表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砕牙~白銀の破壊者~  作者: 伊東 無田
動乱の物語
49/76

46話 銀色の咆哮

『いいかゼノ。絶対に"それ"は人前で使うなよ。』


(ウルサイ!)


『大切なものを失うことになりかねないからだ。』


(ダカラナンダ?)


『ただお前も冒険者の端くれだ、どうしても使わざ る得ない時が来るかもしれない。 だからその時は覚悟しろ』


(イマツカワナイデ、イツツカウンダ!)


『それはな--全てを捨てる覚悟だ。

 鍛えた肉体も、覚えた技も、他人との繋がりも、最悪命すら捨てる覚悟だ』


(ソレガドウシタァァァッ!)


「グルアァァァァァァァァァァァァァァ!」


 怒号と共に噴き出してくる魔力がよりいっそうその輝きを増した。

 

 その双眸は青白く光り狂気を宿し、灰色の頭髪は光を受けて白銀に輝いた。



 先刻までのゼノは、時間稼ぎのために戦っていた。自分自身も逃げれるようにリスクを避けて、相手を倒すのではなく足留めするために。

 しかし今のゼノは完全に相手を殺すために戦おうとしていた。それこそ刺し違えてでも。


『GIAAAAAAAAAA!!!』

 サイクロプスが金棒を振るう。

 上から真っ直ぐに降りおろされた金棒を、ゼノは斜め前に踏み込む事で避けた。

 横から金棒を殴りとばし、サイクロプスの態勢が崩れる。


「ゴラァ!」

 ズン!と音をたてて深々とゼノの拳が再び鳩尾に突き刺さった。

 しかし今度はそれだけにとどまらなかった。


「ゴオオォォ、ラララララララララララララララララララララララララララララララアッ!!!」


 連続でサイクロプスの腹や脚を手当たり次第に殴り続けた。

 攻撃の速度、力が共に先程よりも上昇していた。


 魔闘術によって強化されるのは主に力、強度、そして回復力の三種類である。普通に使う場合、使用した魔力がその三種類に均等に分配される。

 しかしゼノは回復力に割り当てる魔力を全て力と強度に廻した。

 攻撃を受けた時のリスクを度外視し、破壊力の一点を求めた。その結果、魔力が枯渇しかけているにも関わらず、攻撃の一つ一つが重く速いものとなっていた。



「ガルァッ!!」

『BOOooooo!!?』


 ゼノのラッシュによって、本日初めてサイクロプスが戸惑いと苦悶の表情を浮かべながら膝を着いた。

 そしてここぞとばかりに強烈な一撃を浴びせて、サイクロプスを殴り飛ばした。しかし--


「ガッ……!!」


 直後に『ブシュッ』と不快な音をたててゼノの身体中から血飛沫があがった。





 ところで何故、疲労困憊していたゼノが先刻以上の、頭髪や眼が輝く程の魔力を出せたのだろうか?


 ゼノの魔力残量では、魔闘術の維持すら難しい状態であった。

 現に治癒力の強化が弱まっていた。

 しかし今現在のゼノからはトロルを倒した時以上の魔力が噴き出している。



 その答はとても簡単なもので『魔力が無いなら作り出せばいい』

 ただそれだけの事だった。


 そもそも魔力とはすなわち生命力であり、そして生命力とは肉体を形成し、宿るものである。

 それは細胞の一つ一つであったり、血液の一滴であったりと様々なものが生命力を宿している。


 ゼノが行ったこと、それは肉体の『魔力変換』である。

 生命力で作られた肉体を、今回は"筋組織の結合"を破壊して魔力に変換したのだ。


 『肉体強化』が魔力を糧に強靭な身体を得るのに対して、『魔力変換』は肉体を糧に魔力を得るのである。 


 今回行ったのは、筋肉そのものを破壊したのではなく、あくまで結合力、例えるならパーツ同士を繋ぐ接着剤を魔力に変換した……いや、現在進行形で変換しているのだ。


 この技は諸刃の剣で、現在ゼノの身体は全身に激痛が迸り、どんどん筋肉がズタズタになっているのだ。

 激痛のあまり思考力は低下して、怒りのままに暴走し、身体中から止めどなく血液が流れ出ている。

 だからこそ彼の師匠はこの技の使用を禁止していたのだ。





「ガルルッ!」

 唸り声と共にゼノは果敢にサイクロプスに飛び掛かる。

 サイクロプスに攻撃が届くまであとほんの数十センチというところで脇腹を金棒で強打され吹っ飛ばされた。


 すぐさま飛び起きるゼノ、金棒を杖にしてサイクロプスも起き上がる。


 片や大量の魔素によって徐々に怪我が回復していく巨大な化物

 片や秒単位で身体が崩壊していく銀色の化物

 長引けばどちらが勝つかは明白だった。



-だからこそゼノは賭けに出た


 全身から血が、そしてそれを圧倒的に上回る程の光が噴き出し、頭髪だけでなく全身が銀色に輝いた。


「グルアアアアアァァァァァァァァ!!」


 咆哮と共にゼノは地を蹴った、数メートルの距離をひと蹴りで摘める。

 左手に光が、魔力が集束される。

 サイクロプスを目掛けて貫手が放たれる。


『GIRAAAAAAAAA!!!』

 サイクロプスが金棒を振るいゼノを迎撃しようとする。


「オオオオオオオ!!」

(ツラヌケッ!!)


 ゼノの抜き手が金棒を貫いた!


「オオオオオオオオオオ!!」

(トドケ!!)


 矢のように飛び込んできたゼノをサイクロプスが咄嗟に左手で横から掴み、そのまま握り潰そうと力を込める。


『GAAAAAAAAAAAA!!!』


 ゴキ、メキ、グシャ!


 ゼノの全身が徐々に潰されていく


 

-トドケ


 ゼノとサイクロプス、総合的な戦闘能力はいまだに後者が上回っている。


-トドケッ


 しかし、命懸けで戦うゼノの気迫が実力差を覆した。


「トォドォォケェェェェェェッ!!!」


 左手から刃が伸びる…研ぎ澄まされた銀色の刃が伸びる


 ザシュッ!!


 刃がサイクロプスの首を掠める


「グルアアアアアァァァァァァ!」 


 そして刃が振り抜かれた。












 ゼノがサイクロプスと戦い始めてから90分、殺し合いを始めてから90秒で決着が着いた


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