10話 二人の不安
はじめに謝っておきます。
結局今回は、学園開始直前で終わります。
どうもすみません。
~side:ゼノ~
朝か……。
今日から学園生活が始まるのに気が重い。
「まぁ仕方ないか…」
そう呟いてから部屋を見渡してみた。すると、
「あ、おはようございます…。」
知らない男の子が居た
「曲者ーーー!!」
「ええっ!!」
とりあえず、叫んでみた。
「で、君はだれ?」
「いや、何で今叫んだの?」
「ムシャクシャしてやった。誰でもよかった。」
「ごめん、意味が解らない。」
さて、ふざけるのはここまでにしとくか。
「それで君は?もしかしてルームメイト?」
「あ、うん。はじめまして、僕はマルク・マグリットといいます。」
「俺はゼノ・アルフレイン、よろしく。」
俺は先ほどから疑問に思っていることを聞いた。
「ところで、学園開始当日に入寮なんて珍しいね。」
「あー、実は昨日王都に着いてさ。そのままギルドに登録しに行ったらちょっと事故にあって、深夜まで北地区の宿に寝かされてたんだ。」
ん?それって……
「もしかして、職員とぶつかった後に冒険者に偶然殴られたりした?」
「……よくわかったね。」
そりゃあ
「現場にいたからね。」
昨日ギルドにいたあの子だったとは……笑うしかないな。
「……ま、まぁこれからよろしく……」
「ああ、こちらこそ。」
「じゃあ僕はもう行くよ、また後で。」
マルクはそのまま学園に向かって行った。
俺も準備するか……
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一階に降りたら偶然サラとナズナに会った
「あ、……おはよう」
「おはよう、 えっと、その……じゃあわたし急いでるから!」
そう言ってサラは行ってしまった。
「ちょっと!サラちゃん!……行っちゃった。」
俺はナズナに聞いてみた。
「やっぱりサラは怒ってる?」
「いや、違うんじゃないかな……」
もしかして気を使わせたかな?
「それより、早く行かないと!」
それもそうか……
俺達は学園に向かって歩き出した。
~side out~
ゼノとナズナはそのままなんとなく並んで歩いていた。
「あのさ、聞いていいかな?」
沈黙に耐えられずナズナが質問した。
「その、何で剣士になるのを諦めたの?」
サラのルームメイトであり親友でもあるナズナはじつは以前、ハング村時代のゼノの話をサラから聞いていた。というか何度も聞かされていた。
だからこそ疑問に思っていた。
(サラちゃんの話を聞いた感じだと、簡単に諦めるような人じゃないと思うんだけど…)
「……結論から言ったら才能がなかったからかな。」
「どう言うこと?」
「十歳のときに今の父さんに引き取られてすぐに剣術を習ったんだ」
「それで?」
「3日目の夕方に言われたよ、『オマエ驚くほど才能無いな!!』って、しかも笑顔で。」
「でもそれだけで--」
「もちろん俺もそれだけじゃ諦めなかった。来る日も来る日も剣を振った。朝から晩まで振り続けた。
そして、父さんは来る日も来る日も『全然進歩しないな!』とか『ここまで見込み無いと逆に笑えるな!』とか言って爆笑し続けた。本人に悪気は無かったけどそのたびに母さんにぶっ飛ばされてた。」
「………」
「1日も休まず剣を振り続けたから、その甲斐あって体力と筋力だけは順調についていったよ。そして、半年が経過した。
ある日、俺の訓練を見ていた妹が父さんに『あたしもゼノにぃといっしょにしゅぎょうしたい』と言った。」
「………それから?」
ナズナは嫌な予感しかしなかったがそれでも聞いた。
「10日で剣技を追い抜かされた。さすがにショックでそれ以来、剣術は諦めたよ。ちなみにミリアは当時8歳だったっけ。」
「………軽々しく偉そうなこと言って本当にごめんなさい。」
(サラちゃん、ゼノくんは根気よく頑張ってたみたいだよ……悲しいぐらい。)
「まぁ、昔のことだしもう吹っ切れたけどね。ただ、やっぱり約束を破ったのは心残りではあったよ。………結局2つ共破ることになっちゃったけど。」
「2つ?」
「『剣士になる』と『会いにきて』、どっちもできなかったけどね。」
「それは再会出来たんだから約束は果たしたんじゃ……」
「今思えばさ、もっと早く会いに行けたんだ。でも出来なかった」
「どうして?」
「恐かったんだ。約束を破ったことで拒絶されるんじゃないかって思うと。」
ゼノは苦笑しながらそう答えた。
(ゼノくんはどんな心境で自分のことを話してくれたんだろう? 今まさに(本当は違うけど)サラちゃんから拒絶されてる状態なのに。)
結局それ以上、二人の会話は続かなかった。
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~side:サラ~
はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~……
やってしまった。どうしても面と向かって話ことが出来ない
「はぁ~~…」
「おはようございます。」
振り返ってみるとミリアちゃんがいた。
「おはよう……」
「少しお話してもいいですか?」
「うん、いいよ。」
「昔のお兄ちゃんについて話を聞きたくて」
「何でまた急に?」
「いえ、確認しておきたくて。」
よくわからないけど、何か考えがあるみたい。
「昔のゼノは……常に自分以外のことを考えて行動する子だったんだ。」
わたしは記憶を探る。
「ハング村では、その年に五歳になる村の子供達を集めて全員の適正属性を調べるんだけど……わたし達の年ではとても騒がれたわ。正確に言えばわたしとゼノの結果がね。」
当時五歳になったばかりだったっけ。
「わたしの適正属性は3つあった、これはハング村では異例のことだったの。
対してゼノの場合、ハング村どころか歴史上でも異例中の異例だったわ。」
「それは知ってます。お兄ちゃんには何故か適正属性が存在しないんですよね。」
ゼノは誰よりも悪い結果だったのに……それでもわたしを本気で祝福してくれたっけ。
でも
「その日から周りの子供達はゼノのことを蔑んだわ。大人達はゼノに興味が無かったのか、それを注意する人はいなかった。」
今思い出しても腹がたつ。ゼノは何も悪いことなんてしてないのに。
「でもゼノは自分を馬鹿にされても何も言わなかった。そのかわり泣き言を言ったことも無かったわ、当時五歳の子供がよ。」
考えてみれば、ゼノが泣いているとこなんて見たことないや。
「そのくせ七歳になった頃、一人だけ基礎魔法が使えるようになって、そのせいでわたしが苛められたときは真剣に怒ってくれたの。」
自分の方が辛かったくせに
「--そんな感じだったわ。」
「だったら安心してください。」
ミリアちゃんは続けた
「お兄ちゃんは、ゼノにぃは今も変わっていません。だから不安にならずにゼノにぃと話あげて下さい。」
不安にならずに、か。
(少しがんばってみよう)
わたしはそう心の中で呟いた。