プロローグ
「本当に行っちゃうの?」
少女は泣きそうな眼で目の前の少年にたずねた。
「仕方ないよ、俺みたいな役立たずを引き取ってくれる人なんて他にいないからね…」
少年は少し困った顔をしながらそう答えた。
「違うよ!ゼノは役立たずなんかじゃない!村の皆がゼノの良さを理解してないだけだよ!」
「俺の良さ?そんなの存在しないよ、頭も悪いし魔法の才能も無いし、それに何より…」
少年--ゼノは俯きながら呟いた
「あんな最低な親達の息子何だから…」
「!!………でもそれはゼノのせいなんかじゃ…」
ゼノの両親はつい先日、ある事件を起こして失踪した。
………たった一人、十歳になったばかりのゼノを残して
「それに村の皆が言ってるよ、『お前みたいな落ちこぼれが村に居座ること自体間違いだ』って」
ゼノには魔法の才能が無かった、それどころか、ひとりに最低一つはあるはずの魔法の『適正属性』すら無いため村の同年代の子供達からいじめを受けていた、また、彼の両親は息子にほとんど興味を示さず彼とまともに会話を交わすことすら無かった。
ただ一人、目の前の幼なじみだけが彼の唯一の味方だった。
「でもゼノが居なくなったら、わたし…」少女は涙を流しながら力無く呟いた
「大丈夫だよ!……サラならきっと俺がいなくてもやっていけるから。」
「でも!」
「サラには魔法の才能がある。だからきっと、他の皆ともすぐに仲良くなれる。………もう俺を庇う必要も無くなるしね。」
ゼノは、俯いて泣いている少女--サラに微笑んだ
「俺さ、向こうに行ったらおじさんに剣術を習ってみることにしたんだ。」
「?」
「だから約束するよ!次に会うまでに絶対に強い剣士に成るからさ、楽しみにしててよ!…ね?」
「グス………わかった。でももう1つ約束して…」
サラは涙を拭いながら言った
「絶対に…絶対にいつかわたしに会いに来て。」
ゼノは笑顔でそれに頷いた。
「小僧、そろそろ時間だ。」「…はい、わかりました。 それじゃまたねサラ…」
「またねゼノ…」
ゼノはサラと最後に微笑みながら別れの挨拶を交わし、魔動車に乗り込んだ
「挨拶はすんだか?」
運転席で男が尋ねた
「うん」
「じゃあ行くぞ」
走り去っていく魔動車をサラはいつまでも眺めていた
「ねぇおじさん「おじさんじゃねぇ!お兄さんだ!」………ゴメン。お兄さん」
「なんだ?」
「向こうには何日ぐらいに着くの?」
「…だいたい三日ぐらいだ。」
「そっか、遠いね…」
「だからよぉ、いつまでもそんなひでぇ顔されたらこっちが参っちまうからよ、いまのうちに泣いておけ。」
「!………グス、うわああああぁぁぁぁぁ!!!」
ゼノの悲鳴のような泣き声が草原に響き渡った。