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擬態  作者: つーたん
5/8

6月2日

 不愉快だと思うようなことは、自分で避けてきた。遠ざけて、遠ざけて、見えなくなる頃に、ようやく安心する。嫌なことは嫌だ。嫌いなことは嫌いだし、辛いことも嫌いだ。

 当たり前だろう。

 人間だもの。

 嫌なことを嫌だと言えなくなるまで、自分が飼い慣らされるのはあり得ない。

 『違う、それは理性だ。』と諭す奴も嫌いだ。あなたは誰の為に生きているのか、と聞きたくなる。

 『当然、自分の為だ。』と澄ました顔で言う奴はもっと嫌いだ。それは自分の為ではない。なぜなら、それは法によって治められている、社会の為だからだ。

 例えば、自分の欲求による行動が人に迷惑をかけたとする。当然、相手は嫌だと言うだろう。そこで、次からは止めようと思うのは、誰の為か。

 相手の為だ。

 なぜなら、相手が迷惑だと言わなければ自分は止めないからだ。嫌でないなら止める必要がないからだ。

 む、少し感情的になってしまった。これでは日記ではなく愚痴ノートだ。

 昔から思っているのだけれど、自分は少し感情的過ぎやしないだろうか。果たしてこれでは上手くは生きて行けまい。

 しまった。また脱線してしまった。困った困った。これは日記だ。故に今日起きたことを書かなければ。

 彼は、一言で言うなら、他人事で言うなら、『自分の為に生きていると思っている』側の人間である。勿論、そこに悪意なんて介在しないのだろうし、本人も自覚的ではないのだろうが、やはり、だからこそ許せない部分はある。

 今日も彼は僕と並んで帰った。何故だか彼は口が重たさげで、僕が話しかけても虚ろな反応しかしなかった。

 虚ろなというか、

 骸というか。

 いや、冷静に考えれば僕の視点から言えば、まず間違いなく周りの人間は全員、死んでいるように見える筈なのだけれど、なんというか主観的客観視点でさえ、まるで死んでいるようだった。

 まぁ、普通は彼のような状態を物思いに耽っているとでも表現するのだろう。いまいちどのような状態を指しているのかよく分からないので、避けている表現の一つだけれど、実際このような場面でしか使い所がない。

 「君は、僕と友達になりたいのかい?」と僕はこの時、嘲笑うかのような顔で言ったように思う。そうしたら、彼は真顔で応えた。真剣そのものといった面持ちだった。

「当たり前だろう。」

なんだこいつ。馬鹿じゃないのか。僕は咄嗟に喉から走りだしそうな言葉達を呑み込んだ。今時はそんな奴もいるのか。なるほど関心関心。うんうん。次のセリフを考えるが、上手く思いつかない。

 あいつが、僕と、友達に?

 そんな馬鹿な。あり得ないだろう。

 何で僕が彼と仲良くしなければいけないんだ?僕はそんなキャラではないだろうに。

 いや、落ち着け。ここで動揺を悟られるのは不味い。

 そうこう思っている内に彼はまた、口を開いた。

「もっとも、君はそう思ってくれていなさそうだけどね。」

 ばっ、と顔を上げると自分の家へと続く曲がり角が目に入る。

「じゃあ僕はこの辺りで。」 

彼はそう言って、そのまま真っ直ぐ歩き出し、背中のまま僕に手を振った。早く背中から刺してくれという意味だろうか。それとも『僕はこのまま車に轢かれるけど事後処理よろしく』的な流れだろうか。まさか、僕に向かって挨拶代わりに、普通に手を振った訳ではないだろう。

 …我ながら酷い現実逃避だ。勿論、彼は挨拶代わりに手を振ったのだろう。まず間違いない。

 次は背中を刺してやる。

 僕は負け犬よろしくそう思って角を曲がった。

 これでお友達エンドだけはなくなった。


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