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砕牙~白銀の破壊者~  作者: 伊東 無田
空白の物語 上
55/76

52話 追憶の物語 3

更新は

忘れた頃に

やってくる


と言うことで今年初の更新です

 ゼノが意識を失ってから1週間が経過した。未だにゼノは目覚めない。原因は医者でもわからないようだ。

 事件の調査は相変わらず進展は無い。学園は週明けに授業を再開することを発表した。


 ゼノの病室にはミリアとアリシアの二人が見舞いに来ていた。ミリアはゼノが入院したと知らせを受けてからずっと病室に入り浸っている。他の者も入り浸りこそしないが何度も病室を訪れていた。


 二人はただじっとゼノを見つめていた。既に数えきれない程話しかけたのだが唯の一度も返事が返って来ることがなかったため待つことしか出来ないと悟ったのだ。


「ねえ、シアねぇ?ゼノにぃ何時起きるかな?」

「……アタシには判断できない。でも絶対にコイツは死んだりなんかしないよ」


 ゼノが生死の境を彷徨うのは今回が初めてではない。それこそ修行時代は二人が把握しているだけでも両手足の指の数では全く足りない位に死にかけている。

 しかしそれらは毎回ミリアの母であるミランダが強力な治療術を迅速に施していたため、翌日には修行に復帰することができるほどに回復していた。つまり何時までも"目覚めない"のは今回が初めてなのだ。

 

「そういえばミリア、サンドラは来たか?」

「ううん、まだ一度も……ナズナ先輩がいうにはまだ悩んでるみたい」


「そう…(やっぱり言い過ぎたかしら?)」


 未だにサラは塞ぎ混んでいるようだった。あの時はアリシアも頭に血が上っていたため言い過ぎた自覚はあるようだ。しかしその反面で行動を起こさないサラに対してもどかしくも思っていた。


「それじゃあ、シアねぇ。花瓶の花取り替えてくるからゼノにぃのことよろしくね」

「わかった」


 と、ミリアが病室のドアに手を伸ばした瞬間、ガチャリとドアが開いて誰かが入ってきた。


「サラ先輩!?」

「あの……こんにちは」


 そこにはサンドラ・ルミールがいた。雰囲気はまだ暗くオドオドしているが、以前よりも若干顔色が良くなっていた。

 そんなサラを見てアリシアはため息を一つ吐いてから手招きした。


「その、なんだ、この前は言い過ぎて悪かった……。よく決心したな」

「ちがうよ。アリシアが言ったとおりわたしは悩むよりも先にゼノに謝るべきだったんだよ。それなのにこんなに時間がかかっちゃった」


 サラはベッドの横まで移動して、あの時以来はじめてゼノの顔を見た。

 まるで今にも起きてきそうなくらい安定した寝息をたてていた。

 僅かに黄色くなったゼノ手を握ってサラは話しかけた。

 

