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砕牙~白銀の破壊者~  作者: 伊東 無田
動乱の物語
51/76

48話 騒動が終わって……

 毎年恒例の高等部1年による合宿が予想外のトラブルにより中止されてから3日が経過した。

 87人が負傷、1人が重傷、そして1人が重体。

 幸いにも死者は一人もおらず、負傷者は全員その日の内に治療魔法を施され完治済み、重傷者も治療の甲斐あって既に意識を取り戻している。

 また、重体者も無事に治療を終えて、後は目覚めるのを待つのみとなった。


-----------


 ガララ、と音をたてて病室の窓が上方にスライドされ開放された。


「ん~、今日もいい天気♪」


 ここは王都アトランドの北地区にある総合病院の一室である。


「お日様がポカポカして気持ち良いや」


 茶髪を揺らしながらミリア・アルフレインがベッドで眠る人物の布団をかけ直した。


「まったく、せっかくの良い天気なのに寝てたら意味ないじゃん」


 ミリアは眠っている人物に笑顔で話し掛ける。当然のことながら返事はない。


「ほらほら、何時までも寝てないで遊びに行こうよ♪」


「あたしね、王都こっちに来てから新しく友達が出来たんだよ。今度紹介するね♪」


「ねぇ~早く起きてよ~」


「起きてってば……」


 次第にミリアの顔から笑顔が消えていく


「聴こえてるんでしょ……?

 お願いだから起きてよ…!」


 既にその双眸からは涙が流れ落ちていた。


「早く起きてよ…!

 早くいつもみたいに笑ってよ…!

 お願いだよ……ゼノにぃ!」


 ミリアの悲痛な叫び声と風に揺れるカーテンの音だけが病室に響いた。


-----------


~『火の学生寮』~


 寮の一室、この部屋の住人の一人であるナズナが徐に口を開いた。


「調子はどうサラちゃん?」

「………」


 ナズナが話し掛けるが、この部屋のもう一人の住人のサラは一言も喋らない。


 マオ先生によって救出された時は意識不明で体中のあちこちが複雑骨折していて危険な状態であったが、その後の王都の医師達の懸命な治療のお陰で、サラの怪我は完治しており後遺症の心配も無いと判断された。

 そして無事に退院して、寮の自室に戻ってきたのが一昨日の昼頃の事だった。


 しかし、彼女は寮に帰って来てからまだ一言も喋っていなかった。ナズナやマルクそしてアリシア、他にも幾人もの彼女の友人が話し掛けてはみたものの一向に口を閉ざしたままで、自室から一歩も外に出ようとしなかった。


「はいコレ、朝ごはんだよ。今日は私の故郷の定番料理"白米"と"味噌汁"それから"アジの開き"だよ」


 このところずっとナズナがサラの食事の世話をしている。流石に毎日三食自炊する訳ではなく、店で買った弁当や差し入れで済ますこともあるが。


「ほら、食べよ!」


 ナズナに促されてコクリと一回頷くと、サラは黙々と出された料理を咀嚼し始めた。


「そういえば昨日ミリアちゃんに聞いたんだけどね、今日からゼノくんのお見舞いに行っても大丈夫みたいだよ!」

「--っ!?」


 途端にサラはピタリと食事の手を止めてナズナに顔を向けた。

 しかし、それも一瞬でまた直ぐに食事を再開した。


「後でみんなでお見舞いに行くんだけどさ、サラちゃんも一緒に行こうよ!

