いていけない。いや、しかし驚くべきはこのブレイド、先程からずっと闘気を纏っている。全身を黄色の靄が覆っているのだ。おそらく強い。幸い、道場で彼の様子も見れそうだし、邪険にする必要はないだろう。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「じゃあ、オレはこれからギルドで依頼の受注して一旦家に帰る。
ユウキは昼には帰るんだろ?また明日会おうぜ!」
そう言いながら、ブレイドは足早に去って行った。なんか、高校の友達に似たヤツがいたな。テンションの高さやせっかちっぽい所、人懐っこい所がソックリだ。見た目はブレイドが圧勝だが。去って行くブレイドを唖然とした表情で見送っていた俺はメツトリに問う。
「いつもああなんですか?」
メツトリは溜息混じりに答える
「いつもああなのです。事あるごとに注意はするのですが…。
とてもユウキさんと同じ歳には思えません。
もっとも、ユウキさんが年齢の割に落ち着いているとも言えるのですが。
もちろん、いい意味ですよ。」
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
「ただし、才能と強さ、旅の経験は私も保障します。おそらく師範も才能は認めているでしょう。
少し、ブレイドの事を話しましょうか。
彼は5歳で自らこの道場の門戸を叩き、魔人空手を始めました。
その後、僅か3年で気の視認まで修め、10歳になる頃には魔闘気を纏っていました。
魔闘気を纏うことができる様になると、今度は単身で旅に出ると言い出します。
皆や私の制止を振り切り、半ば強引に旅立っていきました。
次にブレイドに会ったのは五年後…今から二年前ですね。
数本の剣を携えて戻ってきた彼は、剣聖の里ティラン・ティノスで修行してきたと言っていました。
さらに、15歳以上という規約をクリアできる年齢になった為、ハンター組合の正式ハンターとして登録。
以後、この霊鳥王国に居を構え、ハンターを生業とし、旅と道場での修業を繰り返す生活を送っているのです。」
「凄い経歴ですね…。」
見た目に反して、ものすごい苦労人だった。しかも、全て自分の意思でやっているらしいから、何か確固たる信念があるのだろう。俺は、ブレイドとゆっくり話してみたいと思う様になっていた。まあ、“ゆっくり話す”のは難しいかもしれないが。
その後、いつもの様に修行に入った。
さて、今日は瞑想が主だ。ゆっくりと時間を掛けることで、全身を覆う闘気を練り上げる。丹念にムラがないように練る。
―そういえば、ブレイドはずっと闘気を纏っていた。俺がブレイドの気を視るようにしてから、道場を去るまでずっとだ。闘気は流動性が高い反面、維持するのが難しい。気を抜くとすぐに黄色が散って白い普通の気に戻ってしまう。どうやっているのか、興味がある。
そんな雑念のせいでまた一から気を練り直すハメになったが、概ね順調だ。時間さえ掛ければそれほど難しいことではないのだから。
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全身を闘気で覆う感覚が掴め、練り上げる時間が短くなってきたことを実感した頃、昼になっていた。精進料理の様な昼食を頂き、メツトリやハゲ、ヴァイスと話していると、なにやら外が騒がしくなった。
大通りの方から人の叫び声が聞こえる。
「ドラゴンだ!はぐれドラゴンが町に!!」
「そんな!」
「逃げろー!」
「何で!?」
「建物の中すら安全ではないぞー!」
人々が口々に叫ぶ。…ドラゴン?俺が知るドラゴンなら、これは災害が近づいていると解釈していいのだろうか?人々の反応から察するに間違っていないだろう。メツトリとハゲが静かに立ち上がる。
「ヤンとアルデバランは人々の避難誘導を。ジャブダルは師範に連絡ッ。急いで下さい!」
メツトリが少し焦っている。それほどの相手なのか…。しかし、俺はどうしたらいいか分からず目を泳がせる。
「ユウキさん、ヴァイスさんはヤンとアルデバランに従い避難を!」
そう言われ、俺とヴァイスは迅速に動いた。アルデバランは既に大通りに出て市民を誘導している。俺達はヤンに案内され、地下シェルターのような場所に向かって移動した。
移動の途中、何かが飛んでくる姿が見えた。遠方にもかかわらず、それが西洋風のドラゴンだとわかった。それも…二頭いる。それらが間もなく城壁の上を通過せんとしていた。
しかし今、俺の目は違うものを追っている。
米粒ほどの大きさに見える一つの人影。
遠くてハッキリは分からないが、人影が二頭のドラゴンに向かっているのだ。
俺は目に気を集中させた。気の力で向上した視力は人影を正確に捉えることが出来た。
「おい!ニイチャンあぶねえぞ!早く入れ!」
「ユウキさんお願いします!」
知らないおっさんとヤンが俺に向かってそう言うが、俺は人影の動きに夢中になっていた。
人影は…トラロックだった。
トラロックの赤い気が膨張したと思った次の瞬間、黄金に輝く気を纏った。いや、纏ったというよりも全身から噴き出している。
直後…あっという間の出来事だった。
トラロックがドラゴンに向かって跳躍する。無造作にも見える跳躍に対してドラゴンが牙を剥いたその時。ドラゴンの頭が弾け飛んだ。夥しい血飛沫を撒き散らしながら一頭のドラゴンが落下する。辺りに落下の衝撃が響き渡った。
何をしたのかはわからない。ただ、ドラゴンが大顎を開けてトラロックに噛み付こうとした瞬間、トラロックの黄金の気が一瞬更に膨れ上がったのは視えた。
もう一頭が怒り狂ったように咆哮する。大気がビリビリと震動し、心の底から恐怖が沸き起こる。直後、ドラゴンの口が赤く光りだした。
―ブレス!?直感でそう思った。しかも、あの方向はマズイ。もし弾丸のようなブレスならここに着弾してもおかしくない。
しかし、またもや一瞬で片が付いた。
トラロックは再度跳び上がると、ドラゴンの首目掛けて前方宙返り踵落としを繰り出した。ドラゴンの頭が、まるで巨大な剣で両断されたかの様に胴から離れて落下する。脳と言う司令塔を失った胴体もまた、続けて落下した。
小さめの衝撃音の後、再び大きな衝撃が辺りに響く。
衝撃の後のしばしの静寂。皆が唖然としていた。俺も唖然としていた。
…強すぎるだろ、トラロック。火力インフレもいいとこだ。
「え…?」
「あらまあ」
「こりゃあ…」
「終わった…のか?」
「やった、やってくれたぞ!」
そして、町は盛大な歓声に包まれた。
腰を抜かして涙する者や踊りながら走り回る者、程度や表現の違いはあるものの、皆危機が去ったことを大いに喜んでいた。