「ねえゼノ……わたし、あなたにちゃんと謝りたい。

 眠ってるあなたじゃなくて起きているあなたに」

(だからお願い!目を覚まして、ゼノ!)



~~~~~~~~~~~


~9年前~


 属性検査から2年。ゼノはもうすぐ7歳になる。あの日から彼は落ちこぼれのレッテルを貼られていた。道を歩けば大人には奇妙な物を見る眼で見られ、子供には歳の上下に関係なく蔑んだ眼を向けられるようになった。特に酷いのがシムジウとその取り巻きによる罵声だった。


 というのも、あの日の検査でシムジウは自分が周囲の者達よりも魔法の才能に秀でているのを知った。しかしその直ぐ後のサラの検査で、彼女の魔術師としての資質が自分を上回っていることがわかった。それはプライドの高いシムジウにしてみれば非常に耐え難いものだった。しかし、怒りをぶつけようにも相手は同年代の子供達から人気の女の子で、ちょっかい出すには部が悪いと考えていた。


 そこで彼は標的を代える事にした。属性無しという前代未聞の結果をだした落ちこぼれ、しかも元々村の外からやって来た余所者、何より自分のプライドを傷つけた相手の友達。そんなゼノがターゲットにされたのはある意味必然だったのかもしれない。


~side:ゼノ~


「やーい能無しゼノ~!」

「勉強できない友達いない、しかも魔法も使えない~♪」


 毎日飽きずによくやるよ……

 というか今朝集会所に行く時も言ってたな…いやあれは別のやつか。


「なんだよ、黙ってないで何か言えよ」

「それとも喋れないんじゃないの」

「あ、言えてる~。なんたって能無しゼノだもんね~」


 くだらない……態々そんなことを言うために僕の後をつけているのか。


「暇なやつらだ……」


 何時もの事だから僕は無視して何時もの場所に向かった。



「チッ、何だよ面白くねえな。おいみんな!こんなやつほっといてさっさと行こうぜ!」

「それもそうね。こんなのに構っていても時間の無駄ね」

「今日は何して遊ぼっか?」

「じゃああれは--」


 どうやら飽きたみたいだ。まぁどうでもいいけどね。

 僕はそのまま何時もの場所に向かった。途中で別の集団が遠目に僕を指差して何か言っていたけどそれも何時もの事だ。


「やっと着いた。おーい!爺ちゃ~ん」

「ん?なんじゃゼノ坊か。今日もきたのか」


 僕は毎日通っている喫茶店『青い平原』に入って店主のオルファス爺ちゃんに挨拶した。


「今日は干し肉とトーストのセットで。御代は--」

「皿洗いで、じゃろ。ちゃっちゃと用意しちまうから待ってなさい」


 爺ちゃんのおかげで僕は毎日ご飯を食べれる。今でも毎日食費の500Gを貰ってるけどそれだけで朝昼晩の三食持たせるのは正直厳しかった。今は一食一時間皿洗いするだけで食べる事ができる。


「ほら、お待ちどうゴホゴホッ」


「爺ちゃん大丈夫?」


「大丈夫じゃ。それよりゼノ坊よ。お前さん未だに苛められてるようじゃな」


「まあね。でも正直興味ないんだ」


 これは僕の本音だ。なぜなら--


「何時も家で言われてるからね。『お前は役立たずの失敗作だ』って」


 顔を会わせるたびにザイイリーザは僕にそう言う。だから周りの子が僕に何かを言っていても特に思うことはない。だって今更なんだから……。


「相変わらずじゃの。ときにゼノ坊よ、つい先程サンドラの嬢ちゃんが来たぞ」


「サラが?」


「寂しがっておったぞ。『最近じゃゼノも私と遊んでくれない』とな。

 昔は二人そろって毎日遊び回ってたのにのう。何があったんじゃ?」


「……僕が居ると彼女に迷惑がかかるんだ」


きっかけはあの日、属性検査が行われた日だったな。


「僕に適性属性が無いと判明してからさ、村長の孫のシムジウを中心に僕に嫌がらせをするようになったんだ。今でも外を歩けばみんなが僕を蔑む」


僕が授業で回答を間違えたりしたらわざとらしくみんな大笑いしたり、頼んでもいないのに『能無しゼノとは遊んでやらない』とか言ってきたり、さ。


「まあ、そんなのはどうってこと無かったんだけどさ。

ただ、サラだけは僕の味方だった。何かあれば必ず僕を庇おうとする。正直すごい嬉しかったよ。でもそれ以上に申し訳なかった。だって次第に彼女自身も周りから孤立していったんだ」


昔サラと遊んでた子達ですら何人かはサラを避けるようになった。


「何でサラがそんな目に遭わなくちゃいけないんだ!誰よりも優しくて、誰からも慕われた彼女が!そう思わずにはいられなかった。

だからある日、僕はサラと遊んでた子にこっそりと理由を訊ねたんだ。そしたらその子がこう言ったんだ。

『全部君のせいだ! サラは君なんかを庇うせいでみんなから仲間外れにされているんだ!』って。

だから僕はサラと一緒に居ちゃいけないんだ。サラに迷惑がかかるくらいなら一人ぼっちの方がずっと良い」


それ以来サラとは遊ばないようにしてる。本当は直ぐにでも会いに行きたい。昔みたいに一緒に遊びたい。


黙って僕の話を聞いていた爺ちゃんがため息をつくと僕の両肩に手をそえて口を開いた。


「……事情はわかった。じゃがのゼノ坊。お前さん、嬢ちゃんが何を望んでおるのかまったく解っとらんようじゃの」


「サラが望んでること?」


「嬢ちゃんが何故寂しがっていたと思う? お前さんが嬢ちゃんから距離を置いたせいじゃろうが」


