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砕牙~白銀の破壊者~  作者: 伊東 無田
空白の物語 上
64/76

61話 ゼノの理由

 それは一瞬の出来事だった。少なくともショーンには何が起きたのかすら分からない程に一瞬だった。


「イテテ……流石に無傷とはいかないか」


 気付いた時には護衛の三人が壁に突き刺さっており、近くに壊れた《杖》が転がっていた。


「で、誰を殺すって言ったんだガマガエル?」

「あ、有り得ん……!!こんな、バカなことが

あってたまるか……!」


 ゼノの胸には幾多の切り傷が出来ていて、そこから出血していた。が、それらの傷が光と共に塞がってゆく。


「ひいい、来るな化け物め!!」

「この程度で化け物呼ばわりとは、レベルの低さが窺えるな。

 いいかガマガエル! 話し合いは終りだ! とっとと失せろ!!」


 ゼノの脅しが効き、ズクミゴは一目散に逃げていった。


「あのギルド長、今何が起きたのですか?恥ずかしながら目を瞑ってしまいまして……」


 秘書もかなり混乱していた。ジャメルに何が起きたかを聞いてみるが、そのジャメルすら動揺を隠せていなかった。


「バ、バかな……なんじゃ今のは……!?」


 ただし見えなかったからではなく、見えたからこその動揺であった。


「さてと、ではギルド長話の続きをしてもよろしいですか?」


 先程とは一転してゼノは礼儀正しくギルド長に話を切り出した。


「う、うむ。驚きの変わり様じゃな。

 して、話とはなんじゃ?」

「はい、そこのショーンの処遇についてなのですが……」


 たった今騒動の引き金となった話題である。

 ゼノが何故ショーンを庇ったのか、それがわからないためジャメルも先程行動が遅れてしまった。


「まずは貴奴を庇った理由から聞かせて貰いたいのじゃかな」

「もちろんそれについても話しますよ。

 ただ先に確認させて下さい。そこのショーンの今後については、王都追放でよろしいですね?」


 ジャメルは頷いた。ゼノはそれを確認すると今度はショーンに向き直った。


「次に貴方に質問させてもらいますけど、何処かに行く宛はありますか?」

「行く宛だと?そんなのは無えさ、せっかく庇って貰ったが結局は野垂れ死ぬだけだ」

「そらなら--」


 そこで一拍間を置いてからゼノは提案を出した。


「俺の故郷のクローゼ村に来ませんか?」

「え?」


 今日何度目になるだろう。ショーンは驚きのあまり声を発せなかった。


「ああ、もちろん村までの交通費と村長への手紙もお渡ししますよ」

「な…何、で?」


 ショーンが当然の疑問をぶつけた。するとゼノはバツが悪そうに目を反らした。

 やがて深呼吸してから何かを決心したように口を開いた。


「理由は先程省略した1つ目の、つまり一番重用な理由なのですが……簡単に言えば"謝罪"です」

「謝罪?それならむしろお主がされる側ではないのかえ?」


 理由を聞かされてもやはり誰も納得できず、ジャメルが代表して疑問を口にした。

 今回の件では、勝手に昔の名を使われたゼノのほうが明かに被害者である。それにも関わらず謝罪を行う理由がいまいち分からなかった。

 しかしゼノから出た言葉は予想外のものだった。


「今回の事件の原因の一部は他でもない俺だからですよ」

「なんじゃと? どういう意味じゃ」


 順を追って説明します、と前置きしてゼノは続けた。


「まず何故最初に俺が犯人と疑われたのか?

 理由は犯人であるショーンが"牙折り"と名乗ったからで間違いないないですね?」

「うむ」

「では何故ショーンが"牙折り"と名乗ったか?

