六月五日
人生というのは、決して劇的なものではない。予想しうることしか起こり得ないのだ。可能性といものは無限大にある。だから、人間は途中で予想するのを諦めてしまいがちだが、しかしながら、突き詰めて考えていって、極限までたどり着けば、予想できたはずなのだ。
ただ、怠惰なだけ。
そう思う。
さて、昨日また紛失、いやもうやめよう。誰もが気付いている。
盗難があった。
盗難があったのだ。部活中の更衣室から、だれもいないときを狙って鞄を物色。財布から現金およそ5000円の被害だそうだ。
酷い話だ。皆ピリピリした空気を漂わせていた。後ろの一人を除いて。
彼はいつも通り、座っているばかりで、蝋人形を思わせた。何の反応もない。
反応がなさ過ぎて怪しいような気がするのは、僕だけで、偏見に近い。事実だとしても確証がないのだから、疑うのは失礼に値するだろう。失礼だとか、そうでないとか、あまり良く分からないので、自信はないが。
とかなんとか、必要のないことをつらつら考えていたら、事態は急転していた。
「ねえ、聞かれてるよ」
と声をかけてくれたのは七首だった。
「何を?」
「アリバイ。」
いつの時も、一人ぼっちは貧乏くじだった。