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砕牙~白銀の破壊者~  作者: 伊東 無田
動乱の物語
50/76

47話 崩れ落ちる牙

 死闘の末にゼノはサイクロプスを討ち取った。

 それでもまだゼノは倒れるわけにはいかなかった。


(サラ………)


 サラが、親友が自分を庇って重症を負っているのだ。


(今……助ける)


 激痛に蝕まれているにも関わらず、ゼノの思考力はほとんど通常に戻っていた。全てはサラを外まで運ぶ為に……


 皮肉にもそのせいで聴こえてきた言葉の意味を正確に理解してしまった。


「こ…な……で……バ…ケモ…ノ……」

「--っ!!」


 この時、サラの視界はボヤけて殆ど見えておらず意識も朦朧として目の前にいるのがゼノとは分からなかったのだ。


 しかしその一言は確実にゼノの中の何かを抉りとっていった。

 ゼノの頭の中でかつて師匠に言われた言葉が鳴り響いた。


『大切なものを失うことになりかねないからだ。』

『-他人との繋がりも-』


 手を止めたのは一瞬だけで、ゼノはボロボロの身体でサラを背負うと森の外を目指して歩き始めた。



-----------


~森の入り口~


 教師団の決死の捜索によって殆どの生徒が発見・救出された。

 怪我人こそ出てはいるが、幸いにも死亡者はいなかった。


「あの子達は大丈夫なのかしら~?」


 口調こそのんびりしてはいるが、忙しなく歩き回るDクラス担任のマオ・フェイの表情は真剣そのものだった。普段おちゃらけているが、非常時では別のようだ。

 その後ろを同僚の教師ゲイリー・ブリッツがついて行く。


「少し落ち着いて下さいよ先輩」


「でも行方不明の7人中4人はワタシの生徒なのよ!

 こうなったらもう一度森に入るしか……」


「せめて他の捜索隊が戻るまで待ってくださいよ!」


 普段の態度からは考えられないほどにマオは狼狽えていて、それ以上に生徒のことを心配していた。


「確かに生徒が心配なのは分かりますけどね、この場にいる生徒の監視も重要な「あっ!あそこ!誰かいる!!」って、聞けや人の話を!」


 森の方から誰かが歩いて来たのを発見したため、説教を無視して走りよるマオ。


 森から出てきたのはDクラス所属のマルク・マグリットとナズナ・イスルギ、そして両脇を二人に支えられているEクラス所属のアリシア・ラゲイルの三人だった。


「やっと森を抜けた……早く救援を呼ばないと…」


 一同は殿を勤めているゼノと途中で引き返したと思われるサンドラのために助けを呼ぼうとした。

 すると見知った人物が此方に向かって走ってきた。


「み~つけた!!」


 ズガガ、と地面を削りながら三人の目の前で一拍停止すると、マオは笑顔で飛び付いた。

 疲労している三人がそれを受け止めれるはずもなく、そろって仰向けに押し倒された。


「わっ、ちょっと先生!」

「落ち着いて下さい」

「よかった~!あなた達、よく無事に帰って来たわね!

 これで先生は減給くらわなくてすむわ!」


「それより先生、大変なんです!」


 三人を下敷きにしてはしゃいでるマオを制して、マルクが真剣な表情で話しかけた。


「大丈夫かい君達?一体何があった?」


 そこで漸くマオに追い付いたゲイリーが聞き返した。


「どうしようゲリっち!せっかくボケたのにマルクくんがツッコミを入れてくれない!

 一体ワタシはどうしたらいいのよ!!」

「知らねーよボケ!!あとゲリっちて言うな!」



-----------


 マルクは事情を全て説明した。


 突然トロルが襲いかかってきたこと

 アリシアとサラ、そして森の外からゼノが駆けつけて助けてくれたこと

 謎の男がサイクロプスをけしかけてきたこと

 自分達を逃がすためにゼノが殿を勤めたこと

 そして逃げている最中に気がついたらサラが引き返していたこと


「サイクロプスて、それ本当?」

「はい……にわかには信じられないかもしれませんが。

 とにかくお願いします!ゼノくんとサラちゃんを助けて下さい!」


「……ゲリっち、この子達のこと頼んだわよ」

「ちょ、先輩!?」


 戸惑うゲイリーを無視してマオは森の中へ走って行った。






「なんなのよこれ…」


 マオは現在マルク達に教えられたルートを辿っていた。

 森に入った序盤では、正に道無き道を行く、といった状態だった。しかし少し進んだ所でガラリと雰囲気が変わった。  


「まるで獣道ね……でもそれにしては新しいわね。というか--」


 それはまるで獣道。草も木も全てが薙ぎ倒されて道が出来ていた。

 それだけ聞けば何でもないが異様な点が二つあった。


 一つ目は、折れた枝や倒れた木が全て森の内側へ倒れていること。つまり外から中への一方通行のみで造られた物であると推測出来る。


 そして二つ目は、道の進路上にある物は大木だろうが大岩だろうが全てに人が余裕で通れる程の穴が空いていた。


「どうやったらこんな有り得ない道が出来るのよ……」


 疑問を抱きながらもマオは走り続けた。

 証言にあった戦闘音が全く聴こえてこないところを見ると、既に何かしらの決着がついていると思われた。


 その時、遠くで光る何かが視界に映った。




-----------



~side:ゼノ~



 寒い……

 血を流しすぎた……


 辛い……

 もう筋力だけじゃサラを運べない…

 だから魔闘術は解除出来ない…


 でも魔力が足りないから魔力変換を止めるわけにもいかない…


 肉体強化じゃ止血が出来ない…

 だから魔闘術に頼るけど魔力を消費するから魔力変換をせざるえない…


 完全に悪循環だな……




 師匠の言った通りだった…

 せっかくサラと再会出来たのに…


 それにこのままだと間違いなく俺は死んで全てを失う…


 全てを失う覚悟……

 覚悟なら決めていた……

 決めていたつもりだったのにな…



 死にたくないな…

 でも、もう生きていける気がしないや…


 だけどせめて、この子だけは…

 あの日、俺の心を救ってくれたこの子だけは…


「死なせ…ない…!…絶……対…!」



 既に痛みは引いた…

 違うな…既に痛みは感じない…



 頼む…あと少し…少しだけもってくれ…








「……ちょ……ふた……大丈……!」



 声が聴こえる……

 助けが来たんだ……



 誰か分からないけどこれで…


「サ…ラを…た…の…む!」


 これで思い残すことは何もない…



「…ノくん!しっかりしなさい、ゼノ・アルフレイン!!」




 もう…何も見えないや……


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