6話 Another side
~side:???~
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『本当に行っちゃうの?』
『でも!』
『もう1つ約束して…』
『絶対にいつかわたしに会いに来て。』
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……………今のは?
そうだ、あの時の--
「--夢?」
わたしは寝ぼけ眼を擦りながら、部屋中を見渡した。
「ここは?」
えっと…そうだ、思い出した。
ここは王都アトランドの東地区にある学生寮だ…
故郷のハング村から三日かけて、昨日の昼間に王都に着いたんだった。
「ハング村か…。」
わたしは自分の故郷のその村が大嫌いだ。
小さい頃、わたしは周りの子供と比べて魔法の才能があった。
5歳の時に適正属性を調べたら属性が3つある事がわかった。
6歳の時にはすでに基礎魔法が使えるようになっていた。
わたしが周りの子供から爪弾きにされたのはその辺だった。
誰もわたしと会話をしようとしなくなった。その内、目も合わせてくれなくなった。
それどころか酷い時は化物と言われることもあった……ただ一人を除いて…。
そのくせ、3年前にわたしが第一魔法学園中等部の受験に受かったら周りの態度は一変した。
それまでわたしを除け者にしてた村の子達は途端にわたしに集まってきた。
正直、気味が悪かった。自分のことを打算的な目で見られている気がした……あの人がいたらきっと心の底から喜んでくれたんだろうな…。
「やめよう、朝から…。」
どうやら昔の夢を見たせいで嫌なことを思い出しちゃった。
「さあ、今日も1日頑張ろう!」
まあ、学園が始まるのは2日後だけどね。
ガチャ--
ドアが開く音がしたから見てみると、そこにはさっきから姿の見えなかったルームメイトがいた。
「おはよう!ナズナちゃん!」
「おはよう。もう昼だけどね。」
「えっ、うそ!」
わたしは慌てて時計を確認した。
「ホントだ!も~何で起こしてくれなかったのお母さん!?」
「いや、誰がお母さん?」
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わたしは北地区にある「オルディンの武具屋」に向かった。
--バタン!
「おはようお爺さん!」
「うるせぇぞ赤頭!!もっと静かに入れ!!それから世間ではすでに『こんにちは』だボケ!」
この、王都では珍しい着流しを着たお爺さんは《杖師》のオルディンさん、アトランドの知る人ぞ知る名物職人--
「誰が名物だ!!」
--もとい名職人
「ったく、久しぶりに顔を合わせたと思ったら……それに若いくせにこんな時間まで寝やがって……」
「そ、そんなことないですよ………?」
「その『?』は何だ?……ったく、寝癖ぐらい直してからこい。」
オルディンさんは羨望の眼差しでわたしの赤い髪の毛を見ている。
「何適当なこと言ってんだ!!呆れてんだよクソガキ!!」
「そんなことよりオルディンさん、 頼んでいた《杖》は?」
「このっ~~!!ったく! ちょっと待ってろ」
そう言うとオルディンさんはカウンターの奥へ入って行った。
「ここで《杖》について説明すると、 《杖》とは魔術師が魔法を使用する時に使う道具の総称のことで、昔は全て杖を使用してたからその名残らしい。
今では、魔術師個人によって使用する《杖》は異なり、人によっては剣や盾を《杖》として使用している場合もある。」
「--で、誰に説明してんだ?」
いつの間にかオルディンさんは戻って来ていた。
「いや、退屈だったからつい。」
「……とにかく、ほら!オマエさんの注文通りの仕上がりだ。」
そう言いながら、オルディンさんは木製の長杖を手渡してくれた。
「柳の枝を削って作った一品だ。クセはあるが、まぁオマエさんなら大丈夫だろう。」
「ありがとう!」
「なぁに、構わんさ。今年からギルドでクエストを受けるんだろう?また何か必要になったら何時でも注文しにこい。 前払いしか受付け無いけどな。」
「うん!それじゃ!」
「オウ!」
わたしはオルディンさんに別れを告げて店を出--
「あ、その前に」
--る直前で、さっそく新しい《杖》で風魔法を使って寝癖をなおした。
「…もっとマシな使い方をしろよ。」
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わたしが上機嫌で店を出ると--
