63話 5月21日の出来事
書いてて自分で驚いた。
作中ではまだ2ヶ月経って無いんだぜぇ……
~side:ゼノ~
ピチャリ、と水が落ちる音で眼が覚めた。俺はどうやら気絶してたみたいだ。
瞼を開く。何も見えない。一瞬眼が見えなく成ったのではないかと思ったけど、よお~くめを凝らすと薄らと何かが見える。
「『魔闘術』発動……」
右手だけ魔闘術を使う。手に纏わり付いたら魔力が発光し、暗闇を照す。
「何処だよここ、洞窟?」
回りを見ると岩と土しか無かった。持ち物はないかと思ってポケットを探ると一枚の紙が出てきた。
紙には師匠の字で伝言が書いてあった。
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~修行・闇からの脱出~
現在位置:深淵の洞窟地下10階(ギルドレベル6相等)
修行達成条件:5日以内に脱出しろ。
注意事項1:この洞窟にいるゴースト系の魔物には一部の例外を除いて魔法しか効かない。
注意事項2:水は地下水がそこかしこにあるから心配するな。ただし食料は魔物を狩るか野草を食え。
注意事項3:途中にあるミッションは全てクリアすること。しなきゃ㊤㊥㊦の刑だから。
この洞窟から無事に脱出しろ。学校には俺が無理を通すから心配するな。あとお前が今居るフロアは結界を張っているから魔物は入ってこない。ただし効果は3日で切れるから過信するな。
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…………拉致監禁ですか。そうですか。しかも注意事項3に関しては意味が解らない。上中下て何だよ……俺何されんだよ……?
というか相変わらずメチャクチャな人だ。でもまあ--
「これでも緩い方だな。修行時代なんか……いや、考えるの止めとこ。思い出したら心折れるから」
まあ、やることは一つだ。さっさと寮に帰ろう。…………何日かかるかな?
~side out~
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その頃、王立第一魔法学園高等部の職員室では騒ぎが起こっていた。
「一体何の用で此所に来たのだ貴様は……!?」
「おいおい、そんなに警戒するこたあ無えだろ?せっかく可愛い教え子が訪ねて来たってのによ。なぁレインズせんせー?」
「黙れこの大問題児が!!」
学園の歴代問題児達の名前のみを記した名簿、通称"ブラックリスト"その名簿の中でも特に問題児と判断された者は赤いインクで名前を記載され"赤組"と呼称されている。
そしてケイト・グランベールがその赤組に入っていないわけがない!!
「貴様のせいで当時の担任教師が尽く登校拒否になったわ!!」
「そりゃそいつらに骨が無かっただけだろ?実際せんせーは耐えきったわけだし?」
「胃に穴が9つも開いたわボケっ!!」
察しの通り現学年主任のゴンドーラ・レインズと『鬼神』ケイト・グランベールは元担任と教え子の関係である。もっとも、当時の担任教師はケイトの破天荒な行動で軒並ギブアップ、その度に担任が入れ代わっていたのでケイトにとってレインズ先生は大勢の教師の中の一人という感覚である。
「昔の事だ。水に流してやるから感謝しな」
「貴様のセリフでは無いわ!!」
「無駄話は終わりにしろ。本題に入るぞ」
「だから貴様が言うな!!」
怒鳴り散らすレインズを軽く受け流してケイトは鼻をホジリながら話した。
「今年高等部に編入したゼノ・アルフレインなんだが実は俺の弟子なんだ。そんで久々に修行させてるからその間休学扱いにしとい--いて、鼻血出てきた」
「休学の申請は学期単位しか受付てないぞ。というか貴様は真面目にできんのか……?」
「え、マジすか? じゃあ病欠でも何でもいいや。とにかく休み扱いで頼む。あとティッシュ貰うぞ」
「いつまで休む予定なんだ。病欠では出席日数が足りなくなる恐れがあるぞ」
「何時までって、そりゃあいつ次第だな。あいつが早く修行をクリアできりゃすぐ復帰できるし、逆にクリアできなきゃ何時までもかかる。
まあ俺の見立てでは--早くて一ヶ月はかかるだろうな」
ゼノには5日以内にクリアしろと指示を出していた。しかしケイトは絶対に5日では無理だと予想していた。
実際に拳を合わせて実力を確かめたから間違いなくそれくらいかかると確信を持っている。しかし--
