20年前
貨物船 船内倉庫前
「エル、ソフィ、西の港まであと5時間はかかる。一時間置きに交代し、1人が休み残りの2人がここで護衛をする。まず、エルと私が護衛する。ソフィは休んでいてくれ。」
ロドスがソフィに言った。
「了解しました。では1時間後に・・・。」
ソフィは来た道を戻り船室へと向かった。
そしてソフィが居なくなったと同時にロドスがこういった。
「どう思う?」
「え?どう思う?」
エルの頭にはてなマークが出現した。
「お前も今年で25歳になるのだろう?ソフィとはうまくいっているのか?」
「ええまぁ、別に仲は悪くありませんが・・・それが?」
隊長が何を示唆しているのかエルは分からなかった。
「そうじゃない・・・。男性として彼女のことをどう思うかと聞いているんだ。」
ロドスは確信を突いた。
「えぇぇぇぇ!?いやいや、それは・・・。考えたこともありませんでした。」
ロドスのがらでもない恋愛話にエルは驚愕した。
「は~、お前な。あれほどの美人はそう簡単に世に現れんぞ!性格に多少の問題はあるが、出来た娘だ。」
ロドスがエルに勿体ないと促す。
「た、確かにそうかもしれませんが・・・。今までそんな感情を抱いたことがありません。」
エルはソフィの顔を思い浮かべる。今まで意識していなかった分今回意識してみたら、思わず顔がぽっと赤くなった。
「やはりな・・・。お前はいつの間にか、お前も気づいていない間にソフィに恋をしていたのだろう・・・。」
ロドスは顔を赤らめるエルに向かって言った。
「いやいや、恋だなんて!仲間ですよ!」
エルの顔が先にもまして赤くなる。
「体は正直だ。いいか、こんなチャンスは一生に何度かしか無い。ダメ元でソフィにアプローチをしてみろ!!」
「アプローチって!?」
エルの頭の中がソフィの顔だらけになった。
「ロドス隊長・・・。急にこんな話どうしたって言うんですか?」
エルはがらでもない話をするロドスに真っ赤になった顔を抑えつつ聞いた。
「それは俺が過去に、似たようなことがあったから、お前にはそうなってほしくないと言う思いからだ。」
ロドスは少しにこっとしていった。
「似たようなこと?」
「そう、俺がまだエル、お前と同じくらいの年の時、同じ隊にララと言う女性がいた。」
――― 20年前 ―――
ギルドセントラル支部
「もう!!何度言えばわかるの!?あれほど先走っちゃダメって言ったのに・・・。」
さらさらした長い黒髪、とてもにこやかで笑顔が似合う美しい女性がいる。ララである。
「そうだ。お前はいつもいつも前に出過ぎる。少しはコンビネーションって物を考えてみてはどうだ?」
若かりしころのカルロスがいる。眼帯はまだしていない。
「す、すまない。つい敵を前に興奮してしまって、抑えられなかった。」
ロドスの左足は血だらけで応急処置を受けている最中である。
「あ!?マリアス隊長!!」
ララはマリアスがこちらに来るのに気づき思わず名前を呼んだ。マリアスの姿は現在と変わらず鎧姿で素顔を見ることが出来ない。
「ララ、ロドスの状態は?」
マリアスが言った。
「大丈夫です。私のアビリティ癒しの泉で何とか治ります。ですが聞いてください!!こいつ{マリアス隊長がいない分俺がカバーする!}とか言って一人で切り込んだまでは良かったのですが、このありさまです!!何とか言ってあげてください。」
ララは憤慨している。
「そうだロドス、ここまでお前を運ぶのは骨が折れた。後で焼き肉おごれよな。」
カルロスが言った。
「マリアス隊長・・・、申し訳ありません。いつもいつも隊長に頼り切りだったので、今回くらいはできるところを見せようと・・・。」
ロドスは痛みに耐えながら言った。
「いいですかロドス・・・。クエストにおいて重要なのは必ず目標を達成することではありません。全員が無事にここへ帰ってくることこそが重要なのです。誰かを犠牲にして得られる報酬なら初めからいりません。今回あなたが取った行動は、隊に危険を及ぼし、なにより自分の身を危機にさらしました。」
マリアスが鎧越しに怒っているのがわかる。
「はい、申し訳ありません。」
ロドスが言った。
「ちゃんと頭を下げなさい!!」
ロドスはララに無理やり頭を下げさせられた。それをカルロスはクスクスと笑っている。
「今回のことは良い薬になったということで咎めませんが、次に同じようなことをすれば分かってますね?」
マリアスが言った。
「はい・・・。心に誓って。」
「よろしい。私は会議があるので後を頼みますララ。」
「はいマリアス隊長。」
ララがマリアスに答えた。マリアスは振り向き、会議室へと歩みを進める。
「それと・・・、いい仲間を持ちましたねロドス。」
振り向きざまにマリアスが優しい声で言った。そして廊下の向こうへと姿を消した。
「は、はい!!」
ロドスはその場でお辞儀をした。
「良かったわね。本当だったら謹慎処分よ!」
ララはロドスに微笑みながら言った。
「運だけは良いなお前は。」
カルロスも微笑む。
「ああ、ありがとうみんな。」
ロドスは二人に負けない笑顔で返した。
2週間後
「カルロス、左舷カバー頼む!!」
