54話 蘇る牙
~side:ゼノ~
『さて、記憶を巡る旅は一先ず終りにしよう』
ここまででいいのか?
『むしろこれ以上は必要あるまい』
『では再び問おう。
お主の大切な者達が、本当にお主を拒絶すると思っているのか?』
『もっとも答えは既に出ているのであろう』
……あんた、クロニクルって言ったよな。一つ聞いてもいいか?
『なんだ?』
あんたの目的は何なんだ? どうして俺に干渉してきたんだ?
『簡単なことだ。お主にはやってもらわねばならない使命があるからだ。とても大切で重要なことが』
使命? 何だそれ?何をすればいいんだ?
『まあそう慌てるな。何も今すぐにやれとは言わぬよ。何よりお主はまだ弱い。とても使命など果たせまいよ』
『強くなれ。それがどれだけ険しい道だとしてもお主には強くなってもらわねばならん』
何で俺なんだ? 俺よりも強いやつはたくさんいるだろ?
『お主にしか出来ない、いやお主しか資格を持っていないからだ。
今はまだこれ以上は話せん。続きは時が来たら話そう。今はただ出来ることをするがよい』
……そうだな。わかったよ。
『ではお別れだが、最後に一つ忠告だ』
『お主の持つ能力『始まりと終わりの能力』についだ』
始まりと終わりの能力?
『お主は今まで知らず知らずの内にそれを使い進化してきた。だが、決して一線は越えるな。一度越えれば戻れなくなる』
何の事を言ってんだ?心当りが無いぞ。
『今は多くを知る必要はない』
『さあ時間だ。目覚めなさい』
結局解らない事が増えただけじゃねえか。
まあいいや。ありがとう、世話になった。
『ふふ、また会おうゼノ・アルフレインよ。もっとも、次に会う場が夢か現かは分からぬがな』
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……ここは何処だ?
身体が重い。うまく動かせない。
俺何してたんだっけ? 何かを見ていた気がするのに思い出せない。
「----。----……」
何か聞こえる。これは人の声?そこに誰かいるのか?
俺は重い瞼を押し上げる。……ダメだ、眼が眩んで何も見えない。
「---ぃ!! -ノ--!!」
この声は? 聞き覚えがある。声の方に手を伸ばす。誰かの頭がちょうど掌に収まった。
ああ、この感触は知っている。五年前から学園に来るまで毎日撫でていたもんな。
「ミ……リ、ア……?」
「-------!!」
ドン、と身体が揺れた。たぶんミリアが抱きついてきたんだろう。ほんとに心配かけたな……
「『魔……闘、術』発動……」
俺は魔闘術を薄く発動した。膨大な魔力と一瞬訪れる地獄のような痛みと引き換えに、視覚と聴覚がクリアになって行く。
しがみついていたのはやっばりミリアだった。改めて周りを見るとここは病室で、部屋にはミリアの他にアリス、マルク、ナズナ、ロラン、シグマ、おまけにスズカ先輩までいる。そして勿論--
「ゼノ……? その、わたし……」
サラがいた。目の下にクマができている。
サラはギュッと眼を瞑ると、意を決したように眼を開けて俺を見据えた。
「ご免なさい……わたし、貴方に助けられたのに、あんなことを言って……」
「夢を見てたんだ……」
サラは俺の呟きに首をかしげる。そっと俺は続ける。
「ハング村に居たときの、小さい頃の事を思い出してたんだ」
寝てる間に何かを見ていた。全部は覚えていない。でもこれだけは覚えてる。
「あの時サラがいたから……俺の心は救われたんだ……ありがとう」
途端にサラは泣き出した。
「バカ……お礼を言うのはわたしの方でしょ?
わたしのために怒ってくれてありがとう。酷いことを言ったのに助けてくれてありがとう」
「うん」
きっと俺が寝てる間ずっと気が気じゃなかったんだろうな。そんなことを思いながらサラの頭を撫でた。
「ゴホンゲフン! あ~……盛り上がってるところ悪いんだけどよ……」
「これはもう完璧に……」
「私達がいること忘れてるわね☆」
俺とサラはハッとして周りを見た。生暖かい目で此方を見る2年の三人がいた。
「えっと……ボクは飲み物買ってくる」
「私も行くわ」
そそくさと非難するルームメイツがいた。
「なにイチャついてんだこら……!!」
そして鬼のような形相の幼馴染がいた。
サラは反射的に距離をとった。その間ミリアは周りを気にせずに俺に引っ付いていたが。
「なななな、何言ってるの!? 別にわたしはイチャついてるわけじゃないわよ!!」
「フーン、マアイイヤ。ソウイウコトニシトイテヤルヨ」
何でアリスはキレてんだろうか? しかもかなり危ないキレかただ。具体的には丸焼コース。
「そういや合宿はどうなったんだ? 今日は三日目だろ?」
「合宿なら中止になったわ。それから事後処理とかで1週間授業もなかったし」
うまく話をそらせたのはいいけど、何か引っ掛かる言い方だな。
「授業もなかっただと?」
「そうよ。勘違いしてるようだから言っとくけどあんたは10日間も眠ってたのよ。今は火曜日の夕方でみんな授業を受けてきたところ」
おいおいマジかよ……俺の体感だと1日なのに実際は10倍って……
「それじゃあ俺は2日も授業を欠席したことになるのか?」
「そうなるな。そういえばあんた成績危ないんじゃない? もともと馬鹿なのに欠席までして」
くそっ、否定できねぇ!!
「ただいま。そういえば、ゼノが休んでる間ノートを取っておいたけど要る?」
「マルク、お前は本当に便りになるな」
まぁノートが有ったところでテストで点が取れなきゃ無意味だけどな。そこは俺しだいか……
「ただいま、飲み物買ってきたから好きなの取って」
ナズナ達から全員ジュースを受けとるとミリアが張り切って音頭をとった。
「それでは皆さん!! ゼノにぃの復帰を祝って~~……かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!」」」
ああ、やっぱり俺の居場所はここしかないよな。
自然と緩む表情を悟られないように俺はジュースを一気に飲み干した。
~同刻・王都アトランド南の城門~
ここはアトランドの南部。多くの貴族が居を構えることから"貴族街"と呼ばれており、此処にいるのは皆貴族や御抱えの騎士、または一流の商人などの極一部の人間ばかりだ。
当然貴族街を守る城門も他の3つの城門よりも頑丈で、その上通るには毎回厳しい審査を受ける必要があるのだ。
そんな城門の前に一人の旅人風な人間がやって来た。
頭髪はボサボサで、服装も汚ならしいマントで身を包んでいて、何より目立つのはその人物が背負う身の丈程の大きさの奇妙な鉄塊だった。
「止まれ!! 貴様ここがどういう場所か知らんのか!!」
そんな怪しい人物を門番が通す筈もなく当然の様に呼び止められた。
「別にただの王都の一部だろ? それも害虫の巣窟だろ」
「貴様ァ!! 無礼だぞ!!」
今にも斬りかかって来そうな程に激昂した門番の鼻先に、旅人がプレートの様なものを突き付けた。
それを見た途端に門番は姿勢を正して敬礼をした。
「た、大変失礼致しました!!」
先程とはうってかわって畏まりながら対応する門番。
「別に気にすんな」
「と、ところでどうして王都へ?」
「ああ、ちょっとな---」
旅人は不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「弟子のマヌケ面を拝みに、な」