【 9 】 魔眼
昨晩勢いで二話分書きました。
今日と明後日に分けて更新します。
今後はなるべく一話4000字前後でいこうと思います。
「弟子…だと?」
「俺はいいと思いますけど。」
「ち…ちょっ、ディアナ、何言ってんの!?」
実戦訓練初日の日没前。
コナー、俺、アンナがディアナの言葉に対し思い思いの言葉を吐き、ヴァイスが小躍りしていた。
魔物殺しにショックを受けるも、変な女の登場でそれを乗り越え、順調な滑り出しで初日を終えられた…と思いきや、変な女アンナと再び遭遇した。
しかし、その仲間である金髪美女ディアナが良く出来た女性で、いつの間にか俺達と打ち解けてしまった。
そして、衝撃の決意の言葉を投げかけてきたのだ。
「ヴィルジリオ様。オリュンポス大陸でも指折りの法術師である貴方様に師事するのは、法術師見習いにとって夢なのです!お願い致します!
弟子は取らないと聞いておりますが…そちらのユウキ様はお弟子様ではないのでしょうか?」
どうやら、コナーの大賢者という称号は法術の使い手として優秀なことから付いたものらしい。
「お嬢さん、ユウキは弟子じゃない。そしてお嬢さんの言うとおり、オレは弟子は絶対に取らん。」
「そんな…それでは、ユウキさんは弟子でなければ何なのですか?」
「ユウキは親友の息子で、オレは後見人だ。」
「え…で、でも!」
その後もディアナとコナーの押し問答は続いたが、それを纏めた切っ掛けは意外にもバカ女のアンナが発した一言だった。
「ヴィルジリオさんが“弟子”を取らないなら、生徒ならどうなんですか?」
「む。そ、そうか。それなら…」
「「え?」」
コナーの肯定的な言葉に、俺とディアナが思わず驚きの声を漏らす。弟子と生徒は言葉が違うだけで同じ様なものではないかと思う。おそらく、ディアナもそう思ったに違いない。
「…うむ。」
コナーはしばらく考えると納得したように話し出した。
「弟子ならば死ぬまでその人生に責任を持たねばならん。そんなもん面倒だから絶対に御免だ。
生徒なら、卒業した後の人生は本人が好きに歩めばいい。」
面倒って…
「よし、法術の先生にならなってもいいぞ。」
「法術を教えていただけるのであれば、私としては是非もありません。よろしくお願い致します。」
「あ…」
自分で提案しておいて、アンナが取り残された形になったのは皮肉であった。
唐突な弟子入り志願騒動は、コナー塾の生徒という事で落ち着いた。条件として、冒険者学校をきちんと卒業してからということになったが。
どうやら、この卒業認定研修で合格点を貰えば卒業になるらしい。早ければ3週間後にはコナー書店に居候が二人増える。
二人…そう。つまりディアナだけではない。何故かアンナまで生徒になることになったのだ。
一人ぼっちになる予感に耐え切れなかったアンナの泣き落としに、コナーは屈してしまった。全く、どこの世界でも女による泣き落としは効果抜群の様だ。
「何か知らんが、どっと疲れたな。」
「同感です…しかも、訓練より別の事で疲れるとは思ってもみませんでした…」
「(ボクは賑やかになるのは大歓迎だけどなーッ)」
俺達はディアナ達と別れ、自分達のテントに戻ってきていた。お気楽リスは相変わらずだが、本当に初日からどっと疲れた。明日からは訓練に集中したいものだ。
そうして、俺はすぐに眠りに落ちてしまった。
――――――――――――――――――
翌日は何事も無く訓練を行い、ヴァイスと俺とで魔物15体1000ドラムを稼いだ。剣の扱いにも慣れてきたし、二体ほどは空手で仕留めた。
ヴァイス程上手くはないが俺も闘気による戦闘ができるとわかった。剣よりも拳が得意な俺にとってはやはり空手の方がしっくりくる。もっとも、強い魔物に対しては分からないから、今後は剣と体術の両方を使って訓練した方がいいだろう。
実戦訓練後はテント内で法術の訓練を行った。
“淡く光る者”による魂力操作が完璧になり、入門書の法術に載っている有用な法術も殆ど覚えてしまったので、今は『法術大全』の中上級法術を覚えている最中だ。上級法術である“時空を駆ける者”以外の中上級法術は全くの手付かずだった。
中級法術“吹き荒れる風”の術式を試しに組んだ時は焦った。
テントが吹き飛びそうになり、コナーから「外でやれ」と怒られてしまったのだ。“燃え盛る炎”じゃなくて良かった。
そう。中級法術には属性攻撃法術があったのだ。
今言った火と風に、土属性の“隆起する岩”水属性の“押し流す水”。術式の組み立ては簡単で、俺は術式の法則が似ている四つの属性攻撃法術をすぐに使えるようになった。
コナーが驚きつつも呆れていたのはこの際無視する。
ただし、テント内での練習ができないので、完全に日が沈んでからは別の法術を使って魂力操作の訓練を行った。中級法術“疲れを癒す光”や上級法術“見透かす者”だ。
“見透かす者”は、図鑑いらずの“解析する者”の上位法術で、魂あるものに対しても使用できる。ゲームなどでいう鑑定スキルみたいなものだ。
まずはヴァイスに“見透かす者”を使用してみた。
「『我が魂力が導くは其の魂の真実。我に知を。』」
術式を組んだ途端、機械的な抑揚のない声が俺の意識内で響くとともに、視界に精霊語が浮かぶ。
{ヴァイス・フォン・バッハ
樹上族 格闘家
修練度:9
生命力:120
魂力:87
魔力:2
体力:23
敏捷:255
知力:51
精神力:48
特殊技能:重力魔法,闘気法格闘術
アトラスの加護,世界樹の加護
魂の系譜:ユウキ・フォン・バッハ・イイジマ}
「す、すげ…」
思わず声が出た。本当にゲームの鑑定スキルみたいだ。
あ。敏捷が何かのゲームのカンストと同じ数字になっている。実際のカンストはいくつなのだろう。そもそもカンストはあるのだろうか。
そして特殊技能までわかるのか…というか、重力“魔法”になってるぞ。法術じゃないのかよ!
