73話 始まる闘技会
~side:ゼノ~
ついに今日は闘技会だ。昨日は一日中眠って修行の疲れを癒してたからマルク以外には会ってない。
「おはようゼノ。調子はどう?」
「ああ、おはようマルク。なんというか目隠しが無いって素晴らしいな」
あの忌々しい目隠しは昨日の内に外してある。外した直後は眩しくて目を瞑りっぱなしだったけど、今は何も問題ない。
「そんじゃ行きますかね」
準備を速やかに終えて俺達は会場に向かった。
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「で? 何か申し開きあんの?」
「そもそもなんで俺は怒られて「ア”?」何でもないです」
会場に着いて早々アリスに出会した。んだけどいつの間にか正座させられた。解せぬ!
「あんたが拉致されてからどれだけアタシ達が心配したと思ってんの? 帰ってきたら報告するのが普通でしょ? なのに昨日一日寝てた? 馬鹿なの? 死ぬの?」
アリスがハイライトが消えた瞳で迫って来た! 正直怖い!
「そ、そっか心配してくれてたのか。ありがとな」
「……ふん、まあこれくらいにしといたげる」
アリスが弱冠顔を赤くしながらそっぽ向いた。良かった、何かよくわからないけど助かったみたいだ。
まあ冷静になって考えたら公衆の面前で怒りまくってたから恥ずかしくなっただけかもしれないけどな。
「そう言えば馬鹿二人は?」
「アニキ達ならジンおじ様達を迎えにいった」
「えっ! 父さん達来るの!?」
「ああ、ミランダ先生が医療班の一員として参加するからついでに夫婦で観光がてら来るみたい」
父さん達が来ると聞いて驚いたけど、理由を聞いて納得した。
母さんの治療魔法なら瀕死の重傷を負っても数秒で完治だもんな。
「そっか、なら負ける訳にはいかないな」
「言っとくけど、優勝はアタシが頂くから」
アリスの目は自信に満ちている。きっとこいつも修行を積んだんだな。
こりゃ、気を引き締めて行かないとな!!
「俺とアリス、どっちが優勝するかの勝負だな!」
「望むところ!」
俺たちは互いににらみ合い、そしてフッと笑った。
「そんじゃ、俺は師匠に呼ばれてるから行ってくる」
「わかった。また後で!」
きっとアリスは俺が監禁中に馬鹿二人と鍛練を積んで強くなってるだろうな。
そんなことを考えながら俺は会場に向かっていった。
~side out~
その場を去って行くゼノを呆然と見つめる者がいた。
ベル・セルクスである。
彼は偶然二人の会話を聞いていたのだ。そして知ってしまった。
(どっちが優勝するかの勝負、だと?)
ゼノ・アルフレインにとって脅威になり得るのはアリシアだけということ。つまり、ベルの事など眼中に無いのだ。
(何処まで人を馬鹿にすれば気がすむんだ!!)
ギリ、と奥歯を噛み締める。
(許さない! 目にもの見せてやる!!)
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会場の入口には懐かしい顔がそろっていた。
向こうもゼノに気付いて手を振っている。
「おーい! ここだ、ここ!」
「ゼノー! 元気だったー!?」
実に三ヶ月ぶりの再会だった。
「父さん、母さん! 久し振り!!」
ジン・アルフレインとミランダ・アルフレイン。ゼノにとって義理の、そしてミリアの実の親である。
「まったく、こまめに手紙出せつってただろうがコンニャロウ!」
「ごめんごめん、入学してからドタバタしてたから」
「まあ元気そうでお母さん安心したわ。
それじゃ、シグくんとロランくんが先に席をとりに行ってくれたからそろそろ行きましょうか」
シグマとロランの二人は家族水入らずで過ごせるようにと思い先に客席へ向かっていた。
しかしその心遣いも虚しく--
「ごめん母さん、実は直ぐに師匠の所に行かないといけないんだ」
--ピシッ
ゼノのこの一言で場の空気が一気に凍った。
「……ねぇゼノ? 師匠って誰のこと? お母さんに教えてくれる?」
「誰のことって、一人しか居ないでしょ? ケイト師匠だよ」
「そっかー。そうよねー。あの子来てたのかー。
後でたっ………ぷりとオハナシしなくちゃいけないわねー。」
「お、おい落ち着けミランダ! ………あ~、そうだゼノ! 父さん達は先に行ってるから!また後でな!」
「ちょっとあなた!放して、はな……」
暴れるミランダを強引に担ぎ上げると、ジンは急いでその場を離れた。
後に残されたゼノはしばらくキョトンとしていたが気を取り直して師匠のもとへ向かった。
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--ゼノへの復讐に燃えるベル
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--ゼノとベル、二人との友情に板挟みになるマルク
それぞれの想いが交錯しながら闘技会は始まった。
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闘技会ルール
・制限時間は30分
・前半戦はブロック毎のバトルロイヤルで、勝ち上がった者が決勝トーナメントに進める
・闘技場の大きさは50m四方
・10カウントダウン、ギブアップ、場外で決着
・制限時間を越えた場合は判定で決着
・装備に制限は無し