8話 邂逅
話は少し前にさかのぼる
~side:ゼノ~
朝食を食べ終えたからゲートを使って北地区にやって来た。
「そういえはゼノにぃ、ギルドに何しに行くの?」
「昨日門番のおじさんが高等部は授業の一環としてギルドでクエストを受けるって言ってただろ?だからどんなのがあるか確認しておきたくてさ。」
「ふーん。」
「それよりミリアは何処か行きたい所でもあるのか?」
「あたしは武器屋に行きたいな。」
「新しい《杖》でも買うのか?」
「うん。さすがにいつまでもこれは…ね。」
そう言いながらミリアは腰に携えている物を指差した。
たしかに学園でそんな物使っていたら『自分田舎者ですよ』と大声で叫ぶようなもんだしな。
「よし!それじゃ先に武器屋に寄ってみるか!」
「いいの?」
「ま、可愛い妹のためだしな。」
「そんな!可愛いだなんて!!……えへへ……でも『妹』としてか…。」
ミリアは顔を赤くしたと思ったら、今度は何かを呟きながら俯いた。
体調悪いのか?
「どうした?風邪でもひいたのか?」
「大丈夫…ちょっと複雑な心境になっているだけだから…。」
「そうか?無理するなよ。」
さてと、昨日スズカ先輩に教えてもらった武器屋はと…。
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「なんか期待はずれだったね。」
「だな。」
武器屋で扱っていた武器は、ほとんどが量産品のナマクラばかりだった。
「どうする?あと近くにあるのはそこの怪しげな店しかないぞ。」
看板には掠れた文字で「オルディンの武具屋」と書かれていた。
「う~ん、どうしようかな?」
やっぱり躊躇するよな。
「ダメモトで行ってみる。」
「わかった。」
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ギギギギギ……
「--扉の立て付け悪いな…」
俺は思わず呟いた。
「でもゼノにぃ、売ってる物はさっきの店よりも良さそうだよ。」
見てみると、地味だが丈夫そうな武器や防具が並んでいた。
「ほう、よくわかってるじゃねえかお嬢ちゃん!」
奥から毛むくじゃらなお爺さんが出てきた。
「気に入った物はあったか?」
「そうですね……できるだけ軽くて丈夫な剣はありますか?」
お爺さんがしゃべりかけてきたからミリアが質問した。
「あん?レイピアじゃ駄目なのか?」
「突くための剣じゃなくて切るための剣が欲しいんです。」
ミリアはおじさん、いや父さん直伝の剣術を使うからな。
「《杖》用の武器か?」
「はい。」
「じゃあ今使ってる《杖》を見せてみろ。」
「え!えっと…あの…これです。」
ミリアは恥ずかしそうに自分の《杖》をカウンターに置いた。
さっきの店で見せた時は店員に変な眼で見られたからな…
「鉈とは変わったもん使ってるな。」
ミリアは腕力がなく普通の剣では重すぎるため鉈(薪割り用)を使ってる。
「うーむ、なるほどな…」
お爺さんは鉈を一通り観察して、口を開いた。
「おし!気に入った!お嬢ちゃん、《杖師》の名に賭けてオマエさんにピッタリな《杖》を打ってやる!」
「ホントですか!?」
「《杖》の手入れが行き届いてるからな。逆にワシは《杖》をだいじにしない奴には売らんがな。」
ずいぶん職人気質なお爺さんだな…
「それとそこのボウズは何か買うのか?」
「え?いえ特には」
「とりあえず《杖》を見せてみろ。」
仕方ないな…
俺はポケットにある物を取り出した。
「あ?何だこりゃ?」
「何って、ただの金属片と植物の種ですけど何か?」
お爺さんは俺が取り出したガラクタを陶酔しきった表情で
「しとらんわ!!最近のガキはみんなこうか!!」
「まあ、俺のことはいいですよ。それより妹の《杖》はいつ頃できますか?」
「…まあ材料はそろってるし、せいぜい2日ぐらいで出来上がる。他に注文も無いしな。
ただ、まだお嬢ちゃんは正式に注文したわけではないがな。」
「わかりました。どうするミリア?」
「あたしはお願いしたい。」
「じゃあそういうことで。」「わかった。ちなみに料金は--今回は初回だから後払いでかまわん。」
普段は前払いなんだ…
「じゃあ、俺はギルドに行くけどどうする?」
「あたしはもう少しここで商品眺めてるよ。」
「わかった、後で迎えに来るよ。」
そう言って俺は外へ出た。
それにしても、アクセサリーより武具に興味津々な妹って……お兄ちゃんは心配だ。
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「……デッケー」
これが王都のギルドの第一印象
「こんなにデカイの建てる必要ないだろ…。」
「まあいいや中にはいろ」
扉を開けたら女性職員が近づいてきた
「えっと、君学園の子よね?登録に来たの?」
「いえ、ギルドカードならすでに持ってます。ただ王都に来たのははじめてなのでクエストを確認しようかと」
「あら、そうなの?」
何か疑われてる?
