65話 トラウマ見参!
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人生に運命の出会いという物があるのならゼノ・アルフレインは三度それを体験した。
一度目は幼き頃サンドラ・ルミールと出会った時だ。彼女との出会いがなければ今頃ゼノの心は跡形もなく砕け散っていただろう。
そして二度目の体験は10歳の時だった。
『お前がゼノか?』
『……だれ?』
『お前の師匠になる者だ。あと次タメ口したら首の骨へし折るぞクソガキ』
これが初めての会話だった。
この出会いが正しかったのか?それとも間違っていたのか?それは誰にも分からない。
ただ言えることは、この出会いがなければ今のゼノは有り得なかった。
出会わなければゼノは無力なままだっただろう。
出会わなければゼノが牙折りと呼ばれることは無かっただろう。
ケイト・グランベールとの出会いはゼノ・アルフレインの人生を変える出来事だった。それだけは確かな真実だ。
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「待てよアニキ! 本当に帰るのかよ!?」
「そうだよ! ゼノにぃが心配じゃないの!?」
喫茶店を出たあと、真っ直ぐにゲートへ向かったロランとシグマ。それをキレ気味に呼び止めるアリシアとミリア。
「さっきも言ったが今のところ心配する要素が何一つ無い」
「それにもう思い付く限り探したじゃねえか。これ以上闇雲に探しても無駄だと思うぜ」
限りなくめんどくさそうに反論するシグマ。そして意外にも理にかなった事を言うロラン。
実際手掛かり無しでは出来る事など限られているのだ。そしてそれはアリシア達とて理解している。とは言え頭では理解していても、という状態である。
「まあ心配するな。アイツは自分が知る限り最もしぶとい人間だ」
「そうそう、ゴキブリ以上にしぶといやつだからな。まあ、あの人が関わっていなければ大丈夫だろ」
シグマとロランはゼノの修行風景を間近で見ていた者達だ。だからこそ只でさえヌルイ王都でならば多少の危険は問題ないと疑っていないのだ。
ただし、一つだけ例外が存在するが。
「あの人って、やっぱりあの人だよな?」
「あの人って?誰のことシアねぇ」
「そりゃあ勿論……」
いまいちピンと来ていないミリアが質問する。
問われたアリシア、ついでにシグマとロランもその人物を思い浮かべる。
ボサボサの黒い長髪、筋骨粒々の身体、そして一見ただの鉄塊にしか見えない特殊な《杖》。息を吐くようにトラウマを振り撒く超危険人物。
『それでは…ゲート起動!!』
記憶に残るその姿はちょうどゲートから出てきた人物と瓜二つ--
「お? 懐かしい顔が揃ってるじゃねえか」
というかケイト・グランベール本人だった。
鉢合わせした四人の反応は様々だった。
「ひっ! い、いや……いや……!!
ヤメテ、コッチニコナイデ!!」
まずアリシアが普段の気の強さの面影がない、まるでか弱い乙女のように踞って震えだした。
「早く逃げるんだ! オレが時間を稼ぐ!! さっさと行けぇぇぇぇぇぇ!!」
ロランが死亡フラグをたてながらクレイモアを抜いてケイトに斬りかかった。
「ここが……墓場か……!!」
シグマが命を諦めながら槍を構えてロランに続いた。
「あ、ケイトおじさんだ」
唯一トラウマが無いミリアだけが何処かのほほんとしていた。
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3分後、二人を料理し終わったケイトが服に付いたらホコリを払っていた。
戦闘の様子は対ゼノの時と同様に、一方的な展開だった。
「よう、一年ぶりだなガキ」
「もう、ガキじゃなくてミリアだよおじさん!」
「だからおじさんって言うな」
ちなみに二人には血の繋がりは無い。ただ単にミリアが幼い頃から何度も会っているためおじさんと呼んでいるだけである。
「つか、てめえ等はいきなり何なんだよ? 格上に斬りかかるなら隙を突けって言ってるだろうが!」
「「…………」」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
「イヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨコワイヨイヤダヨ--」
「泣かないでシアねぇ。 大丈夫だよ、怖くないよ。
もう、おじさん! シアねぇに何したの!! こんなに怖がって、可哀想でしょ!!!」
虚ろな目で泣き続けるアリシアを慰めながらミリアが怒る。
「何したっても別に大したことしてないぜ?
ゼノの拷問に付き合わせた事はあるが……」
120%それが原因である。
「まあそれは置いとけ。それよりてめえ等の事だからゼノを探している最中何だろうが、心配はいらねえぜ」
「コワ……ゼノの行方を知ってるんですか!?」
「おおぅ、いきなり復活したな……
ゼノなら今まさに拷問の最中だ。多分最短でも1ヶ月はかかるから探さなくていいぞ」
「「「んなっ!!」」」
その情報は折角復活したアリシアや倒れていたはずのロランとシグマを絶句させるほど衝撃的な物だった。
ゼノの拷問と聞いて三人が思い浮かべるのはトラウマの数々。ミリアの父であるジンが参加を止めていなければミリアも同じ様に成っていたと断言出来る程にヤバイ修行内容だった。
三人が思ったことはただ一つ。
(((生きてるかな……アイツ……?)))
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~その頃ゼノは~
「やっと階段を見つけたぞ!」
ゼノの目の前には登り階段があった。数時間かけて漸く見つけたが思いの外簡単だった。
「この調子なら5日以内どころか今日中に--」
階段に向かって一歩踏み出したその時、ガラガラと足下が崩れた。
「ああ、うん。そりゃあそこまで甘くないよね……」
そのままゼノは真っ逆さまに落ちていった。
脱出まで??階
ちなみにゼノ達とケイトの戦力差は格ゲーの素人が使うネタキャラと大会優勝者の使うチートキャラ以上の開きがあります。