 ゼノくんだってきっと喜ぶよ」


 すると、退院してから初めてサラが声を発した。しかしその内容はナズナにとって予想外のものだった。


「わたし行かない……」


 たった一言、ただそれだけを発するとサラは再び口を閉ざした。


「どうしたのサラちゃん?やっぱり具合でも悪いの?」

「………」


 サラは答えない。再び思い詰めた顔をして一言も喋らなくなった。

 するとコンコン、とノックが聴こえたと思ったら、返事をする前に扉が開かれた。


「おはよう!二人とも準備できた?」

「あ、おはようアリシアちゃん」


 入ってきたのはアリシアだった。完全にマナー違反だがまったく気にせずにナズナは対応した。


「何だよ、まだ飯食ってたのかよ。もう男共は下に集まってるぞ」


 さっさといくぞ、と若干呆れた声でアリシアは二人を急かした。


「……わたしはいい」

「はぁ!? アンタ何言ってんの?」


「ねぇサラちゃん、本当にどうしたの?絶対におかしいよ」


 またしても行くのを拒否したサラを二人共驚きながら問い詰めた。


「だってわたし……許されない事をした!」


「アンタ……一体何をしたの? あの時に何があったの?」


「………わたしは--」


 そして彼女は語りだした。あの時の事を、自分がゼノに何をしてしまったのか、その告白、いや懺悔を--




~~~~~~~~~~~




「……ここは?」


 目覚めたサラが最初に見たのは病院の天井だった。

 上体を起こして周りをキョロキョロと見渡しているとガチャ、とドアが開いて誰かが入ってきた。


「あら、目が覚めたのねサンドラちゃん」

「マオ先生……あの、わたしは一体?」


 現れたのは担任のマオ・フェイ先生だった。サラの意識が無事に目覚めたのを見て安堵しているようだった。


 サラは騒動から丸一日眠りっぱなしだった。そのため頭がボーっとしているようだ。

 サラはゆっくりと記憶をたどった。


 『暗黒の森』で合宿を行ったこと

 その二日目に森で異状が起こったこと

 辛くもオークを討ち取ったこと

 トロルに襲われたマルクを治療したこと

 その後に現れたサイクロプスから自分達を逃がすためにゼノが殿を勤めたこと

 逃げている途中で引き返してみるとゼノがピンチで、それを庇って気絶した事


 そして、最後に見た銀色の--


「バケモノ…」


「どうかした?」

「いえ、何でもありません」


 そこで漸くサラの頭が覚醒してきた。


(思い出した!あの時、銀色の何かがわたしを殺そうと--)


 その時、サラの脳裏を"銀色のバケモノにゼノが殺される"という最悪なイメージが過った。


「そうだ先生、ゼノは!? ゼノはどうなったんですか!?」


「ゼノくんは現在治療中よ。

 安心していいわ、最初こそ何時死んでもおかしくない状態だったけど、とりあえず峠は越えたそうよ。

 まだ親族以外は面会謝絶中だから詳しい様子は分からないんだけどね」


 それを聞いて少しだけホッとするサラ。

 しかし--


「それにしてもあの時のゼノくんは凄かったわよ。

 何せ身体のあちこちがボロボロで血塗れ状態だったのに貴女をおぶって脱出しようとしてんだから。

 しかも銀色に光ってたし。」


「え?」


 一瞬、サラの思考回路が停止した。


「まって先生! 銀色って何が!?」

「だからゼノくんがよ。

 いやーワタシも最初見た時は幻覚かと思ったわよ」


 サラが見たバケモノは銀色、そしてマオの証言ではその時のゼノも銀色だった。


(ちょっとまってよ、だってわたしを殺そうと……)


 しかし考えてみれば手を伸ばしてきただけ。見ようによっては自分を助けようとした様にも見れる。


 そしてサラの聡明な頭脳も瞬時に同じ結論に達した。


(嘘よ!だってもし本当ならわたしはゼノに)


「……嫌」


(命懸けでわたしを助けてくれたゼノに!)


「イ、ヤ……」





















『こ…な……で……バ…ケモ…ノ……』



「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」





~~~~~~~~~~~




「だからわたしはゼノに会う資格が無いの……」


 そう締め括って彼女の懺悔は終わった。


 これが彼女が犯した罪、そして彼女の様子がおかしかった理由である。


 話しを聞き終ってもナズナには一言も喋ることができなかった。

 サラとの付き合いが長い彼女は知っているのだ。サラがどれだけゼノを好きかを、そして彼との思い出をとても大切にしていることを、そしてだからこそ自分自身が許せないということも。



「ごめんね……そういう訳だからわたしは「黙れ」」

「アリシアちゃん?」


 ナズナは怪訝な表情でアリシアをみた。

 何故ならその声に、明らかに怒りが含まれていたからだ。


「くだらないこと言ってないでとっとと行くぞ」

「アリシアちゃん!そんな言い方しなくても!」


「あまりにもくだらないからくだらないつってんだよ!!」


 反論しようとしたナズナよりも更に声を荒げてアリシアは叫んだ。


「よく聞けサンドラ・ルミール!

