14話 約束の行方
「君達、何か言い訳はありますか?」
高等部校舎の生徒指導室でEクラスの担任のゲイリーは目の前で正座している二人に問いただした。
「じゃあ先ずは…… 貴女は自分の仕事をサボって何してたんですか?」
問いかけられたDクラスの担任のマオ・フェイは視線を右往左往させながら答えた。
「違うのよ!絶対に外せない用事があったのよ!」
「あんた合コンに行ってただけだろうが!」
ゲイリーはシャウトした。
「それから、新入生の君は何故決闘なんてしたんですか?」
問いかけられたゼノは
「黙秘します。」
黙秘権を行使した。
「……成績に響き「言い争いからヒートアップしました。」
黙秘権撤回
ゼノは包み隠さず話した。
「事情はわかりました。 しかしやり過ぎだとは思わなかったんですか。」
「でも、最終的には一発殴っただけじゃないですか。」
ゼノは反論したが、
「その前に彼の《杖》を壊したでしょう。それに君のその一発のせいで彼は医務室送りだよ。」
ゼノに殴り飛ばされて気絶したシムジウは現在医務室で治療術をうけている。
「何よりあんな大勢の前で彼の魔法の欠点を暴露したのがよくない」
ゲイリーは咎めるような口調で言った
「下手したら彼は立ち直れなくなる。」
しかし--
「それがどうかしましたか?」
もっと大きな挫折を経験し続くたゼノにとって魔法の欠点を暴露される程度、何でも無いことだったため疑問にしかならなかった。
「いいですか? 今後彼の魔法はアナタが実演した方法で無効化されてしまう、そうしたら--」
「じゃあ魔法を改良すればいい話じゃないですか。」
「はぁ~…。どうやらこのまま話していても無意味のようですね。 ……仕方ない、今日はもう帰ってけっこうです。」
「「わかりました。失礼します。」」
「アンタ(フェイ先生)は残ってください!」
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ようやく指導室から解放されたゼノ
外は既に夕方になっておりゲートまでの道を紅く染め上げていた。
「やり過ぎ……か。」
ゼノは誰にともなく呟いた。
そこへ
「ゼノ!ごめん、僕のせいで」
顔を見るなり謝ってくるルームメイトがやって来た。
「マルクの方こそ俺のせいで殴られたのに何で謝るんだ?」「でも僕が殴られたからゼノが怒ってくれたんだろ?だからごめん ……それとありがとう」
マルクは謝罪とお礼を照れくさそうにゼノに送った。
「……なあマルク」
「何だい?」
「………俺はやり過ぎだったか?」
ゼノは先ほどからゲイリーに言われたことが気になっていた。
「……何とも言えないかな。 確かにやり過ぎな部分もある、彼はプライドも《杖》も粉々に砕かれてもしかしたらもう立ち上がれないかもしれないし……」
(……結局俺は『牙折り』のままなのか?)
「でも、それでも僕はキミに感謝しているよ。 だからもう一度言うよ、ありがとう。」
「そっか……」
(少しは変れたんだろうか?)
二人はそのまま寮に向かって歩き続けた。
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二人が『火の学生寮』に着く頃には日は完全に沈み暗くなっていた。
「なんか…… やたらと視線を感じたんだが。」
「既に噂になってるみたいだね。」
道中にいる学生達は二人に視線を向けてヒソヒソ話し合っている
「まぁ、学園開始の初日から決闘なんてしたからしょうがないか。」
ゼノが寮のロビーに着くと見覚えのある夕焼けよりも紅い髪の少女がまっすぐに目を向けていた。
「じゃあ僕は先に部屋に戻ってるよ。」
マルクは気を効かせてその場を離れた。
「ねぇ、ゼノ」
サラは何かを決心した様子で話しかけた。
「よかったら少し付き合ってくれる?」
寮の外に出た二人は人の歩みが少なくなった大通りを並んで歩いていた。
「それで、何の用?」
ゼノが聞くと
「そのさ…… ま、まだちゃんと会話をしてないなーーって思ったから」
「そっか…そうだね。昔はもっとたくさん会話をしてたもんね」
「それでさ、聞きたいんだけど… ゼノは剣術を諦めた後どうしてたの? ほら、さっき闘技場で剣を素手で砕いてたから気になってさ。」
「あの後、さすがにショックで二週間程落ち込んでたら、父さんに……あっ、伯父さんのことね。」
ゼノは昔を思い出しながら話し始めた
「父さんに、『何時まで落ち込んでるつもりだ馬鹿野郎!』って怒鳴られてさ、その後に『お前は不器用だから道具を扱うのに向いていない、だからオレがケンカの仕方を教えてやる!』って言われたんだ。」
「何かメチャクチャな人だね。」
「ホントにね。 それからいろんな人に鍛えられ続けてたらある日、父さんの知り合いに『よかったら俺が徒手格闘術を教えてやる』って言ってくれたから始めてみたんだ。」
「じゃあやっぱりゼノはあの時の約束を守ってくれたんだ。」
話を聞き終えたサラがそう呟いた。
「え?でも俺は剣術を諦め--」
「わたし達が約束したのは‘剣術家’じゃなくて‘けんし’でしょ、だったら‘拳士’でもいいじゃない?」
「でも『会いに来て』の方は--」
「さっきわたしがロビーで待ってたら会いに来てくれた!」サラは間髪入れずに言いきった
「……ヘリクツじゃないかそれ?」
「だからどうしたの?
あなたは約束を守ってくれたわ!
わたしが断言してあげる!」
そう言ってサラは微笑んだ。
「--ぷっ、ははははは……」
ゼノもつられて笑った。
こうして二人が交わした約束は五年間の時を経てはたされた。
次回からは更新ペースが遅くなるかもしれませんがよろしくお願いします。