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擬態  作者: つーたん
2/8

五月三十日

 雨が降っている。梅雨を匂わせるようなじめじめとした雨ではあるが、梅雨ではないらしい。そんな5月末である。

 僕が平榮高校に入学してから、既に一年と二ヶ月が経過しようとしていた。家から近いという月並みな理由で選んだ高校で僕は、この高校において、確固たる立ち位置を獲得していた。

 ぼっち。

 現代っ子はそう呼んでいる。

 ひとまずそれは忘れて欲しい。そんな些細なことより大事なことが、僕にはある。普通の高校生に、教室に居場所がない以上の悩みがあるのか、なんて僕には分からないが。

 僕には悩みが二つあった。一つは、高校生には良くある、学業のこと。もう一つは、高校二年生でできた、僕の新しい友人のことだ。何、ぼっちとは言え友達が一人もいない訳ではない(という事実が僕を救っている)。一つ目の悩みに関しては、正直に言えば僕の怠惰が原因なので、多く語ることはしないが、問題は二つ目の悩みである。

 僕の友人、名前は七首忠。読みはナナクビマコト、決して鍔のない短刀ではない、と本人が自己紹介していた。確かに匕首は字面が似ていない訳ではないが、正確には合口なので、教育上よろしくない。

 まあそんなことはさておき、詰まるところ彼が悩みの種だった。見た目は普通である。特に奇抜なファッションをしている訳でもないし、身体的な欠陥がある訳でもない。ごく普通にいる、極めて人の良さそうな高校生に見える。人あたりも良く、礼儀正しい好青年のようだ。

 しかし、断言しよう。それはない。彼は裏表のあるタイプの人間だ。一人でいるときの彼の様子は明らかに普通の人のそれではない。

 あれは異常だ。

 確かに、遠目では分からない。そこにいるのは普通の高校生である。

 だが、彼はおかしかった。あの目は異常だと言わざるを得ない。

 真っ暗で光のない目。

 闇なんて洒落た形容詞の似合わない、

 醜いが、恐ろしい目。

 まるで何もない穴のような、

 気味の悪い目。

 偏見かもしれない。僕も深夜アニメを沢山見る方なので、影響されているのかもしれない。それとも高校二年生にもなって厨二病を引きずっているのかもしれない。それとも実はあれが普通で、周りが異常なのかもしれない。ただ、いずれにしろ余りに異質過ぎて、正直怖いのだ。

 僕は友人を選ぶタイプではない。でも、あれは規格外だし、予想外だ。

 あれと仲良くするぐらいなら友達なんていらない。

 そう思わせるほどの不気味さが、彼にはあった。

 しかし、ここまでの酷評を下しておいて、自分から彼をそうやって紹介するのは、本来なら憚られるような関係なのだろうが、というより常識をふりかざして話をするなら、どだいあり得ない話なのだけれど。それでもここで事実に則して正しい説明をするのであれば、憚られようが、あり得なかろうが、

 彼は僕の唯一の友達だった。

 教室で唯一話をする相手。

 教室で唯一目を見て話す相手だ。

 僕に友達が少ないことは、この話をする上で全く意味のないことではあるものの、少しだけ言い訳をさせていただくと、僕は決してコミュニケーション能力がない訳ではない。これも学業同様、自らの怠惰が原因なのだけれど、というか、そう言い切ってしまうほど対人スキルがあると思っているのだけれど。いや正確には、思っていた、だが。

 どうも、対人スキルとコミュニケーション能力には少しばかり溝があるようだ。そして、僕はその溝にまんまと嵌まって抜け出せなくなったらしく、無様なことに、自称高対人スキル所有者は友達が一人しかいない。

 しかもその友達は何だか普通ではない、と来ている。

 大丈夫か、僕の高校生活。

 いや、大丈夫ではないだろうが。

 しかし、何にせよ難にせよ、件の友人七首が問題なのだった。

 七首の周りにはいつも人がいる。傍目に見れば良い奴だ。だが、何故か彼の周りでは紛失が多いのだ。気のせいではない。明らかに多い。皆気付いていない。しかし、注意深く状況を洗って行けば、誰しも気付くであろう事実。

 紛失。

 そう言えば無くした本人の責任になるかのような、都合の良い言葉だ。そういう捉え方をすれば、だ。

 だが、もしも仮に。

 誰かが、

 意図的に、

 奪っているとすれば。

 取っているとすれば。

 盗っているとすれば。

 事態は最悪を招くだろう。

 彼が、

 あの七首が、

 盗っているとしたら。

 いや、ここまで来ると、僕も冷静でない。ほとんど妄想に近いものがあるし、現時点では証拠がない。確かに、学校という閉ざされた空間で、それ一つ一つが鎖国している国家のような状況下では証拠も糞もない。

 先生方を僕の妄想に付き合わせる訳にはいかない、というか、取り合ってはくれまい。何せ、盗難だの犯人だのと、大層な考えを吐いている割には、被害にあっていないのだ。まともに取り合ってくれる訳がない。

 

 だから、僕は自分の中の彼の疑いを晴らすべく、証拠を掴もうと一人寂しく立ち上がることにしたのだ。

 僕の中の彼を、守る為に。

 台詞が気持ち悪い上に、とても独り善がりに独り歩きしていて自分で言ってても薄ら寒くなってきたのだが、まあ良い。取り敢えず、目的を達成してしまえばそれで良いのだ。友達の為に。

 ん、友達?


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