「確認させてもらえる?」
「……それは義務ですか?」
「一応ね。でもそんなに警戒しなくても大丈夫よ。守秘義務があるから。」
必要以上に見せたくないんだけどな。
「わかりました。どうぞ」
俺はカードを職員に見せた。
「どれどれ?--!!ちょっとこれムグッ」
俺は慌てて職員の口を塞いだ
「守秘義務は!?」
「プハッ、ご、ごめんなさい。」
うわ、手がベトベトだ。
「それにしても噂の『牙折り』に会えるとわね。」
「……あんまりその名で呼ばないでくれません?」
そう言いながら俺は職員の服で手を拭った。
「タオル渡すからやめてちょうだい!」
職員がタオルを取りに行った
--その時
ドン!
職員が学園の制服を着た知らない男の子とぶつかった。
そしてそのまま男の子は言い争いをしていた冒険者達にぶつか--る瞬間にその内の一人が偶然振り上げた腕にぶっ飛ばされて側に居たソロの酔っ払い冒険者にぶつかって、そのままその場に崩れ落ちた。
……いや、何これ?
「だから何度も言って、ん?ああ!君、大丈夫かい!!」
喧嘩をしていた冒険者達は男の子を介抱しだした。
職員は、いつの間にか居なくなってやがる。
「おい!イテえだろうがガキ!!」
酔っ払いが俺に向かって叫んでいる。
いや俺!!?
「いや俺は関係ないでしょう!?」
「惚けてんじゃねぇぞ!制服着てるじゃねえか!」
ちなみにさっきの男の子は冒険者に囲まれて、酔っ払いの死角にいる。
この酔っ払い…服装じゃなくて顔を覚えろよ
「このクソガキ!覚悟はできてんだろうな!!」
「どうしてこうなった……。」
あれか?俺が職員の服で手を拭いたのがいけなかったのか?
「ちょっと落ち着いたらどうですか?」
「黙りやがれ!ぶっ殺す!!」
そう言って酔っ払いは剣を抜いてきた……
「--抜いたな?」
その瞬間、俺は表情を消した。
~side:サンドラ~
そろそろカードもできたかしら?
「サラちゃん、そろそろ戻ろう。」
どうやらナズナちゃんもそう思ったようだ。
「そうね、行こう。」
『タオル渡すからやめてちょうだい!』
途中、下から何か聞こえたけど無視した。
「ああ君達、ちょうどカードができましたよ。」
2階に戻ったらさっきの男性職員がそう告げた。
「こちらがギルドカードになります。」
カードには名前とギルドレベル、そしてよくわらない項目の三つが書いてあった。
「カードについて説明致します。まずギルドレベルになりますが、こちらは受注可能なクエストの最大難易度になります。簡単にいえばこのレベル以下のクエストしか受けることができません。レベルを上げるにはある程度クエストをこなして頂くと、特別クエストが受注可能になり、それをクリアすればレベルアップになります。
また、レベルは低い方から1~10となっておりますが6以上になるには学園卒業が義務付けられています。
次にクラスの説明にまいります。クラスとは今現在使用している《杖》やその他武器によって呼ばれる名称のことです。
《杖》を変更した場合、クラスも変わりますのでご報告して下さい。
ここまでに何か質問はございますか。」
「バナナはオヤツに入「それではまたのおこしを!」
職員はわたしのボケを無視して奥に引っ込んでいった。
「じゃ、帰ろっか。」
「そうだね。」
その時--
バギイィィィィン
「何!?今の音!」
ナズナちゃんが狼狽える
「下からだわ!!」
わたしは急いで階段を駆け降りた。
一階では、尻餅をつきながら刀身が折れた剣を持った顔の赤い冒険者を
灰色の髪の少年が見下ろしていた。
あれは--
「ゼノ……?」
わたしは無意識にそう呟いていた。