43話 VSトロル 2
久しぶりです。
最近は就活だの課題だのが忙しくて執筆があまり出来ませんでした。
この小説を楽しみにしているごく少数の読者様に大変お詫び申し上げます。
また、別に楽しみにしてない、または初めて読むという大勢の読者様、気軽に読んでいってください。
暗黒の森の入口は騒然としていた。
毎年行われている合宿。その恒例行事で大きな問題が発生した。
一つ目は『装備持ち』の発生。
通常、暗黒の森に『装備持ち』が出るのは冬等の日が出ている時間が短い時期ぐらいしか無い。しかし今は春、更に言えば最近は快晴が続いていたため、『装備持ち』の発生条件が何一つ当てはまらない状態であった。そんな訳で学園側も全く警戒していなかった。
しかしつい先程、三名の生徒の報告と証拠品によって『装備持ち』が発生したことが判明した。教師団は直ぐに避難勧告を出して、合宿中止を決定した。
二つ目は生徒の避難状況である。
避難済みの生徒は454人、つまりあと50人弱の生徒達は森の中にいるのである。現在、教師団が救出チームを編成中なのだが、まだまだ時間がかかるようである。
そしてここに教師団以上に焦っている生徒が一人いた。ゼノ・アルフレインである。彼は生徒二人を担いで森を出た後、即座に報告を終えてからずっと友人四人が戻るのを待っていた--木の上で。
本当は直ぐにでも森に入りたいところなのだが、闇雲に探しても見つからないため、高いところから森の様子を窺っていたのだ。
(どこだ!? みんなは無事なのか!?)
次々に生徒が森から戻ってくる中、未だ姿の見えない友人を思うがやはり戻ってこない。
「おーい、アルフレイン」
「アルフレインくん」
下から自分を呼ぶ声がしたため顔を向けると、先程ゼノが助け出した二人組がいた。
「そろそろ降りてきなよー」
「先生達がきっと見つけてくれるって」
「……ああ、分かった」
そして最後にふと森をみてみた。するとさっきまで無かったものが視界に入った。
「っ! あれは!」
視界に写ったのはモクモクと立ち上る白い煙りだった。それはとても小さくて見落としそうなぐらい弱々しい煙りだったが、それでもゼノはそこに仲間がいると確信した。
「見つけた!」
瞬間、ゼノは木から飛び降りて駆け出した。後ろから二人組の焦った声が微かに聞こえたが、今のゼノには気にしないる余裕など無かった。
ゼノは駆け出すと同時に肉体強化を発動して一気にトップスピードをだして最小限の動きで木々を躱して行く。それは齢15の少年ができる動きでは無かった。
しかしゼノの内心は穏やかでは無かった。何故なら
--スピードが足りない。煙りが上がっていたのはかなり遠く、故にこの程度のスピードでは遅すぎる。
--なかなか前に進めない。木々を避けてジグザグに走っているため距離をロスしている。故に全く進めない。
更に悪い事に、奥に行けば行くほど木同士の間隔が狭くなっている。
「この木、邪魔だな…」
そしてゼノが選んだ行動は--
「薙ぎ倒してやる!」
「『魔闘術』発動!」
--完全に力任せに直進することだった。
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同時刻、煙りを見つけた人物はゼノだけでは無かった。
サンドラ・ルミールは森の中で偶然見つけた煙りに向かって進んでいた。既に体力はある程度回復していたため、しっかりとした足取りでそこに向かっていた。
「それにしてもさっきから魔物がまったく出てこないわね」
オークを倒してからゴブリン数匹を遠目に発見したぐらいで、ここまで殆ど生き物の気配を感じなかったのだ。
「そろそろ煙りが上がってた辺りのはずなんだけど」
ドゴォォォォォ!
「っ!!何っ、何の音!?」
狼狽えながらもサラは突然起こった地鳴りと煙りからこの先で戦闘が行われている事を推察した。
(つまりさっきの煙りは救難信号ね!)
そして見つけた。走り抜けた先に明らかに人為的に造られたものがあった。
それは煙突だった。煙突からは今もなおモクモクと白い煙りが立ち上っていた。そしてその足下には見知った人物が二人いた。
「ナズナちゃんっ! マルクくんっ!」
「サラちゃん!?」
煙りの正体は水蒸気だった。マルクがナズナに頼んだのは炉の製造だったのだ。ナズナなら簡易的な炉の一つや二つ余裕で造ることができる。そしてその炉にマルクが水を入れて得意の熱魔法で蒸発させて煙りを起こしたのだ。何故わざわざ水を使ったのかというと、枝等を燃やしたら匂いに反応してトロルが此方に標的を代える恐れがあり、その場合アリシア一人で二人を庇いながら戦うことになるからである。
「っ!!マルクくんケガしてるの!?」
「それよ…り、…向こう…で…」
マルクは震える手で現在アリシアが戦っている方向を指差した。
「今アリシアちゃんがトロルと戦ってるの!」
「なっ!! ちょっと待って、トロル!? そんな、何でトロルが!?」
「お願いサラちゃん! アリシアちゃんを助けてあげて」
それはかなり無茶なお願いだった。実戦経験が圧倒的に少ないサラでは、行っても戦力に成るかは分からない。むしろオーク相手に苦戦していた通り、まだ自分の才能を活かしきれていない事を考えると足手まといになる可能性すらある。
つまりほとんど無理難題を頼み込んでいる様なものなのである。勿論そんな事はサラも、お願いをしたナズナでさえも理解していた。それでもこのままアリシア一人に戦わせることが出来なかったのだ。
「わかったわ、やれるだけやってみる」
サラは覚悟を決めて戦場に駆け出そうとした。しかしその肩を突然誰かに掴まれた。そしてサラは振り返った。
「俺が行く」
「ゼノ!?何でここに!?」
「勿論煙りに向かって走ってきたからさ」
そこはたった今到着したゼノがいた。身体中に葉や枝などがついている事から相当急いで来た事が窺えた。
「サラはマルクの治療をできる範囲で、あと途中で薬草を見つけたからナズナはこれを煎じてマルクに飲ませといて」
素早く指示を出すと今度はマルクの元に寄った。
「マルク、後の事は任せろ。今は焦らずに休んどけ」
「うん………頼ん…だ」
「待ってゼノくん、これを…さっきアリシアちゃんに渡された最後の回復薬よ」
「ありがとう、行ってくる!」
そしてゼノは戦場に駆けていった。
視界にアリシアを捉えのは今まさにトロルが棍棒を振り下ろそうとしているところだった。
(間に合え!『肉体強化』!)
