20話 仕事初日
「前回までのあらすじ
担任の年増先生のチョンボのせいで何故か生徒会の仕事を手伝うことになった俺達
そこで副会長から説明を受けている最中に陰険なクソ眼鏡が乱入してきた」
「誰がクソ眼鏡だ、それからいきなり意味不明な事を言うな」
生徒会室に入って来た役員がローテンションでツッコんだ
「久しぶりだなシグ」
「何事もなかったかの様に…」
「ゼノくん、この人は?」
二人のやり取りを見ていたナズナが聞いた
「この前話した『元パーティーメンバー』の『雷爪』だよ。」
「今は『雷槍』だがな、っと自己紹介がまだだったな…はじめまして、生徒会二年庶務のシグマ・ラゲイルだ。」
「それじゃあラゲイルさん、その一年生達を宜しく。」
「自分一人でか?」
「ええ、今日は見学だけですから。それに貴方にしか任せられない理由もあるのよ…」
「……了解した」
シグマはしぶしぶ頷いた
「それじゃあ一年、これからもう一度見回りに行くからついてこい」
「…お前相変わらずだな」
シグマの無愛想な掛け声にゼノは呆れたように呟いた。
「あの、質問してもよろしいですか?」
マルクが控えめに聞いた
「何だ?」
「今回の手伝いは補習の代わりだと伺ったんですが、生徒会の仕事と関係があるんですか?」
「それ私も気になってました。」
「…恐らく直接は関係無いな、だが仕事をしていたら自然に補習内容も身につくはずだ。」
「どういう事だ?」
「そうだな、ゼノ(馬鹿)でもわかるように説明すると--」
「オイコラ、人の名前を馬鹿と読むな!」
「--この時期の生徒会の仕事は見回りぐらいしかない、よって補習内容はそれに類似した物の筈だ。ところでこの前の課題で最も多く受注されたクエストは何だと思う?」
ゼノの抗議をシカトしてシグマは三人に訪ねた。
「採取ですか?」
「その通りだ…何て名前だっけか?」
「あ、はいサンドラ・ルミールです。」
「サラ、コイツに敬語は不要だ。」
「えっ?でも先輩でしょ?」
「ほう、まさかあの入学組の『紅嵐』が例のあの子だったのか。」
二人のやり取りを見てたシグマが感嘆の声をあげた。
「何ですか、その例の子って?」
「ああ、昔ゼノが話してた幼なじみだろ?」
「シグ、それよりさっさと続きを話せ。」
話が脱線しかけたのでゼノが遮った
「…まあいいだろう。 それでさっきの続きだが採取が一番多かったんだが…その採取で重要になるのは何だか分かるか?」
「何だ?」
「…少しは考えろよ大馬鹿」
「喧しい規則馬鹿」
「正解は'探す能力'だ」
「まんまだな」
「黙れカス」
「…あの、具体的にいうとどういうことですか?」
軽口を言い合っている二人に割り込む様にナズナが訪ねた
「具体的には物を探す集中力と周りに対する注意力だ。そして補習では毎年それらの能力を向上させる為に学園の敷地内にある野外演習場でひたすら物探しをさせられる。」
学園の敷地内には軽く遭難できるんじゃね?というぐらいの広さを誇る雑木林があり、野外演習場として活用されている。
「見回りでも落とし物や規則違反者を捜す必要があるから必然的に能力が身につく。そのため補習の代わりには打ってつけだと考えたんだろう。
それじゃあ今度こそ出発するぞ。あと、そこの大馬鹿には終わったら話があるから覚悟しておけ。」
「ゲッ!」
理由はどうあれ規則違反の決闘を行った為、勿論ゼノはシグマの説教対象に成っていた。
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一行は現在、高等部校舎の4階の一年生の教室棟で見回りを行っていた。
既にシグマが殆ど見終わっていたため今日のところはこのフロアが終れば解散である。
「しかし全然人がいないね。」
「やっぱりみんな補習中なのかな?」
現在一年生は演習場にいるため作業開始からまったく人とすれ違わない
「とりあえず落とし物があったら拾っておけ。毎回一つはあるはずだ。何しろ生徒数が多いからな。」
「そういえば、さっきから他の役員にも遭遇しないけど何人で見回りしてるんだ?」
「生徒会の人数は全部で十人、その内見回りは庶務五人の仕事だ。」
ちなみに残りの五人は会長と副会長、そして会計が一人ずつ、書記が二人となっている。
「たった五人しかいないのに固まって動くわけ無いだろう。」
「じゃあお前の担当はどこなんだ?」
「俺の担当は高等部校舎の三、四階の一、二年生の教室棟だ。」
見回りの対象は他に三年生の教室付近、一階昇降口、そして各階の実験棟である。
「今日はほとんど終わったから一通り回ったら終わりなんだが、気を抜くなよ。」
「何で?」
「たまに闇討ちしてくるアホがいるからな。」
「さらっととんでもない事言うな!」
「安心しろお前に対してだから」
「更に不安なんだけど!てか誰だ!」
「アイツに決まってるだろ。」
(「ねぇ、さっきから思ってたけどあの二人って仲悪いの?」)
(「少なくとも仲良しではなさそうね。」)
すっかり蚊帳の外に放り出された三人はよく分からないな表情で二人を見ているだけだった。
「アイツならやりかねないな……ってか俺が何したよ?」
「勿論何もしていない。
王都に着いて一週間以上たったのに…だ。」
つまり彼等の言うアイツはゼノがまったくの音沙汰なしなのが気に入らないのだ。
「せいぜい気を付けろ。」
「おう…」
ゼノは力なく頷いた
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~40分後~
「まあ今日はこの位にしとくか。明日からは本格的に仕事をしてもらうからな。」
「終わった~」
「じゃあこれから皆でどっか行きませんか?」
「賛成!」
「俺も!」
上からマルク、ナズナ、サラ、ゼノの順番である
「オイ待てそこのウスラ馬鹿、お前は此方だ。」
シグマはさらっと逃げようとしたゼノの襟首を掴んで引きずっていった
『貴様にはタップリと言いたいことがあるからな』
『まて!決闘の件はこの前先生から注意を受けたぞ!』
『黙れ、逝くぞ』
『字が違アアアアアァァァァ…』
そして誰もいなくなった。
「…帰ろうか」
「うん」
「行きましょう」
残りの三人は今のやり取りを見なかったことにして帰路についた
ちなみにゼノはこの後三時間ぶっ通しで説教を受けるはめになった。
~水の学生寮・ロビー~
~side:シグマ~
やれやれ、あの馬鹿のせいで遅くなったな。
「あれ?アニキ今帰り?」
ロビーに着くと聞き慣れた声が聞こえた
「ああ、臨時で仕事が入ってな」
「ふ~ん」
「とりあえず後二日間一年生四人の世話をするハメになった。」
「御愁傷様、何でそんなことに?」
…さてどうするかな?
「この前オマエが失敗した課題があるだろ?」
「あんなの出来るわけないだろ!」
「それを無理矢理クリアした馬鹿がいた」
「なっ!?」
お~驚いてんな
「しかも、そいつらの担任がマヌケにも話をややこしくしたせいで演習を受けることが出来なくなってな…だから演習内容に近い見回りに連れていく事になった」
「なあアニキ…その馬鹿ってまさか…」
…感付いたようだな
「沈黙は肯定と受けとるけど」
「…とりあえず学園の敷地内での決闘は校則違反だ」
他は知らんがな