爺ちゃんの両手はシワだらけで枯木のように細い。なのに見た目に反して力強く僕の両肩を掴んでいた。


「お前さんが本当に嬢ちゃんの事を思っているのなら側に居てやるべきじゃよ」


「爺ちゃん……」


「それと、今から自分のことを"僕"ではなく"俺"と言いなさい。そっちの方が何となく苛められなさそうじゃろ?」


 爺ちゃんはそう言うと僕の頭をわしゃわしゃと撫で付けた。


「ゼノ坊。お前さんは優しい。それはお前さんの美点じゃよ。じゃがの、それだけではいかんぞ。

 相手の事だけを考えていてはいかんのじゃ、自分のことも大切にしなさい。そうしないと見えないものだってあるんじゃよ」


 その時の爺ちゃんの顔はとても優しげで、そして何故か少し寂しそうだった。


「強くなりなさい。強くなれば自分自身を好きになれる。そしたら自分のことも大切にできる。」


「よくわからない……けど、ありがとう爺ちゃん。僕「俺じゃ」お、俺、がんばる」


「じゃあ特別に今日は皿洗いを免除してやろう。

 さあ、行きなさい」


 僕は食べ物を無理矢理口に詰め込んで走りだした。

 何をすれば良いのかまったく分からないけど、取り合えず今は僕が一番会いたい人に会おう!


~side out~


「世話のやけるやつじゃの」


 オルファス・バファロンは思い出す。初めてあのどこかほっとけない少年に出会った日の事を。


 オルファスには昔妻がいた。幼い頃から共に学び、遊び、時には喧嘩をしながらもこの村で育った最愛の女の子だった。

 二人は当然のように大人になり、当然のように惹かれ合い、そして結婚した。

 喫茶店を開業したのは丁度その頃だった。開店当初は決して裕福ではなかったが二人で支え合って幸せに暮らしていた。唯一、子宝に恵まれなかったのが二人の悩みではあったがそれでも幸せだった。


 しかし今から数十年前、彼の最愛にして唯一の家族であった妻が亡くなった。彼女は幼い頃から肺を患っており、それが原因で亡くなったのだ。

 オルファスは人生の殆どを共に寄り添って過ごした相手を失った。彼にとって亡くなった妻以外の女性を愛することは不可能だった。故に彼はずっと一人で暮らしていた。


 そんなある日、彼の店に見馴れない少年が訪れた。第一印象は"不気味"だった。何故なら少年の眼がとても濁っていたからだ。その眼には普通の子供が持っている夢や希望といった輝きが一切宿っていなかった。少年は店で一番安いメニューを食べると出ていった。

 それから毎日少年は店にやって来た。毎朝同じ時間に同じメニューを食べに来た。いくらなんでもこんな幼児が毎日来るのはおかしいと思い、オルファスは少年に聞いた。


『毎朝来てるようじゃが親は何をしとるのだ?』


 少年は答えた

『何時も忙しそうにしてます。だから自分のご飯は外でたべるようにと毎朝お金を渡されてます』


 オルファスは絶句した。少年は親から愛情を注がれていなかったのだ。だからその双眸には輝きがなかったのだ。

 それを知ってからは少年に向ける感情が"不気味"から"憐れみ"にかわった。


 しかしある日に変化が訪れた。その日の朝、何時も一人で来ていた少年が同い年くらいの少女を連れてきたのだ。

 その日を境に少年が毎日来ることは無くなった。よく来店するのは変わらないが毎日ではない、そして来るときは何時も少女と一緒だった。

 いつの日からか少年の眼は年相応に輝いていた。オルファスは何故かそれが無性に嬉しかった。親の愛情を知らない少年と子供に愛情を注ぐ機会がなかった自分。いつの間にかオルファスにとって少年は孫のような存在になっていた。少年のほうもまた彼を祖父のように感じていたのか、彼のことを爺ちゃんと呼ぶようになった。


 少年と少女に若い頃の自分と妻を重ねて見るようになったのはいつだったか。


「願わくは、もう少しだけあの子の成長を見守っていきたかった……」


 オルファスの呟きは誰にも届くことはなかった。仮に届いていたとしてもきっと彼の運命は決まっていたのだろう。



-----------


 喫茶店『青い平原』を出たゼノは、ひたすら走っていた。一刻も早くサラに会いたかったが、彼女が今何処にいるのか分からない。そのためゼノは村中を走り回った。


(サラに会ったら何を話そうかな?それよりも怒ってなければいいけど……)


 若干弱気に成りながらも全身全霊でサラを探した。

 そして、走りながらふと人気の無い雑木林の方を見た時だった。木々の間からチラリとサラの紅毛が見えた気がした。


 すぐさま方向転換して雑木林の方に走った。そしてサラを見つけた。


 しかし喜ぶよりも先にゼノは絶句することになった。何故なら--


「違う……わたし化物なんかじゃない」


「黙れよバケモノ!そうやってオレを騙して後ろから襲うつもりなんだろ!」

「こっちはお前が犬を殺して食べてるのを見たんだからな!」


「わたしそんなことしてないよ!!」


 何故ならサラが数人の男の子に囲まれて石を投げられていたからだ。


「……何してんだよ、何してんだよテメーら!!」


 瞬間、ゼノは拳を固めて殴りかかった。


早く過去編を終えたい

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