36話 刻一刻と…
~side:サラ~
『グルアアアアアァァァァァァァァ!!』
耳をつんざく様な雄叫びでわたしの意識は浮上した。
体のあちこちが痛い。もしかしたら何処か骨折してるのかもしれない。
意識が朦朧としているがわたしは瞼を開いた。視界が霞んでいてハッキリと見えない。けどこれだけはわかった。
「バ……ケ、…モノ?」
大きい化け物と銀色の化け物、二匹の化け物が殺し合いを演じていた。直後、大きい方の化け物の首が斬り飛ばされた。首はそのまま大きな弧を描いて木々の奥へと飛んでいった。
ズシーン、と大きな音をたてて首が無くなった化け物の身体が倒れた。それを一瞥すると生き残った銀色の化け物は今度はわたしの方に顔を向けてきた。
化け物はその傷ついた身体を引き摺ってわたしに近づいてきた。
(嫌! 来ないで!)
遂に化け物はわたしの目の前まで近づいてきた。ボヤけた視界でもわたしはハッキリと認識した。化け物がわたしに向かって血に塗れた腕を伸ばしてきた。
(嫌! 死にたくない! 誰か助けて!)
「こ…な……で……バ…ケモ…ノ……」
言葉を絞り出すと同時にわたしの意識は再び沈んでいった。
~side out~
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時は遡り前日の午後六時、合宿1日目が終了した直後。
「生徒諸君、今日の予定はこれにて終了だ。無事に水晶玉を見つけた者は小屋に入る際に見せてくれ、また残念ながら見つけられなかった者はくれぐれも結界の外に出ない様に。
それでは後は各々自由にしていてくれ、解散!」
演説が終わるとガヤガヤと騒ぎだす生徒達。皆それぞれの成果を仲間内で話し合っているのだろう。
ゼノはというと、人ごみをかき分けていつものメンバーを探していた。
すると遠くの方にいたよく目立つ紅い髪の生徒と目が合った。
「ゼノ~~! こっちこっち~!」
「わかった! 今行く!」
手を振りながらサラが大声でゼノを呼んだ。ゼノは返事を返すとそっちに向かった。
既にそこにはマルクとナズナ、そしてアリシアの三人も集まっていた。
「お待たせ。てかアリスも一緒だったんだ」
「何?なんか問題でもあんの?」
「んにゃ、別に。 それよりもみんな結果はどうだった?」
「今から報告し合うところよ。」
「とりあえずアタシ達は二人共見つけたけど」
同じエリアだった為なんとなく一緒に探索していたサラとアリシアは、二人共見事に水晶玉を発見したようだった。
「ていっても終了間際に偶然見つけたんだけどね。」
「ああ、時間無いから獣道を通って帰ってたら偶然二個落ちてたんだよ。
まあ、ゴブリンはもっと襲ってきたけどね」
「そりゃ獣道じゃなくてゴブリンの巣の近くなんじゃ……?」
「それはない。もっともそれぐらい湧いてで出てきたけど」
「ふーん、それで今度は幾つ焼け野原を造ったんだ?」
「うぐっ! ア、アタシだってそんな毎回「6つほど出来てるわよ」 ってコラ!」
アリシアは森の中でも遠慮無しに炎を撒き散らすため当然木に燃え移るのだ。もっとも普通の木なら一瞬で灰になるため大火事に成ることはないのだが。
「もしかして以前僕達が見つけた焼け野原も?」
「…た、たぶんアタシだと…おもぅ」
マルクに問いに対して徐々に声量を減らしていくアリシア、思い当たる出来事があるのだろう。
「そ、それよりアンタ達はどうなのよ!?」
「(今ちょっとだけ素が出たな…)僕達も無事に見つけたよ」
動揺して口調が戻りながら話題の矛先を変えるアリシアにマルクはさらりと返した。
「そうそう、マルクくんが凄かったんだよ!」
そこでナズナが興奮した様子で身を乗り出した。
「開始してから一時間ぐらいで二つも見つけたんだよ!もう私ビックリしちゃった!」
「わかったから落ち着こうかナズナちゃん」
サラに指摘されてナズナは恥ずかしそうに咳払いをした。
「それでマルク、どうやって見つけたんだ?」
「えっと、森に入ってからすぐに熱感知の魔法を使って魔物を警戒しながら進んでたんだ。そしたら--」
マルクが言うには感知範囲内に周りに比べて少し冷たい何かがあったため探してみたところ、なんとそれが件の水晶玉だったらしい。
あとは熱感知で更に遠くを探ってみたらもう一つもあっさりと見つかったらしい。
「この水晶玉が日陰にあったおかげで冷えていたんだと思うよ」
結果、マルクとナズナは初日をトップでクリアしたらしい。
「ちょっと待って、アンタの熱感知の範囲っていくらあんの?」