「これはこれは、ルミールさんではないですか。」
突然ギザったらしい口調の青年が話しかけてきた。
「……何か用かしら?」
こいつはシムジウ・ハング、名前から解るようにハング村の出身で、ついでに村長の孫だ。
「いえいえ、偶然見かけたので挨拶をと思いましてね。」
シムジウは不愉快な声で続けてきた。
「どうもご機嫌がよろしいようですね?」
あんたに声をかけられるまではね……
「貴方には関係ないでしょう?」
わたしは冷たく、そう言った。
「おや、その長杖は?まさかとは思いますが、またあんな小汚い老人の店で購入したのですか?」
「それがどうかしたのかしら?オルディンさんはとても腕のいい職人よ。」
「冗談でしょう?この僕の依頼を断るような老人ですよ?」
「あいにく、オルディンさんは客を選ぶのよ。」
「ふん、この天才の僕以上にふさわしい客がドコにいると言うんだい?」
誰が天才なんだか……3年前に学園に受かる前は散々わたしのことを化物と罵っていた癖に。
「たくさんいるわよ。…それに貴方以上の実力を持っている人はもっといるわ。」
実際にこいつは学年で中堅程度の実力だし、そのうえ今年から高等部になるから人数は倍近くになるというのに。
「っそんなもの!僕の才能が目覚めるまでの間だけだ!」
なにそれ?新しいギャグのつもりかしら?
「--コホン、失礼しました…。どうですか?お詫びにこれから一緒に食事でも。」
「遠慮しておくわ、さっき食べたばかりだから。」
「そうですか。それもそうですね、もう4:30ですしね。」
「それじゃあさよなら。」
わたしはそう言い放ってその場を後にした。
……というかもう4:30だったんだ。朝も昼も食べてないからお腹すいた。
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「ここにしようかな。」
わたしは「喫茶アルバトロス」と書かれた扉を開こうとして--
『あれ!君達魔法学園の生徒なの!?』
(……今の声は)
『もちろん! 明後日から高等部の2年になるのよ!』
踵を返してその場を立ち去った。
うん、別の店に行こう!
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「……た、食べ過ぎた。」
わたしは呟きながらゲート向かった。
起動まで、あと少し。
あの後近くの食堂で遅めの朝食兼昼食を食べた。あの自称天才との会話のせいでストレスがたまってたからヤケ食いしてしまった。
体重は……大丈夫だよね?朝は食べてなかったし。
そんなことを考えているうちにゲート着いたら--
「もう少し詰めてください!」
--今まさにゲートか起動しそうになっていた。ってヤバイ!
わたしは慌てて魔法陣に駆け込んだ、途中で何かを踏んだり、長杖が誰かにぶつかった
「いでっ!てめぇ何ひとの足踏んでんだ!」「ちょっと!あんた今私のお尻触ったでしょ!!」
ヤバイ、大事になってる……
わたしは気まずくなり目をそらした。
その時ふと、西地区行きの魔法陣が目に入った。
「--!!」
あの灰色の髪の毛は--
「ゼノ!!」
わたしは咄嗟に叫んだ。けど…
「それでは…ゲート起動!!」
その直後魔法陣が淡く光り、一瞬で東地区に移動していた。
「警備員さん!!この人痴漢です!!」「なっ!!だから違う!」「うるさいわね!!犯人は皆そう言うのよ!!」「さっきからうっせえぞそこのババア!!心配しなくてもてめえを触るゲテモノ好きなんざ居ねえよ!!」「何ですってー!」
見間違えだったのかしら?……でも、もしかしたら…。
それはともかく--
「ごめんなさい。わたしの長杖が当たっちゃったみたいで…」
とりあえず誤解を解いておこう。
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「はぁ~…。」
あの後、次のゲート起動で西地区に行き、1時間近く探し回ったけど結局見つからなかった…。
「はぁ~~~~~…。」
わたしはもう一度ため息を吐いた。
やっぱり見間違えだったんだ…。
わたしは寮に帰り、部屋のドアを開けた。
「お帰りサラちゃん!もう、遅いから心配したよ~~~!」
わたしはナズナちゃんに謝ってからベッドに倒れこんだ。
今日は疲れた。
6話目にしてやっとヒロインをだせました。
ぜんぜん再会してないけど……