26話 アトランドの休日 その1
4月の半ば、二回目の週末
王都アトランドの東地区にある魔法学園火の学生寮のとある一室
この部屋の主の一人であるゼノは難しい顔をして座り込んでいた
「……………退屈だ」
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それは昨日の出来事
「それでは明日から週末ですので課題を出します。」
「「「えーーー!!!」」」
教壇に立っているマオからの宣告に教室中からブーイングが飛び交った。
「今回の課題は皆さんにチームを組んで行ってもらいます。」
「ペアじゃなくてチームですか?」
教室の前の席に座っている生徒が疑問を投げ掛けた。
「そうです。ただし条件が一つだけあります。
チームメンバーの合計ギルドレベルは3以下にすることです。
じゃあ質問のある人は?」
するとマルクが手をあげた。
「つまりメンバーにレベル2がいたら最大二人、レベル3なら一人でクエストを遂行しろということですか?」
「まさにその通りよ。経験者が固まったら不公平になるからそうならない為の措置よ。
それじゃあ各自チームを作ってちょうだい。それから他に質問のある人は個別に聞きにきて。今日は合コンも無いからその辺で適当に寝てるから。」
教室中で生徒がチームのメンバーを探している中で、ゼノがこっそりとマオに近づいた。
「質問してもよろしいですか?」
「どうぞ」
ゼノは自分のギルドカードを見せながら訪ねた。
「今回の条件だったら俺一人でレベルオーバーになるんですけど。」
「え~…」
マオはカードを確認して少し考え込んだ
「じゃあ免除でいいや… また何か問題起こされても嫌だし…」
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という訳でゼノは暇をもて余していた。
ちなみに他の三人は今回正式にチームを組んで行動しているため誰もいない。
「仕方ない…その辺を適当に散歩するか。」
とりあえず今日は動きやすい私服で外に向かっていった。
一階のロビーでは数人の生徒が集まって話し合いをしていた。おそらく今日のクエストについて話し合っているのだろう。
(それにしても変な視線を感じるな… 悪目立ちしすぎたか?)
ゼノが降りてきたら何人かの生徒がチラチラと盗み見ていた。編入して僅かに二週間で既にゼノは周りから浮いていた。
(とりあえずゲートに向かうか…)
そう思い玄関を出ようとした矢先--
「ゼノにぃ~~~~~♪」
「アベシっ!!!?」
小さな影がゼノの脇腹に突っ込んできた。
「ゲホッゲホッ!こらミリア、痛いだろうが。それに人前では兄さんと呼べって言っただろ。」
突っ込んできたのはゼノの義妹のミリアだった。余談だがミリアの特攻は(ゼノに対してのみ)気配も無く大猪もビックリのスピードで突撃してくるのでゼノじゃなかったらアバラの二、三本はコナゴナになる代物なのだ。
「ゴメーン。でも久々の登場だったからつい。」
「確かに、最後に出たのは10話だったか?」
いきなりとんでもない会話をする馬鹿兄妹
「それで調子はどうだ?うまくやってるか?」
「勿論だよ。むしろお兄ちゃんのほうが心配だよ。」
「そっか。それなら安心だ。」
ゼノはミリアの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「えへへ……」
「ん?それが新しい《杖》か?」
ゼノはミリアの腰にぶら下がっている物を指差して聞いた。
「うん!オルディンさんに作ってもらったの!お金はお母さんに渡された分で足りたよ!」
それは一振りのショートソードだった。装飾は無く刃と柄だけのシンプルな作りで、剣先は殆ど平らで片方だけに刃が着いた白銀の刃だった。
「凄いなソレ… 重く無いのか?」
「うん!軽くてとても丈夫だよ!」
実際にミリアは鞘に納まったままの剣を片手で軽く振った。
「お兄ちゃんも解体用のナイフでも作ってもらえば?」
「そうだな、気が向いたら行ってみるよ」
「それじゃあアタシ行くね。これから友達と出掛けてくる。」
「行ってらっしゃい。楽しんでこいよ。」
ミリアは手を振りながら走って行った。
「さてと、俺も行くか。」
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~王都・北地区~
ゼノは暇なので久しぶりに北地区を歩き回ることにした。
北地区は主に商人や冒険者などの町の外を行き来する人が多いため、基本一日中賑わっている。
「考えてみたら北地区に来たのも久しぶりだよな。」
とりあえずゼノは寄る所も無いためとりあえず『オルディンの武具屋』に向かった。
ギ…ギギギ……ガキョッ!
