39話 暗黒の森の戦い 2
合宿二日目の開始から約三時間、たった三時間で状況は一変していた。
森の入口の魔物は昨日と大差なかった。しかし、奥に行くほど同じ魔物でも明らかに強くなっていた。
「ちくしょう!やべぇぞ!」
「わかってるわよ!」
ここに居るのは今朝"装備持ち"のゴブリンを瞬殺した二人組である。その周りを十体以上のゴブリンが取り囲んでいた。
二人は背中合わせでそれに対応していたがゴブリンの数は時間と共にどんどん増えて行く。
「このままじゃジリ貧だ!こうなりゃ一点突破で切り抜けるぞ!」
「わかった!『薙ぎ倒せ砂の波 サンドウェーブ』!」
二人組の片割れの女子が《杖》のハルベルトを振るい、地面から砂が勢い良く飛び出しゴブリン達を襲った。
昨日までのゴブリンならばこの時点で倒せないにしても砂に呑まれて身動きがとれなくなっていたはずである。しかし今日のゴブリンはというと、砂に背を向けゴブリン同士で腕を組んで互いの体を固定、そして全員が地面に確りと両足を着けて背中で波を受け止めて『サンドウェーブ』を耐えきった。
「嘘でしょ…!?」
「ボヤボヤすんな、来るぞ!」
波が止むと周りを取り囲んでいたゴブリン達が一斉に襲ってきた。
二人組も即座に魔法で迎撃を開始する。しかし数が違いすぎるため徐々に距離を詰められて行く。
「こうなったら仕方ない、凌ぐぞ!『ウッドメイク』」
「了解!『ストンウォール』」
片割れの男子が魔法で木製の高台を作り、女子の方が其を返しの付いた石壁で囲って強度を増した。
突破することを諦めてゴブリンの攻撃を受けないようバリケードを作って助けを待つことにしたのだ。
「これで暫くは大丈夫ね、でも…」
「ああ、完全に逃げれなくなった」
二人の眼下には石壁を登ろうとするゴブリン達と、其を見つけて何処からともなく集まってくるゴブリン達がいた。更に悪いことに二人の魔力も殆ど残っておらず迎撃すら出来ない状態だった。
15分位経過した辺りで遂に二人の精神力に限界が訪れようとしていた。ゴブリンは増える一方でお互いを踏み台にして徐々にだが壁を登ってきている。
「ねぇ…本当にもう手詰まりなの?」
「…無理だ…玉砕覚悟で突破したとしても逃げ切れない…もうそんな魔力も体力も残ってない」
既に女子の方は目が虚ろに、男子の方は何もかも諦めていた。そして--
--ピシッ
ゴブリンの度重なる攻撃を受けて遂に石壁にヒビが入った。
~side:二人組~
その直後に起こったことをおれ達は直ぐに理解できなかった。
相方の作った壁の一部が崩れ落ちて、其所からゴブリンがその醜悪な顔を除かせていた。
ワタシは遂に微かに残っていた希望すら失ってしまった。もう壁を作り直す魔力は残ってない、相方もこれ以上台座を高くする為の魔力が無い。
あとどれだけ粘れるか分からないけど今から助けが来たとして、この最早群れと呼べるほど数を増やしたゴブリン達を追い払う頃にはきっと、おれと相方はこの世にいないと思った。
でも--
だけど--
おれ達の予想は一瞬で覆された。
突如、木々の間からオークが後ろ向きに飛んできた。そのままオークは直線上のゴブリンを巻き込んで木に激突した。
訳が分からない…よく見たらそのオークは既に絶命してるし、何よりそいつの腹部が大きく陥没してる事から何者かがオークを吹っ飛ばしたことだけは分かったけど。
ワタシ達、いや、ゴブリン達ですら手を止めてオークが飛んできた方向へ視線を向けた。
ワタシは息を飲んだ。其処に居たのは学園の制服を着た生徒だった。
どうやら男子生徒みたいだが、何となく見覚えがあるような…?
