17話 クエスト開始
「ところで、今のうちに全員のギルドクラスを確認しとかないか?」
クエストを受注し終わり、王都の西側に広がる草原を歩きながらゼノが唐突に提案した。
「確かに確認しておいて損はないかもね。」
と言ってサラがギルドカードを差し出した
「どれどれ…… 『ウィザード』か、《杖》はその長杖だよね。ナズナとマルクは?」
「私も『ウィザード』よ。《杖》は短杖」
「僕は《シューター》だよ。《杖》はこれだよ。」
そう言ってマルクは懐から自分の《杖》を取り出した。
「何これ?」
「もしかして銃か?」
それは一丁の拳銃だった。
「その通り。僕は魔力の総量が少ないから、遠距離の魔法限定だけど魔力消費が少ない銃は打ってつけってわけ。」
実はマルクの魔力総量は平均の7割程度しかない、そのため中等部に入れなかった。
「でも魔力の量なら修行しだいで増やせるぞ。」
「これでも一般に知られている修行法なら試してみたんだけどね。」
魔力は適正属性と違い増やすことは可能だが、普通は爆発的に増える物では無いのだ
「かわりに『熱感知』の魔法みたいに消費魔力の少ない熱魔法は得意だから索敵は任せてくれ。」
「ところでゼノくんのクラスは何なの?」
「ああ、まだ見せてなかったね。ホラ」
ゼノはギルドカードを三人に見せた。
そこにはこう書かれていた
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名前:ゼノ・アルフレイン
ギルドクラス:ビースト
レベル:4
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「何これ?」
「ビースト?」
「えっと、ゼノくんの《杖》はその短剣じゃないんですか?」
ナズナはゼノが腰に携えているナイフを指差しながら聞いてみた。
ちなみにナイフなどの短剣を《杖》として使用する冒険者のクラスは本来なら『レンジャー』と呼ばれるのである。
「いやコレはただのサバイバル道具だよ。必需品ではあるけどね。
ビーストってのは特殊クラスの一つなんだ。」
特殊クラスとは、使用する《杖》がギルドが定めたクラスの対象外である冒険者に与えられるギルドクラスのことである。
余談だがこれがあるせいで今までゼノのカードを見たギルド関係者や冒険者に詳しい者達には彼が『牙折り』の二つ名であったことがバレていたのである。
「俺は《杖》を使わずに素手で戦うからクラスが‘獣’になったらしい。」
「ちょっと待って!今とんでもないことを言わなかった!?」
「素手って言ったように聞こえたんだけど!」
マルクとナズナは驚いたがサラは冷静に疑問を口にした。
「ねぇ、ゼノが徒手格闘を使うのはこの前聞いたけど何で籠手を使わないの?」
「それは俺には必要ないからだよ。正確には使うと逆効果になるんだ。」
「どういうこと?」
「まぁ、何れ解るよ。」
そう言ってゼノははぐらかした。
「それより、そろそろ森に着くぞ。」
一行はいつの間にか王都の西に4kmの地点にある名も無い森の入口に着いていた。
「とりあえずクエストを確認しとこう。」
「……まぁいいわ。 わたし達は『薬草を5束採取』と『大猪を1頭討伐』よ。」
「僕達は『水茸を5本採取』と同じく『大猪を1頭討伐』だね。」
「でもゼノくん、何で大猪の討伐を受注したんですか?採取だけでも時間がかかるのに。」
ゼノは受付でクエストを受注する直前に当初の予定に無かった討伐クエストを追加していたのだ。
「それは水茸は大猪が好んでよく食べるからだよ。だから採取に時間をかけていたらほぼ確実に現れるからついでにね。」
つまり、どうせ戦うことになるから殺っちまおうぜ♪ ということである。
「とりあえずノルマは薬草10束と水茸10本でそれ以上は余裕があればその時に、って感じで行こう。」
「「「了解!」」」
この時三人は気付いてなかった。
ギルドクラス以外にギルドカードに記載されたゼノの異常性に……
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「あった!これでコッチのノルマはとりあえず達成したわよ。」
「了解! 俺達の方もこれでノルマ達成だ。」
森に入って5時間が経過した。既に太陽はほぼ真上から大地を照らしていた。
「マルク、辺りに魔物はいるか?」
「とりあえず近くにはいないみたい。」
「わかった。 じゃあ皆、一旦休憩にしよう。」
「了解、じゃあナズナさんお願いします」
「任せてマルクくん。『大地よ』」
ナズナの魔法によって地面が盛上り、石で出来たカマクラが完成した。
「すごいな、同じ基礎魔法の『石造り』なのに俺のとは比べ物にならない……」
とゼノが感嘆の声を漏らした
「これでも一応地属性だから……」
ナズナは照れながらそう返した。
「さて、そろそろ他の生徒も増える頃だと思うんだけど…」
一行がクエストを開始してからまだほとんど他の生徒を見かけていなかったのでゼノが不思議そうに呟いた。
「あのねぇ~初めてのクエストでこんな森の奥深くまで探索する生徒なんかいないわよ。」
「えっ?」
「ゼノくんは慣れているみたいだけど…」
「正直僕達もゼノの言うとおり4人で行動してなかったらとてもじゃないけど……」
数年間のクエスト経験のあるゼノと違い、今回が初クエストの3人にとっては十分にハイペースであった。
「ごめん、気づかなかった……」
「気にしないの!ホラ、ゼノのお蔭で既にクエスト二つはクリアしたも同然なんだから!」
「そうよ!それにゼノくんがいなかったら今回の課題はクリア出来ないだろうし。」
サラとナズナはそう言ったがゼノは浮かない顔をしていた。
その時--
「これは!?」
「どうしたマルク?」
「大きめの熱源が2つ近づいて来た!距離は200メートル!」
「来たか!」
「よし!行きましょ!」
勢いよく飛び出したゼノとサラ
対してナズナとマルクは
「ちょ、ちょっと怖いかも…」
「実は僕も…」
カマクラから飛び出した一堂、そこで--
「なっ!?熱源が増えた!」
「方向と数は?」
「数は一頭だけど方向はさっきの二頭の反対側から近づいて来てる!」
それを聞いたゼノは少し考えた後
「じゃあ、俺が二頭引き受けるから3人は残りの一頭を頼む。」
「なっ!!ちょっとゼノ、本気で言ってるの!?」
「大丈夫だ。大猪はクローゼ村にいた頃に何度も狩った獲物だから。」
狼狽えるサラに対してゼノは平然と言い放った。
「対処法はさっき教えたよね。たぶん大丈夫だと思うけど何かあったら直ぐに呼んでくれ。
それに一回は戦闘を経験しておいた方が今後のためになると思うから頑張れ。」
そう言ってゼノは二頭がいる方向に走っていった。
「…ゼノくんの心配をしてたのに」
「逆に心配されるとはね…」
ナズナとサラは苦笑いするしかなかった
ガサッ
「来るよ!」
「は、はい!」
「戦闘開始ね!」
三人は《杖》を取り出し身構えた。