ロドスは草原の中、要人を乗せた馬車を背にカルロスに援護を要請した。向かい側には、危険度55のタイガーウルフが、こちらの出方をうかがっている。
「了解、level4アビリティー発動、猪突猛進!!」
カルロスは槍をタイガーウルフに向けものすごい勢いで突進していった。あまりの勢いにカルロスの周りに風が舞う。
「ガルルルルルル・・。」
タイガーウルフは高く舞い上がった。カルロスはタイガーウルフに避けられた。
「今だララ!!」
カルロスが言った。
「level6 罪と罰 奥義 断罪の鉄槌。」
ララが呪文を唱えるとタイガーウルフの頭上に白銀の大きな手が現れた。そしてその手がタイガーウルフへと振り下ろされる。
「ガオオオ!」
タイガーウルフは空を蹴り、間一髪でその白銀の手から逃れた。
「今よ!!」
ララはロドスを見て叫ぶ。
「level 7 奥義 ギガンテスアックス!!」
ロドスは巨大な斧を両手で持ち、地面を力いっぱい蹴った。そして、タイガーウルフが地面に着地するかしないかのところでロドスが斧を振りおろし、タイガーウルフにクリティカルヒットした。
その絶大な威力は半径50mにクレーターを作り、しばらく地響きが鳴る程である。
「・・・・・・・・。」
タイガーウルフはその動きをクレータの中央で止めていた。
「やれやれ、お前の技はいつも派手だな。もう少しスマートにならないのか?」
カルロスがロドスに歩み寄り言った。先ほどの槍がひとりでに粉のように飛び散りカルロスの手から消えた。
「そうよ!!もし依頼主が怪我でもしたら大事よ。」
ララもカルロスに続いて言った。
「加減が難しいんだよ。相手はさらにタイガーウルフだし、下手に手加減したら命取りになるしな。」
ロドスは笑いながら答えた。
「まあ、でも良いチームワークになってきたんじゃない。作戦通りに行ったし、絶妙なコンボ!」
ララが嬉しそうに微笑んだ。
「確かに、これならもう怖い物なしって感じだな。」
カルロスが横たわるタイガーウルフを見て言った。
「ははははは、俺もそう思う。」
ロドスはこれ以上ない微笑みで言った。
「ロドス・・・、左腕から血が出てる。」
ララがロドスの左腕の傷に気づいた。
「あの技反動が大きいから・・・、これくらいなめときゃ治るよ。」
ロドスが言った。
「ダメよ。ちょっと見せて!」
ララはおもむろにロドスの左手をつかみ、傷口を自分の方へと引き寄せた。
「ちょ、ちょっと待て。」
ロドスは引っ張られ、バランスを崩したが何とか立て直し正面を見る。するとそこにはララの顔がアップで写し出されていた。思わずロドスの顔が赤くなる。
「かすり傷だって放っておいたら、治りも遅くなるし、最悪化膿して腕を切断なんてこともあるんだからね!」
ララがさらに自分の顔に接近していった。ロドスはさらに顔が真っ赤になってタジタジになってしまった。カルロスが横でクスクスとニヤけている。
「あぁ、す、すまない。治してもらっていいかな。」
「ええ、もちろん。大切な仲間ですもの。」
ララがロドスに向かって微笑んだ。ロドスの胸の鼓動がドクンと脈打った。
「level 4 癒しの泉 癒せよ我が友・・・。」
ララは目を閉じ、呪文を唱えた。するとブルーのきれな輝きと共にロドスの腕の傷がみるみる治っていく。
「あ、ありがとう。」
ロドスは照れ臭そうにララに礼を言った。
「どういたしまして。」
ララは笑顔でそういうと満足したのかロドスの腕を離し、要人の乗った馬車へと歩き始めた。
「ロドス、お前まさか今ので好きになっちまったか?」
カルロスがぼうっとララの方を見ているロドスに言った。
「な!?そんなわけないだろ!!」
ロドスはあからさまに動揺した。
「やめとけ・・・。お前には手に届かない頂きの一輪の花。手を伸ばせど伸ばせど一向に届くことはない・・・。恋ってのは切ないもんなんだよ。」
カルロスはロドスの肩に腕を回して言った。
「だから、いつ俺がララを好きになったって言ったよ!?」
ロドスはカルロスの腕を振り払った。
「そうカッカしなさんなって。アドバイスだよ、アドバイス。」
カルロスはそういうとララと同じく馬車の方へと歩き始めた。
「カルロスのやつ、冷やかしやがって・・・。」
ロドスはカルロスの方を向いてつぶやいた。その向こうにララの歩いている姿が見えた。そして、再び先ほどのララとのやり取りの風景がよみがえる。ロドスの顔がまたみるみる赤くなっていく。
「ロドス、置いてくぞ!」
カルロスの声だ。
「い、今行く!!」
ロドスはそれに答えて小走りで馬車の方へ向かった。
ロドス達がいる場所から東へ5キロ地点の丘
「ガイア様、あれがターゲットですか?」
スキンへッドの蛇のような鋭い眼つきの男が、スナイパーライフルのスコープを覗き、ロドス達の顔を確認し言った。
「その通りだスネーク。」
ガイアと呼ばれた男が言った。顔に刀傷がある。
「攻撃しますか?」
スネークがララに狙いを定めて言った。
「まだだ・・・。いづれ時が満ちた時に殺る。行くぞ、スネーク!」
ガイアは振り返り、丘を後にした。
「了解。」
スナイパーライフルはキラキラ光る粉のようになってスネークの手から消えた。そして、ガイアの後へ続く。