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砕牙~白銀の破壊者~  作者: 伊東 無田
空白の物語 上
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67話 マルク、パーティーを組む

 放課後、マルクは冒険者ギルドに来ていた。自分のペースで頑張るとは言ったものの、特に師事できる相手などいないため取り合えずギルドに来たのだ。因みに学園支部ではなく北地区まで来た理由は単純に選べるクエストが多いからである。


(出来れば他の人の戦い方を参考にしたいところだけど、簡単には行かないよね)


 冒険者にとって自分の手の内を無償で曝すなど悪手以外の何物でもない。例えば薬草採取にしても群生地の場所は秘匿される物だ。一度に採れる量が限られているため独占しようとするのが普通なのだ。もっとも世の中には経験則の力技で薬草を見つける馬鹿ゼノもいるが。


 閑話休題


 兎に角知識にしろ技術にしろ冒険者は秘匿する傾向にあるのだ。


「技術支援とかあればいいのに……まあ無い物ねだりしてもしょうがないか。

 さて、どれにしようか……」


 手頃なクエストを探して掲示板を見る。今回の目的はあくまで修行なので採取は論外、しかし魔法は攻撃力と魔力量に不安があるため大猪のような重量級の相手は難易度が高い。


「となると、これかな」


-----------


レベル1 討伐:ゴブリン

場所:森林

報酬:一体1000G

証明部位:鼻


冒険者と言えばやはりコ

レ。駆け出しの君でも大

丈夫、兎に角数が多いか

ら競争率も低いし何処に

でもいるよ。

怪我の無いようにガンバ

ろう!

ただし群に遭遇したら逃

げるように!


-----------



 討伐クエストの登竜門と呼ばれるゴブリン討伐。まさに打ってつけである。

 依頼書を取ろうと手を伸ばしたその時、偶然隣の人もその依頼書を狙っていたらしく手がぶつかった。


「これは失敬。ってあれ? もしかしてマルク君かい?」

「え?」


 ぶつかった相手は昨日チンピラに絡まれていた時に会った少年ベル・セルクスだった。

 あのあと二人で"マルクの友達"を探している内に親しくなったのだ。


「こんにちはベル君。もしかして君もこの依頼を?」

「まあね、本来なら冒険者のマネ事などしたくないのだけど、行動するには資金が必要になるから仕方なくね」

「へぇ、少し意外だね。お金には困らないイメージがあったから」


 ベルは少し苦笑した。


「ボクは個人的な理由で来ているから流石に実家に資金援助を頼む訳にはいかないさ」


 当たり前のように言うベルにマルクは感心した。彼の知っている富裕層の人間は大半が湯水のように親の金を使う者ばかりなのだ。もちろんその全員が道楽のために金を使うわけではないが、わざわざ自分で稼ぐ者などそう居ない。


「偉いねベル君は」

「そんなことは無いさ。むしろ当たり前の事だから。それにボクの目的のためでもあるんだ」

「目的?」

「うん、ボクの目的は……『牙折り』を倒す事だよ」

「っ!」


 マルクは顔には出さなかったが内心はとても動揺した。ベルはそれに気付かずに続ける。


「数日前この町に牙折りが現れたと聞いてね」

「え~っとその、ベル君は何で牙折りを探しているの? もちろん言いにくい事なら無理して言わなくてもいいけど」

「いやかまわないよ。

 あれは4年ほど前の事だ--」


 それは今のゼノから余りにもかけ離れた人物像だった。冷酷で獰猛な、人と言うよりは獣に近い印象を受ける、そんな人物像。

 しかし話の中で出てきた灰色の頭髪に青い瞳という外見的特徴は一致していた。


「--だからボクは牙折りを倒す。絶体に」


 そして何よりそれらを語るベルの真剣な、それでいて何処か薄暗い眼差しがマルクには嘘をついてるようには見えなかった。


(考えてみれば僕はゼノの事をほとんど知らない。でも、あの時ゼノは--)


『『牙折り』はとっくに捨てた名前だから…』


 初めて『牙折り』という名前を聞いたとき、ゼノは確かにそう言った。


(つまりゼノには、少なくとも本人が捨て去りたいと思うほどの過去があるという事になる。そしてそれが事実なら、話が繋がってしまう)


 マルクは本音を言えばベルの話を嘘だと否定したい。しかし考えれば考えるほど否定出来なくなる。


(何か事情が? いや、きっと何らかの事情はあるだろうけど、それでもこれは……)


 深刻な顔をして考えこむマルク。しかしマルクには情報が足りない。だからそれ以上のことは解らない。


「…ん、マルク君!」

「っ!」

「どうしたんだい難しい顔をして?」

「ううん、何でもないよ」

「そう? まあいいや、話を戻すけど牙折りの出現情報は全て北地区なんだ。そして奴は冒険者。闇雲に探すよりも冒険者ギルドで探すほうが効率が良いと思ってね。そのついでに資金調達の為に依頼を受けているという訳さ。

 マルク君の方は何故依頼を? たしか友達を探してたはずじゃ?」

「ああ、それなんだけどね--」


 マルクは話を変えるのに丁度良いと、事情を説明した。

 友達の安否が分かったこと、修行のためしばらく会えないこと、そして自分自身の修行のために依頼を受けにきたこと。


「なるほど、それで依頼を」

「うん。でも僕の実力じゃ大したのは受けれないんだけどね。

 正直な話一人じゃ大猪すら倒せそうにないんだ」


 自嘲気味に言うマルクを見て、一瞬間をおいてベルが何か閃いたように手を打った。


「なら丁度良いしボクと臨時パーティーを組まないかい?」


 いきなりのパーティー勧誘に驚くマルクをよそにベルは続ける。


「ボクはギルドを使用した事がないから知識が欲しい。それに二人のほうが受けれる依頼も多くなる」

「でも僕はその、修行目的だし……それに弱いから足を引っ張ると思うよ」

「昨日見せてもらった君の銃捌きなら実力的に問題ないさ、火力ならボクが補える。

 あと修行ならボクが普段しているトレーニングを教えてもいいけど」


 ここまで言われてはマルクも断りずらい。それに十分メリットがあるため断る理由も無い。……唯一つを除いて。


(ゼノの件で不安があるんだよな……)


 マルクはチラリとベルを盗み見る。その目はとても澄んでいて純粋にマルクと組んでみたいと思っている事が伺えた。それでいて表情はほんの少し緊張しているようだ。おそらく断られないか不安なのだろう。


「そう言う事ならよろしくお願いするよ。(というか断ったら傷付きそうだし)」

「本当かい!? 良かった、断られるんじゃないかってヒヤヒヤしたよ」


 結局マルクはベルの提案を受け入れることにした。


(まあ、悪い子じゃ無さそうだしね)

「じゃあ早速手続きしようか。依頼は初めてだしこれで良いよね?」

「うん、ゴブリンなら肩慣らしには丁度良さそうだ」


 こうしてマルクは騎士見習いの少年ベル・セルクスと共に行動していくことになった。







 そして2週間が経過した。


今回はマルクメインの話でした。


そういえばここ数話サラの影が薄いような……。まあ義妹(笑)よりはマシですよね!

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