34話 災厄のまえぶれ
王都に来て1ヶ月
ゼノ・アルフレインは様々な人達との出会いや再会を経験し、充実した学園生活をおくっていた
「はい、という訳で今週末に皆さんには『暗黒の森』に行って課外授業を受けて頂きます。」
「先生、話が急すぎます!なにが『という訳で』なのか説明してください!」
5月の初日、1-D担任のマオ・フェイが開口一番でそんなことを言い放った。
既に1-Dでは担任の発言に対してマルク・マグリットがツッコミを入れるのが恒例行事になっていた。
「だから言ったじゃないのyo!『来週の連休を利用して一年生全員に最後の洗礼を行うのが恒例行事になってる』ってyoー!」
「初耳です!その話は本当なんですか!?」
「そのとおりyo!先々週の職員会議で知らされたのyoー!」
「絶対に言い忘れですよねそれ!先々週から決まってたのに今日発表ですもんね!!」
「チェケラ!」「喧しいわ!」
魔法学園高等部の一年生は毎年5月の最初の週末にこの1ヶ月間の課題のまとめとして王都の西の名も無き森の更に向こうにある『暗黒の森』で演習を行う事に成っているのだが…
「狼狽えるのはお止めなさい。みんなわかっていたはずよ……先生が見た目以外ポンコツだって」
「開き直んないでください!そしてさりげなく自画自賛しないでください!」
担任がコレなので発表が5日前と、なかなか急な事になってしまった。
「ちなみに今回はクエストを受注する必要はないわよ。全員同じ内容になってるから。
それからチームではなく個人で行うから、そこんとこ夜露死苦!」
「先生、さっきからキャラがブレブレです!せめて1つに統一してください!」
マルクは無駄だと理解していたがそれでも叫ばずにはいられなかった。
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王都アトランド西地区の大通りは学生で溢れかえっていた。より正確にいえば高等部一年生で溢れかえっていた。
5日後に課外演習が行われるため、どの生徒も我先にと商品を買い漁っているのだ。
「くそ、最近どの店もやけに混んでいると思ったら……」
「どうする?どの店もほとんど品切れ状態で買えるのはロープや火打ち石ぐらいだってさ」
担任のチョンボのせいで完全に出遅れた1-Dの面々は忌々しそうに店を眺めていた。
今回の課題はほとんど詳細不明のためどの生徒もいつも以上に準備を行っているため、課題の発表があった二週間前から激しい道具争奪戦が繰り広げられていたた。
だがラスト5日となると流石に売り切れになる店が続出していて、売ってる物はどれも簡単な魔法で代用出来るいわば売れ残りばかりになっていた。
「もーいや!担任のせいで出遅れるクラスってなによ!」
「ちくしょう!このままじゃ俺の成績がえらいことにー!」
そこかしこから聞こえてくる悲鳴は紛れもなく1-Dの生徒達のものであった。
「はぁ~~………思えばこの1ヶ月で分かりきっていたことだけどさ…」
「今度という今度は流石に無いよね…」
「いい加減に誰かあの担任に言ってやってよ…」
上からマルク、ナズナ、サラがそれぞれ愚痴をこぼした。彼等も例に漏れず事前に何も聞かされてなかったため全く準備が整っていない状態である。
「まぁ無理だろうな……あの人のやる気ス〇ッチは主に合コンにしか働かないからな」
「何だよやる気〇イッチって…」
「ねぇゼノ~何か良い案ないの?」
「つっても今回ばかりは流石に……だいいち詳細不明の時点で御手上げだね。
一応そこで売ってたロープは買っておいたけど」
「使い道あるのそれ?」
四人は片っ端から店をまわっているがやはり殆ど売り切れていた。
「まぁ無い物ねだりしててもしょうがないか。
とりあえず今日はここまでにして明日新ためて探しに行こう。」
「そうね、仕方ないよね。」
結局この日は諦めて明日あらためて探しに行くことになった。
しかし翌日以降も結局目ぼしいものは見つからずに週末をむかえることになるのだった。もっともそれは1-Dの生徒全員にいえることだが。
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~side:???~
~課題当日・大国アトモス某所~
「もしもし此方ハワード、聴こえますか~」
フード付きのマントで全身を覆い尽くした長身の男が手に持った半透明な白い球体に話しかけた
『ザザ……こち……ザ…』
すると球体が音を発した。しかし雑音が酷くて何を言っているのか全くわからなかった。
「もしもし、もしも~し……駄目だノイズが酷くて分かりゃしねえ…とりあえず一方的に喋りますよ~」
『ガサ…ザ…』
「仕込みは完了しました。あとは予定通り監視を行います。
ところで--」
男は懐から書類を取り出してほくそ笑んだ
「なかなか面白いことに成りそうですよ…今回の実験」
男の視線は書類に書かれているある人物の名前に向けられていた--
ゼノ・アルフレイン 所属:Dクラス