20年前-2
―1年後―
「入りなさい・・・。」
マリアスは支部長室の椅子に座り、ドアの向こうにいる者を中へ入るよう促した。
「失礼します。」
ロドスが扉を開け頭を下げる。いつもと違い正装を着用している。
「頭を上げて。」
「はい。」
ロドスは頭を上げた。
「今回あなたをここへ呼んだのは、頼みたいことがあるから・・・。」
マリアスは椅子から立ち窓の方へと歩きながら言った。
「貴方の最近の活躍は当ギルドでも知らぬ者はいないほどになりました。一年前に比べ見事な成長を見せてくれましたね。」
「恐縮であります。」
ロドスはガチガチである。
「よって、あなたを私の後任として7番隊の隊長を任せようと思います。」
マリアスがロドスの方へ振り向き言った。
「隊長!?・・・ですか?」
ロドスは驚きを隠すことが出来なかった。
「しかし、私はまだまだ経験が足りず至らぬことばかり・・・。」
「いいえ、あなたは十分適任です。なぜなら132件のクエストであなたは一人の死傷者も出さず、達成してきました。貴方にお願いしたいのです。」
マリアスは穏やかな声で言った。
「それは、みなの力あってこそ。私は何もしていません。」
「隊長に必要なものはなんだと考えますか?」
マリアスがおもむろに質問した。
「いかなる状況にも瞬時に対応できる判断力と隊員それぞれの能力を把握し、もっとも最善であると思われる作戦を立てることのできる知力です。」
ロドスはすらすらと言った。
「30点の答えね。」
「は、はい。申し訳ありません・・・。」
「貴方が持っているものはもっと別な物です。それは、おのずと答えが見つかるでしょう。ロドス・ヘルメス!!あなたを7番隊隊長に任命します。以後所属隊員を集め、周知会を行うこと。以上」
マリアスがはきはきと言った。
「は、はい!!謹んでお受け致します!」
ロドスは一礼し部屋を後にした。
セントラル支部
地下宿舎 談話室
「俺よりお前の方が早く隊長になるなんて、くやしいな。」
カルロスがロドスに言った。
「俺だってお前の方が先だと思ってたし、びっくりしてる・・・。」
ロドスは夢見心地な表情だ。
「はあ、ララが北部支部に移動になって半年・・・、お前の成長にはびっくりさせられたよ。」
「俺、隊長になったんだ・・・。実感がわかない・・・。今日は何日だカルロス。」
ロドスが虚ろな顔で言う。カルロスの言葉は耳に届いていないようだ。
「5月の3日だよ。」
カルロスは呆れ顔で質問に答える。
「だけどあの約束はホントなのか?」
カルロスが疑問を投げかけた。
「約束!?・・・そうだ約束があったな・・・。」
ロドスは頭を抱え机の面を見つめ顔が赤くなった。
半年前
地下宿舎 談話室
「やめとけ!!お前じゃ無理だって。」
カルロスが必死でロドスの腕を掴み止めようとしている。
「ダメだ!!今伝えなきゃ、もういつ伝えられるかわからない・・・。もう、うじうじするのは嫌なんだ。」
ロドスは腕を振り払った
「ララなら、すぐセントラルに戻ってくるって!!」
カルロスが再び腕を掴もうとしたとき、二人の前にララが偶然現れた。
「どうしたの?二人共、そんなに慌てて。」
ララは二人のじたばたする姿を見て笑顔で言った。
「いや、なんでもない!行こうロドス、なっ!?」
しかしロドスはカルロスを無視した。
「ララ、北部支部に移動ってのはホントか?」
「え、ええホントよ。恐らく1年は向こうに行くことになるわ。」
ララはバツが悪そうな表情になった。
「君に伝えておきたいことがある!!」
ロドスが、勢いのある声で言った。それを見たカルロスはもう止めるのをやめ、悪い方向に向かわないように祈ることにしたようだ。
「ええもちろん、聞くわ。何かしら?」
ララは再び微笑んで答えた。談話室にいる人がロドスの声に反応し注目している。
「俺は君のことが・・・
ロドスの顔が赤くなる。心拍数が早くなり、足が震える。拳を握りしめ覚悟を決める。
君のことが・・・君が好きだ!!」
意を決しロドスは思いを届けた。
「!?」
ララの顔が急に赤くなった。とても驚いている様子だ。カルロスも、自分が告白したわけでもないのに顔が赤くなっている。周囲の野次馬もかなり驚いている。
ロドス頭の中の時間は、1秒が1分、1分が1時間に感じられるほど時の流れがゆっくりになった。そして、1分と言う長い沈黙を破ったのは、ロドス本人であった。
「ごめん・・・。急にこんなこと言われてもびっくりするよな。ただ、今言わなかったら胸のもやもやが、なくならない気がして・・・。悪かった、忘れてくれ・・・。」
困った表情のララにロドスは最後の勇気を振り絞って言った。そして、振り返りカルロスと共にその場を立ち去ろうとした。
「気を落とすな。よくやったよ、お前は・・・。」
カルロスが少し涙目のロドスを励ます。そして2歩3歩言ったところで・・・
「待って!!」
ララの声が後ろから聞こえる。ロドスの歩みが止まる。振り返ろうとロドスがした時・・・
「振り向かないで!そのまま聞いて・・・。」
ララの声が少し震えているようだ。ロドスは振り向くのをやめた。野次馬たちは先がどうなるのか興味深々で二人を見つめている。
「今日私は、北部支部に応援として行くことになります!恐らく1年は戻ってこられないし、会う機会も無いわ・・・。ロドス・・・、あなたの気持ちはしっかり私に届きました。でも・・・。」
ララの言葉が、一旦とまる。
そして10秒後・・・
「その答えは、私がここへまた笑って帰ってこられたら答えるわ!!私の分まで隊をまとめて、みんなを護ってあげて・・・。そうしたら、そうね・・・、立派な隊長になったら、あなたの気持ちにきっと、きっと答えるわ!!」
ララの声には迫力があった。あたりもそれを聞いてあっけにとられている。
「一年後!!必ず、立派な隊をもって笑顔で君を迎える。必ず・・・。待ってるララ。君が無事でセントラルに帰ってこれることを。」
ロドスは、決意に満ちた表情で答えた。握りこぶしに力が入る。
「私も、あなたが、あの最高の笑顔で迎えてくれるのを楽しみしているわ。」
ララがニコっと微笑みながら言った。カルロスからはララの顔が見えるが、ロドスからはそれが見えない。
「じゃ、鍛練があるから・・・。」
ロドスは不器用なセリフを吐いて、すたすたと歩き始めた。
ララの表情に見とれていたカルロスもロドスが歩きだしたことに気づき後に続いた。
「・・・・・・。」
ララは二人の後姿をしばらく見つめていた。