だがそんな思考も中断せざるを得なかった。ゴブリン達が再びおれが作った台座を登り始めたからだ。相方も気付いたのかハルベルトを振ってゴブリンを牽制している。おれも手伝おうとしたその時だった…
噎せ返るような強烈な殺気がこの一帯を覆った。そして--飛び込んできた灰色の影がゴブリンを薙ぎ倒した。
影の正体はさっきの生徒だった。そいつはただひたすらゴブリンの群れの中で暴れまわった。
ひたすら殴る、蹴る、投げる、引きちぎる。腕を振るえばゴブリンの首がもげて飛んでいき、蹴りを繰り出せばガードごとゴブリンの胴体を真っ二つに、あまりの疾さで見失ったと思えば離れた場所でまたゴブリンの臓物が吹き飛ぶ。
返り血を浴びてなお猛々しく暴れまわる様は正に"獣"のようだった。
気づけばゴブリンの群れは殆どが物言わぬ肉塊に成り果てて、生き残りは一匹残らず逃げ去った後だった。
~side out~
ゴブリンの群れを蹴散らしたゼノは、基礎魔法の『水汲み』で返り血を洗い流しながら襲われていた二人組に向き直った。
「そこのアンタ等、大丈夫か?」
「--っ!!あ、ああ、有難う助かった」
ゼノは二人を観察したが目立った怪我はなかった様なので、ホッと一息ついてから二人に近付いた。
するとゼノは何かに気付いた様子で二人組の男子の方を見た。
「そのメイスは…もしかして"装備持ち"が出たのか!?」
「で、出たけど、確か入口付近だったな。其が何なんだ?」
「入口付近だと…不味いな」
ゼノは焦った様子で呟いた。すっかり置いてけぼりの二人組は控えめに口を開いた。
「ねぇ、助けてもらって悪いんだけどさ…一人で納得してないで説明してくれないかしら」
「わかった。まず最初に"装備持ち"が厄介だと言われている理由は知ってるか?」
「そんなの通常より強い武具を使ってるからなんじゃないの?」
「それもある、けど一番の理由は"装備持ち"の魔物が"発生"する条件にある」
「条件?」
「ああ、"装備持ち"が発生する条件、それは『魔素が地表に湧き出している』だ」
「この"魔素"ってのは魔物の根源と言われてる元素のことで、普段は地中に埋まっている、だから魔物の"発生"は地面から湧き出る形になるんだ。
其が地表に出てくると魔物が"発生"するときに普段より多くの魔素が魔物に吸収される、その結果、通常よりも強い個体の魔物が"発生"する。更にその状態で極希に魔物の武具が強化される時がある。これが"装備持ち"だ。
だけど一番最悪なのは"装備持ち"が湧くほど魔素が地表に出てる場合、戦いの最中でも常に魔物が魔素を吸収して徐々にだが傷が回復する事だ。」
話を聴き終わると二人組は段々青ざめた顔になった。
「じゃあ今日は森の端まで魔素が溢れてるってことかよ!」
「だから昨日よりゴブリンが強かったんだ…」
「早くこの事を先生達に知らせたほうがいい。アンタ等は直ぐに森の外に向かってくれ」
そう言い残して立ち去ろうとするゼノを二人組は慌てて止めた。
「ちょ、ちょっと待って、その…恥ずかしいんだけど、ワタシ達もう魔力が残ってないのよ」
「だからおれ達は魔物を避けながら移動することになるからどうしても時間が…」
ゼノは森の奥を一瞥すると再び二人組の方に歩み寄って、いきなり両肩に二人を担いだ。
「おわっ!」「ちょっ!」
「口を閉じたほうがいい、舌を噛むぞ」
そのままゼノは森の外に肉体強化を施した状態で全力疾走した。
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
両サイドの二人組の悲鳴を聴きながらゼノは険しい顔で生い茂る木々を掻い潜って走った。
(みんなは無事なんだろうな?クソっ!)
一抹の不安を胸に、ゼノは森を駆けて行った。