 それは黒幕の命令だったからです」

「まあ、黒幕と言えん事もないのう」

「ですが結局のところショーンが悪いと先程結論付けられたはずでは?」


 黒幕と聞いて秘書が待ったをかける。

 棍棒を渡したのは確かにその人物だが、実際にそれを使って暴れたのはショーンであり、本人も自分が力に呑まれたのが原因だと自覚していた。


「はい。ただし黒幕が俺の想像通りの人物だったら話が大部変わってくるんですよ」


 ジャメルはふと気付いた。いつの間にかゼノが尋常でないほどに冷や汗を流していることに。


「もし想像通りなら今回の事件が起こることを確信しての行動だからです」

「それはつまり全て仕組まれていたと?」

「仕組むというと違う気はしますが……例えるなら道端に偶然落ちていた火薬に火をつけるような物ですね。

 結果を知っていてわざと切っ掛けを作ったと言えばいいんでしょうか」

「なるほど。

 しかし何故そんな真似をしたんじゃ?」

「理由は、確信してるんですが、その……言わなきゃ駄目すか?」


 突然目をそらすゼノに三人は先程と別の意味で絶句した。『おい、ここまで来てそりゃねえだろ!!』と。


「まあ皆さんが何を考えているかは何となく伝わって来ますけど一先ず置いときます」

「え、スルーすんの? それ確定なの?」

「とにかく俺にも責任の一端があるということです」


 ゼノの態度からこれ以上問い詰めても無意味と判断し、ジャメルは質問を切り上げる事にした。


「つまり、黒幕にも何か思惑があると。そしてそれにお主が絡んでるという事で良いのか?」

「その通りです」

「そうか……あい、わかった。

 これ以上の話し合いは最早不要じゃ。ショーンの処罰は王都追放に決定とする。なお、所持していた棍棒は危険物と見なしギルドで保管させてもらう。

 これにより此度のクエストを完了とする!」


 こうしてゼノの指名依頼は終了した。



-----------


「ギルド長、壁の修理が完了致しました」

「そうか、ご苦労じゃ」


 あの後、ショーンはゼノから渡されたクローゼ村への路銀と手紙を受け取ると、乗り合い馬車で王都を出ていった。

 そしてゼノは戦闘行為で破壊してしまった壁の修理代をしっかりとムシリ取られたあと寮へ帰っていった。去り際の『予想外の出費だ……』という呟きは無視された。


 そして今修理された部屋にはギルド長ジャメルとその秘書だけがいた。因みに気絶していたズクミゴの護衛達は既に病院に運ばれた。


「それにしても噂どおりとんでもない人でしたね」


 秘書がうんざりした様子で言った。

 貴族に喧嘩を売るわ、暴力沙汰興すわ、肝心なところの説明を省くわ、とにかく行動がハチャメチャだったからこの評価は当然だろう。

 しかし、ジャメルはそれを否定した。


「噂どおり? とんでもない、噂以上じゃったよ。

 聞くと見るとでは大違いじゃったわ」


 噂で聞く"牙折り"よりも実物のほうが酷いと思った故の否定であった。


「素手で戦うと聞いて最初にワシは研鑽された武術の使い手かと思った。じゃがあれは、あれは人間の戦い方でも、ましてや獣の戦い方でもなかった!!」


 先の戦いを思い出してジャメルは冷や汗を流す。




 乱入してきた護衛三人に対してゼノは反応した。しかしその動きはほとんど素人のそれだった。

 必然的にゼノの対応は遅れ、結果相手の魔法をまともに喰らった。魔法は風の刃、刃はゼノの肉を切り裂いた--


「当然肉体強化を使用していたのだろう、致命傷とはならなかった。しかしそれなりに深い傷であったのも事実じゃ。普通なら悲鳴をあげるし歴戦の冒険者でも無視は出来ぬ程にな。しかしあ奴は……!」


 --にも関わらずゼノの動きは全く鈍る事がなかった。


「叫ぶどころか眉一つ動かさなかったのじゃ! まるで切られた事に気が付いてないような、いや違う! まるで興味を抱いて無かった!!

 有り得るか、あんなものが!? 相当の激痛のはずなのに無視して反撃したのじゃぞ!!」


 護衛達も当然それを見ていた、故に動揺してゼノの反撃を避けれなかった。かろうじて《杖》で攻撃を防いだが無意味だった。


「極めつけはあのふざけた攻撃じゃ! 動きに技も何も無い、ただ力任せに殴っただけなのに出鱈目な破壊力じゃった!」


 技術を蹂躙するほどの圧倒的な力。ゼノの特殊な肉体強化は理不尽な程の筋力を使い手に与えていた。


「あんなもの人間の戦い方では断じて無い! 獣の戦い方ですら無かった!! あれは、化け物のそれじゃ!!」

「落ち着いて下さいギルド長!!」


 動揺するジャメルを見て、秘書も動揺した。彼女の記憶ではこんなジャメルを見たのは初めての事だったからだ。


「ハァ……ハァ……すまん、少し熱く成りすぎたようじゃわい。

 しかし何故未だにレベル4なのかが疑問じゃわい。それほどに有り得ない強さじゃった」


 強さだけならレベル4には収まりきらないとジャメルは判断した。ゼノが"牙折り"と言われた理由を垣間見た瞬間でもあった。


「一体どんな者に師事したんじゃろうな」

「やはりその人も凄いんでしょうね」


 二人にはゼノの師が想像できなかった。


-----------


~同刻・王都アトランド 北地区の空地~


 ギルドでジャメルと秘書が会話をしている頃、ゼノはショーンを捕まえた空地に来ていた。理由はここなら周りに人がいないからである。

 そこでゼノは入念にストレッチをしていた。


「さてと、準備はできた。あとは覚悟を決めるだけ、か」


 目を閉じて感覚をひたすらに研ぎ澄ます。ネズミ一匹逃さぬ程に周囲に気を張る。


(どこだ!? 今も俺を監視してるはずだ!! 一体どこ--)


 その刹那、ゼノの右腕が吹き飛んだ。


「なっ! しまっ--!!」


 そしてゼノは粉々に砕け散った。


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