「お邪魔しまーす。」
「ん?誰かと思ったらいつぞやの小僧か。二週間ぶりだな。」
オルディンはカウンターで頬杖をついていたが扉が開くと姿勢を直した。
「何か前よりも扉が歪んでますね。」
「さっきの客がぶっ壊して行きやがった。」
店には相変わらず地味な商品が並べてあった。
「ところで解体用のナイフってありますか?」
「サイズによるが… 今使っているのはあるか?」
ゼノは懐から以前のクエストに持っていったナイフを取り出した。
「これです。」
ナイフの刃には刃こぼれ一つないが柄は血が染み着いた跡があった。それもかなり古いものから新しい物まで様々な染みができていた。
「ふむ…よく磨いであるが随分と使い込んだようだな。
これに近い形状だとそこの棚にあるがどうする?一本750Gだが」
「それじゃあ予備も含めて二本お願い。」
「ハイよ。」
購入したナイフは二本ともシンプルなサバイバルナイフだった。
「それじゃあまた何かあったらよろしく。」
ゼノはナイフを懐にしまって店から出て行った。
「…あのガキ、最後の方はタメ口だったな」
愚痴をこぼしてオルディンはまたカウンターに頬杖をついた。
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「さてと、ついでにコイツの性能を確かめてみるか。」
という訳で今度は冒険者ギルドにやってきた。
やはり学内支部と違ってとてつもなく大きな建物だった。
「ほんと無駄なデカさだな「無駄とはなによ?」
そこに居たのはこの前の職員だった
「久しぶりですねコンチクショウ」
「今日は何しに来たのかしら?」
「簡単なクエストでも受けようかと」
職員に連れられて二階の受付に着いた
「そんじゃあこのクエストで」
「どれどれ……『レベル1:青鹿の角を採取』ね。それじゃあ気をつけてね、もう喧嘩しちゃダメよ。」
「あんたも原因の一部だよ」
詳しくは8話を参照
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~side:サンドラ~
今日は調子がいいな
「ねえねえナズナちゃん、これで課題は終わりだよね?」
今回の課題は前回に比べるとすごく簡単だったな。
「そうだね、今回はクエストを人数分クリアするだけだからね。それにしても今日はみんな調子がいいよね。」
「そうなのよ!前回に比べて冷静になって行動できたから簡単に大猪を倒せたし。」
結局森の中を歩き回っていたら大猪に遭遇しちゃったのよね
「何だかんだ言ってもゼノの言う通り一回経験したら違うもんだね。」
今回はマルクくんとナズナちゃんが水と地の魔法で即席の底無し沼を作ってわたしが仕止めるかたちになった。
「じゃあ帰ろう。それ持つよナズナさん」
「ありがとうマルクくん」
そういえばこの前の一件以来ナズナちゃんはマルクくんとゼノに対して他人行儀じゃなくなった。
それからわたし達は王都に向かって歩いていたんだけど
「ねえ、何か焦げ臭くない?」
突然マルクくんがそんなことを言い出した
「確かに…… 向こうから臭うわね。」
わたし達は臭いのする方に歩いてみた。すると広場みたいな所にでたんだけど…
「な、何これ…?」
ナズナちゃんが驚きの声を上げる。無理もない、何故ならそこは
「周りの木が焼け焦げてる…」
そう、木々が黒く焼け焦げて倒れている。そしてその中心には消し炭になった大猪の死骸が横たわっていた。丁寧に牙が無くなっている所を見ると誰かがクエストで討伐したことが伺えた。
「いったい誰が?」
この時わたし達は思いもしていなかった。後々この惨状を作った人物とかかわる事になるなんて…