 てめぇの言ってる事は全部只の言い訳だ!

 ゼノに会う資格が無いから会えない?違うね!本当は怖いだけなんだろうが!

 自分がしたことに正面から向き合うのが!ゼノに拒絶されるのが!!

 怖いからただ引きこもって逃避していたいだけなんだろうが!!!」

「違う、わたしはただ!」

「違わねえだろうが!!

 ゼノに対して申し訳なく思ってるなら今すぐに会いに行け!でもって謝れ!」


「わたしは……」


「それから嫌われるのが怖いだけなら--」


 怒鳴り散らして少しだけ落ち着いた様子で、最後に--


「そんな無駄な心配してないで会いに行け」


 それだけ言い残して部屋を出ていった。






-----------



~同刻・大国アトモス某所~


何処かの会議室に薄気味悪い人間が集まって、ある男の発表に耳を傾けていた。


「え~つまり実験の結果、

・魔力と違って魔素には属性が無い

・魔素の量が多いと魔物は強くなるなるだけでなく賢くもなる

・どれだけ魔素の量が増えても同じ場所に発生する魔物の種類は変わらない

 という事が判明しました。また、魔素を用いた魔法陣の起動と"陶酔薬"による魔物の一時的なコントロールについても可能だということが実証されました。」


「それでは何か質問はありますか?……無い様なので発表を終ります」


 男は発表を終えるとさっさと会議室を後にした。途端に先程とは打って変わってふざけた口調で喋り始めた。


「か~、ったくやってらんねぇなおい!

 なんだってお偉いさんはめんどくさいしゃべり方をさせるんだろうな!

 ってか発表なんか要らなくね?せっかくレポート作ったんだからそれだけでよくね?発表するならレポート要らなくね?」


 男が愚痴っていると、別の男性が正面から歩いて来た。


「何を一人で騒いでるんだ貴様は?」

「あ、先輩ちっす!」


 男は姿勢を正すが口調はそのままで男性に挨拶をした。


「アレですよ、せっかく人が実験を終らせて貴重なデータを取ってきたってのに爺共は労いの言葉の一つも寄越しゃしないんすよ。

 でもって、やれレポート書けだのやれ発表しろだの言われりゃ愚痴ぐらい言いたくなりますよ」

「まあそう言うな、発表自体はなかなかの物だったぞ。」

「アザース」


 男は以前ハワードと名乗った人物だった。

 ハワードは上司にさんざん愚痴ると突然思い出したように話題をかえた。


「そういや先輩このあと時間ありますかね?ちょっと見せたい物があるんすけど」

「べつに構わんが手短にな」


 ハワードは自分の研究室に上司を連れていくと机の上に置いていたある物を見せた。


「これなんすけどね、これをどう見ますか?」

「? ただのサイクロプスのホルマリン漬けだな。頭部だけだが」


 それはまさしく、ゼノが討ち取ったサイクロプスの生首だった。

 上司の男はそれを手に取って一通り観察すると直ぐに机に置いた。


「見たところ随分とキレイに切断されているな。明らかに人間によるものだな」


「実はそれ、息子さんの作品なんすよ」


「……アレは息子などではない。

 まさかそれを言う為にわざわざこれを見せたのか?」

「いや、まぁそんなとこっすよ」


「ふん、下らん」


 不機嫌そうな顔で上司の男は吐き捨てた。

 そして部屋を出ていく直前に


「こんな下らないことをする余裕があるなら次の実験も貴様の担当にしても問題無さそうだな」


 と、吐き捨てた。


「ちょっ! そりゃないっすよ!」


 ハワードは慌てて上司を追い掛けていった。


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