そして間一髪でそれを受け止めたのだった。
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「気をつけろよアリス。今日は"装備持ち"がでるほど魔素が濃いからな、中途半端な攻撃は直ぐに塞がっちまうぞ」
「マジか? 通りで…でもまさか心臓を吹っ飛ばしても死なないなんて」
「ぶっちゃけ俺にとって最悪の相性だ」
ゼノの攻撃のほとんどは打撃である。そして目の前のトロルは一瞬で致命傷が塞がってしまうほどの生命力である。つまり有効な攻撃方法は急所の破壊なのだが、アリシアの一撃で既に心臓を破壊しても死なないことが実証されてしまったため、単純に頭部を破壊しても倒せるか分からなくなったのだ。
「ゼノ、少しだけ時間を稼いで」
「何をする気だ?」
「一番デカイやつを喰らわせてやる。再生が追い付かないぐらい一瞬で消し炭にしたら流石に死ぬでしょ?」
「分かった。と、その前にこれ使え」
ゼノは懐からナズナに渡された魔力回復薬の小瓶を取り出した。
「それ元々アタシのだし…アンタは平気なの?」
「俺はまだ魔力には余裕があるからな。だからお前が飲め、そんで一撃で決めろ。行くぞ!」
会話を打ち切ってゼノは吹っ飛んだトロルに向かって一直線に駆けていった。それを視界の隅に捉えながらアリシアは自分の《杖》にありったけの炎の魔力をゆっくりと丁寧に注ぎ込んでいった。
重い身体を起こしながらトロルは訳がわからずに獲物を見つめていた。
元々知能が低いトロルはそもそもあまり物事を深く考えはしない。ただ本能のままに動いて獲物を狩り、貪り食らう。そこには思考の挟む余地など皆無である。
しかしそんなトロルでさえ困惑し考え込む程の出来事が起こった。先程、獲物の内の一匹に止めの一撃を放った。何時もどおりならば獲物は潰れ、その感覚が棍棒を通して腕に伝わってくるはずだったのだが今回は違った。棍棒を振り下ろした直後、棍棒が何かとてつもなく硬い物体にぶつかった。さらにあり得ない事に自分の身体が吹き飛ばされたのだ。痛みはほとんど無い、少くとも肉体的には。しかし発生してから今日まで同族以外に無双を誇っていた自慢の巨体が飛ばされた事で動揺していた。
故にトロルがゼノの二撃目を防げたのは奇跡に近いのだろう。
ゼノの肉体強化を施した状態での全速力の突進。その突進を反射的に振り上げた棍棒が突進の軌道を反らした。
ズガガガ、と地面を削りながら停止して新めてゼノはトロルを観察した。先程繰り出した技『裂波』は攻撃をヒットさせる瞬間に掌から衝撃波を発生させて相手を吹き飛ばす技である。あくまで"吹っ飛ばす"だけなのでダメージは少ないのだ。つまり目の前のトロルも例に漏れずほぼノーダメージだった。
我に返ったトロルがゼノに迫る。その剛腕によって再び棍棒が振るわれる。それに合わせてゼノも左拳を繰り出す。
『オオオオオォォォォォ!!』
「やかましいっ!!」
互いの攻撃がぶつかり合う。体重はトロルが上、スピードはゼノが上、そして力はほぼ互角。結果トロルの棍棒は根本からへし折れ、またゼノの左手首が折れた。
「ぐっ!! っの野郎!」
痛みに顔を歪めながらトロルの左足に右フックをぶち当てる。トロルの体勢が左に傾く。すかさず脇腹に跳び蹴りをぶちかました。しかし飛び上がったせいで隙が生まれてそこをトロルの裏拳で弾き飛ばされた。
ガードが間に合わず、ゼノの肋骨が二本ほど折れた。
『ブガァァァァァァァ!』
「オルァァァァァァァ!」
互いに雄叫びを上げながらぶつかり合う。今やトロルも素手で殴りかかってきている。打ち合う度に互いの身体が軋んでいく。しかし、ダメージが蓄積するゼノに対してトロルは瞬時に回復してしまう。必然的に打ち合に差が出てきた。
遂にはトロルのボディーブローをバックステップで威力を殺しながらも数メートル殴り飛ばされた。
「ゼェ…ハァ…ゼェ…」
(アリス、まだか?)
その時--
「ゼノ、準備が出来た!アイツを真上にぶん投げて!」
「っ!!よしキタァっ!!」
「光栄に思えよデカブツ、一瞬だけ本気で相手をしてやる。
『魔闘術』発動!」
直後ゼノの全身が淡い光に包まれた。