しかも魂の系譜って何だ!?
よくよく考えると、ファミリーネームが俺と同じだし。
色々と意味がわからないが、ある程度の統計が取れたら相手の力量を簡単に計れるだろう。次にコナーに使ってみたが、機械的な抑揚のない声がこう告げた。
{魂の真実は隠蔽されています}
コナーは“隠蔽する者”を使用したらしい。術式を組んでいるようには見えなかったが…
「オレは無詠唱だからな。情報系の法術を詠唱していてはバレるだろう?もう一度使ってみるといい。」
そういえば、俺も今では“淡く照らす者”を詠唱せずに使っている。まあ、暗算のようなものだ。試しに声に出さずに術式を組み立ててみる。
「お…」
できた。今度は隠蔽されなかったようだ。
{ヴィルジリオ・コナー・ン・ミリア
人間族 大賢者
修練度:83
生命力:3373
魂力:8675
魔力:12
体力:349
敏捷:98
知力:421
精神力:263
特殊技能:無詠唱、魂式魔法、槍術
アトラスの加護
守護者の系譜}
うん。色々とレベルが違うみたいです。
コナーのフルネームも初めて知った。
というか、魔法使えるじゃないか!と思ったが、これは法術のことか。どうやら魂式魔法というらしい。
「法術の正式名称って、魂式魔法というんですか?」
コナーに聞いてみると、「は?」という顔をされた。
「ユウキ、無詠唱で“見透かす者”を使ったのか?」
「はい。いや、それよりも…」
「本当に君ってやつは…いや、それはいいとして。魂力魔法という言葉は知らんな。
それに“見透かす者”は魂の情報を覗く術だが、対象者の名前や凡その能力を知れるだけだぞ…」
「え?」
俺は“見透かす者”の結果をコナー達に説明した。
すると、俺の説明を聞いたコナーが何故か絶句してしまった。
「ユウキ…そんな法術は無いと断言しよう。そもそも魔物や魔人族でもない種族に魔力があるというのは初耳だし、職業や修練度、それに特殊技能の情報が魂に刻まれているというのも今初めて知った。」
「え?いや、術式は間違っていないはず…」
俺はもう一度『法術大全』の記載と自分が組んだ術式を比べてみた。うん。やはり間違っていない。
と思ったのだが、術式に割り込む要素に一つだけ心当たりを見つけた。
“気”だ。俺は“見透かす者”の術式を組む際、無意識で気を視る時と同様に眼を凝らしていた。
もしかしたら法術と気には親和性があって、複合的に使えるのかもしれない。
「コナーさん、これって自分にも使えると思います?」
「試してみた方が早いと思うぞ…」
コナーは半ば呆れたように言う。たしかにその通りか。
俺は自分の手の平を“視ながら”再び暗算する様に術式を組んだ。
{ユウキ・フォン・バッハ・イイジマ
地球人 魔神族 闘士
修練度:2
生命力:582
魂力:1983
魔力:1983
体力:91
敏捷:153
知力:391
精神力:363
特殊技能:魔眼、無詠唱、魔法、闘気法格闘術
アトラスの加護、世界樹欠片の加護、プルートゥの加護
魔神の系譜
魔核:????}
うわ…
何かごめんなさい。
いや、誰に謝っているんだ。
しかし…何故こんなに魂力があるんだ?
魔力も全く同じ数だし…
それよりも何よりも。
…俺、人間族じゃないの?
地球人は人間じゃないのか?
しかも、魔人族ではなく魔神族って何。
魔法なんて使えませんけど。
魔神の加護って何!
魔眼って何。
魔核って何…
????って…
俺は、自分の意識が徐々に遠のいていくのを感じた。
世の中には知らない方がいい事もあるという。
俺はこの日、それを身を以って体験したのだった。