「え? そうだな…自分の周囲を探るなら半径200メートル、一方向に放射状に探るなら500メートルはいけるかな」
それを聞くとアリシアは絶句した。彼女も火属性の魔術師のため熱感知魔法の難易度を理解しているのだ。
「周囲200メートルって…アタシなんか放射状でも50メートルなのに…」
「熱魔法は得意なんだ。 もっとも魔力消費量が少なかったからこれぐらいしか練習できなかったからなんだけどね」
「それにしたって…一般の冒険者でも周囲150メートルあれば上等な方なのに」
マルクの魔法技能は既に一流魔術師の域に届きそうなぐらい高かった。もしも魔力総量が平均の七割程度というハンデを背負ってなければ、間違いなく学年首席になっていたであろう。
「じゃあ最後はゼノの結果だね。どうだったの?」
「ん、俺? 俺はもちろん野宿確定だぞ」
「ん?」
「へ?」
「え?」
「だろうな」
役一名を除いて思わず間の抜けた声をもらした。
「だから水晶玉が見つかんなかったんだって」
「で、でもゼノくんこの前の採取クエストでは沢山薬草や水茸を見つけてたよね?」
平然と言い放つゼノにナズナが疑問を投げ掛けた。
四人で行った最初のクエストでは確かにゼノは簡単に薬草などを発見していた。だが--
「だって薬草とかは大体同じ様な環境で育つからどんなところを探せばいいのか経験でわかるけど人為的に置かれた水晶玉はそういうわけにはいかないからね」
つまり基礎魔法しか使えないゼノの純粋な探索能力はとても低いのである。そのため今回の課題は最悪の相性と言えるだろう。
「でもそれじゃあゼノだけ野宿なのか……結界があるとはいえ大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫、結界無しで野宿したこともあるから」
「「「はい?」」」
「あ~、アレか…」
「二度とやりたくないよな…アレは」
驚きの声を上げる三人にゼノとアリシアは遠い目をして当時のことを思い出していた。
「大変だったよな…洞穴に籠ったとしても、バリケードの内側で魔物が湧いてくるから焦ってたな」
「最終的には木と木の間にロープで即席のハンモックを作ってそこで寝たんだっけ…」
その後三人はそれ以上その話題に触れないように話をそらした。
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~教師用のプレハブ小屋・一階リビング兼会議室~
結界の中心に仮設された小屋で、教師陣が初日の成果について話あっていた。
「今日の合格者は136人です」
「やれやれ、毎年のことながら初日の成績は目も当てられないですね」
「ええ、ですが今年は一味違いますよ」
そこでEクラスの担任ゲイリー・ブリッツが手元の資料を読み上げた。
「今年の最速タイムは1時間43分です。因みにこのタイムは歴代でもトップ10に間違いなく入るでしょうね」
「あら~凄い子がいるのね。なんて名前?」
「名前はマルク・マグリット、それからナズナ・イスルギの二名です。いずれも所属はDクラスです。」
教師達が感心の声を上げた。まさか準備が出来ていないDクラスの生徒が初日をワン、ツーできめるとは誰も思っていなかったのである。
「それは凄いわね。二人いるってことは偶然見つけただけの可能性は低いもの」
「そうですね。それに、確かこのマグリットという生徒は編入試験の筆記試験で一位をとった生徒でしたね。」
「へ~、それは初耳ね~」
「「「いや、アンタの生徒だろ!!?」」」
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暗黒の森の奥、既に木々が黒く染まっているぐらいの所に男が佇んでいた。
「えーとマルク・マグリットとナズナ・イスルギか、どれどれ…おっ、確かにDクラスだな」
男は手元の名簿から二人の名前を探しだした。
男は予め仕込んでおいた魔法具で会議を盗聴していたため、この二人に興味をいだいたのだ。
「アレのことも個人的には気になるが仕事優先だよな~メンドくせっ」
「まあいい、そんじゃそろそろ起動させておくか」
男の足下には魔法陣が敷かれていた。男は懐から薬品らしきものを取り出してそれを魔法陣に垂らした。
--ブォン
突如、怪しく光り出す魔法陣。
男はそれを確認するとその場から去っていった。
--そして夜は更けていく
--刻一刻と近づいて来るのだ
--最悪の一日が…