「ただまあ、あいつは極希に俺の予想の上を行くけどな」
--誰よりもゼノに期待しているのだ。
「そんじゃま、俺はそろそろ行くぜ」
「そうかわかった、さっさと行け!!」
「アイルビーバック!!」
「もう二度と来るな!!!」
鼻にティッシュを積めたままビシ、とポーズを決めるとケイトは窓ガラスを突き破って去って行った。
ついでにレインズ先生の胃袋にも穴が空きそうになった。
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~同刻・王都北地区~
時刻は正午、北地区に居を構える「喫茶アルバトロス」にお馴染みの面々が揃っていた。
「アタシはギルドを見てきたけどいなかった」
「僕達は東地区の寮を手分けして探したけど居なかったね」
「いったい何処に行ったんだろうねゼノくんは?」
ゼノが帰ってこない。それに最初に気付いたのは同部屋のマルクだった。その事は即刻皆に伝えられ、今朝早くから捜索が行われたのだ。
今は所謂昼休憩中である。それぞれが午前中に何処を探してきたのかを報告しあっている。
因みにメンバーはマルク、サラ、アリシア、ナズナ、ミリア、ロラン、シグマである。ついでにバイト中のスズカもこの場に集まっている。正午だから店内が超満員にも係わらずサボり中である。
ゼノが行きそうなギルドや、目撃者を探して他の寮まで足を運んだが情報は出てこなかった。
「もうほっとこうぜ、その内ひょっこりと帰ってくるさ」
「確かにあの大馬鹿なら問題なさそうだが……」
「絶対ダメ!!」
「ふざけんな馬鹿野郎共!!」
午前中だけで探し疲れたロランが捜査打ち切りを提案し、シグマもそれに乗っかった。
その意見にまっさきにミリアとアリシアが反論する。
「二人はゼノに…お兄ちゃんが心配じゃないの!?」
ミリアがキレ気味に二人に問う。因みに普段通りゼノにぃと言おうとしたがスズカの眼が光ったのを感知して咄嗟に言い直した。
「あ~もう、ミリアちゃん!ついでに私の事をスズねぇって呼ん--」
「お姉ちゃんは黙ってて!!
それにしてもお二人共無神経すぎます。サラちゃんなんて昨日ゼノくんに何か有ったんじゃないかって一晩中心配してたんですよ!」
ナズナは空気の読めない姉を封殺してからサラをチラリと見る。
サラの目元にはクッキリと隈が出来ていた。彼女は昨夜から一睡もしていないのだ。
対してロランとシグマはやれやれとでも言いたげに肩を竦めた。
「大丈夫だっつの。だってゼノだぜ、地獄への片道切符で送り出されても徒歩で帰還するようなやつだぜ?」
「自分も同意見だ。というか愚妹よ、貴様も知ってる筈だ。あの大馬鹿は殺しても死なない。奴の修行時代なんて地獄が遊園地に思えるような日々だっただろ?」
「そ、そりゃそうだけどさ……」
「いやいやいやいや、どんな修行だったのさ?」
三人の会話を聞きながらマルクがボソリとツッコミを入れた。
「取り合えず今日は各自聞き込みして自由解散でいいだろ」
「それは……まあ確かに何かあれば"通信器"で連絡できますしね」
これ以上の話し合いは無意味という結論になり解散した。
因みに通信器とは、魔法を施された水晶玉でその名の通り通信ができる魔道具である。ただし魔導技術の発達しているアトモス国内でしか実用化されていない。例外として外国でも冒険者ギルドには通信器が設置されている。ただし会話はギルド間のみ可能という制約がある。
閑話休題
「じゃあ僕はギルド辺りで聴き込みしてくるよ」
「私達はオルディンさんの店に行ってくる」
喫茶店を出るとマルクはギルドを目指した。
同刻、冒険者ギルドには一人場違いな格好をした者がいた。場違いとは戦いを知らない一般人のような服装ではなく、むしろこれから戦いに赴かんばかりの鎧姿、しかし冒険者にみられる薄汚れたり傷だらけの鎧ではなく気品を感じさせる綺麗な鎧だった。
その者は依頼ではなくある人物を探していた。が、職員に話を聞いても有力な情報は得られなかったためギルドを出ていく所だった。
「ここにも居なかったか……」
落胆しながらボソリと呟き、その者は去って行った。
はい、ということで新キャラ出ます。
ただでさえキャラを扱いきれていないのに新キャラ出ちゃいます……orz
いちおう今後の展開に欠かせないキャラなんですけどね。
因みにマルク達の会話からわかるように前話の次の日となっています。日曜日です。つまりゼノは半日くらい気絶していました。