歪み
ギルド専門学校 闘技場
3年―Bクラス ブース
「ルールはいつもと同じ、7種類の職業から自分が最も適していると思われるトーナメントに出場すること。そして、勝つ、負けるよりもその7種類の職業から自分の一番を見つけることが出来ればそれが我々教員の成功と言える。」
モスとアルの担任、アラス先生が説明する。
この模擬戦は7種類の職業から、どれでも好きな職業を選び戦うことが出来る。トーナメントは全学年共通、そして7職業別々の枠で行う。たとえば、ナイトなら、ナイトを選んだ生徒同士が戦うと言った風な感じだ。
「しかし、今回は景品が出る。いつもと違うのはここからだ。トーナメントを勝ち進み優勝を勝ち取ればその職業に合ったレプリカ武器がもらえる。それがまず一つ。二つ目は、各職業の優勝者たちが戦い勝ち残った者が、オーム氏と戦う権利を得る。」
アラス先生は続けて説明する。
「先生質問が。」
アルが手を上げる。
「なんだ?」
「もしトーナメントを勝ち抜いて、さらに各職業戦の勝者になってもオーム氏に勝たなければエクスカリバーのレプリカはもらえないんですか?」
アルが質問した。
「それは開会式でもあったようにオーム氏に認められれば報酬を受け取ることが出来る。オーム氏に勝つ必要はない。そして誰かが必ず勝ち進んでも手に入れられるわけではない。条件は{オーム氏を認めさせたもの}だ。」
アラス先生は淡々と答えた。
「ありがとうございます。」
アルが一礼する。
「それではみんな、それぞれのベストを尽くしてこの学校最後の模擬戦を勝ち進んでくれ、以上!」
アラス先生はそういうとブースを後にした。アラス先生に続き生徒たちもブースへ出て職業登録をするため受付へと向かう。
「なあ、アル。本当にオーム氏の言っている意味分かったのか?アラス先生にあんな質問するし。」
モスはブースから出ようとするアルに声をかけた。
「ああ勿論だよ。だけどまずトーナメントを勝ち残るのが条件・・・。なんだかますますやる気が出てきた!」
アルは上機嫌だ。
「それ、俺に教えてはくれないの?」
モスがにっこりして聞く。
「だめだ!自分で見つけなくちゃ意味がないだろ。」
アルは言った。
「そう言わずに・・・。」
モスが言った。
「ダメ!!」
アルはそういうと小走りに受けへと向かう。
「ケチケチしないで教えろよ。」
モスはアルの後を追いかける。
二人は人ごみの中へ消えていった。
この時すでに時刻は22:00を回っていた。
ギルド専門学校 同時刻旧校舎
「準備は良いか?装備を確認しておけ・・・。相手はギルドの手練れたちだ。」
誰もいないはずの旧校舎の教室からなにやら怪しい声がする.......。
「OK。リーダー準備グー!」
もう一人の男の声がする。
「まだ、依頼主からの連絡は無い。ひとまず待機だが・・・、お前な~。」
リーダーと呼ばれた全身黒くペイントされた男は、もう一人の男に言った。
「なんだよリーダー?俺の顔になんかついってっか!?」
もう一人の男が言った。
「いや違う・・・。何もついてないから問題なんだよ。」
リーダーと呼ばれた男は呆れた顔をした。
「なんで?」
小太りのその男の顔はなんだかぱっとしない。
「敵地に乗り込むのに自分の顔大っぴらするアホがこの業界にいるか?」
リーダーと呼ばれた男の顔は、黒くペイントされていて拝見できない。体系はスレンダーだ。
「ああ!成程ね。今塗りやす。」
小太りの男はスレンダーな男のカバンからフェイスペイントを取り出した。
「それ高かったんだからそんなに使うなよ!!」
スレンダーな男の忠告は一足遅かった。
「え?すみません全部つかっちまいやした。」
見ると小太りの男は無駄に使いすぎて、余りが手に付着している。
「むむむ、後で買って返してもらうからな!!」
スレンダーな男は小声だが怒りが露わになっている。
「へへっ、了解ッス!」
小太りの男は反省の色のない返答をした。
ギルドセントラル支部 同時刻 局長室
「マリアス局長・・・、本当に良いのですか!?これでは敵の手中に自らを投じるようなものです!!」
黒髪短髪、背はさほど高くないが、体系はがっちりしている。左目に眼帯をしていて、もう片方の眼は鷹のような鋭い眼つきをしている。
「カルロス、どうかわかってください。どうしても確かめなければならないのです。」
マリアスは冷静に言った。
「しかし、7番隊は当ギルドの重要な戦力!失うわけには行きません。」
カルロスのハードボイルドな声に力が入る。
「だからこそ彼らに行かせたのです。今回のこのクエストは彼らのほかに達成できるものではない。」
マリアスは言った。
「確かにそうではありますが、危険が多すぎる!!もし仮に情報が確かで、最悪の事態だとしたら、彼らは無事ではいられません。」
カルロスは局長室の窓から出発していくロドスたちを見下ろす。
「今ならまだ間に合う・・・。このクエストは私が担います。どうか彼らではなく私にお任せください。」
カルロスの眼が光る。
「それは出来ません。あなたにも部下がいる。そちらを大切にして下さい。」
マリアスはカルロスの申し出を却下した。
「しかし!!」
「カルロス!!」
マリアスはカルロスが反論する前に言葉で静止させた。
「カルロス、出来るならば私が直接現地に赴きその真実をつかみたい。ですが、私はここを離れることが出来ない・・・。どうかわかってください。一番生存率が高いのはロドス隊長率いる7番隊のほかいないのです。」
マリアスの言葉に力が入った。
「・・・・・・申し訳ありません。出過ぎたことを申し上げてしまった。お許しください。」
カルロスはうつむき頭を下げた。
「我々は50年前のあの日、過ちを犯してしまったのかもしれません・・・。」
マリアスは席を立ち夜空に燦然と輝く星たちを眺めながら、切なそうな声で言った。