模擬戦
廊下
「そう気を落とすなって。」
アルのクラスメイトのモスキートが地下闘技場で行われる週一回の職業混合型試合に向かう途中にアルを見つけ駆け寄りながら肩を叩いて慰める。
「モス・・・、ありがとう。でもエリー先生の授業であの醜態をさらしてしまった。成績にひびくだろうな・・・。」
アルの顔に不安の色が広がっていた。
「その点については大丈夫だろう。ここはギルド専修学校・・・、テストの点数が高ければそれだけ評価されるし、闘技場での模擬戦の勝利数が多ければ多いほど上を狙える。実力主義評価だからな。」
モスキートは力説した。アルの顔に少し光が戻った。
「その通りだ。モス、少し元気がでたよ。模擬戦勝とうな!!」
アルが急にやる気を取り戻したのには理由がある。モスもそのアルの向上心を突いたのだ。その理由とは、模擬戦に勝つことによって得られる報酬である。今回の報酬は各職業における最強を誇る武器のレプリカ。その一つ一つが、とても学生がアルバイトをした程度では手に入れることは出来ないほど高級な物ばかり・・・。アルはその報酬を勝ち取るため日々鍛錬し、肉体を鍛えてきたのである。授業でも今日の模擬戦が頭から離れず上の空になってしまっていたのだ。
「でもさ、気になったんだけど、お前なに狙うの?」
モスキートが興味津々に尋ねてきた。
「俺が狙うのは、エクスカリバーの模造剣だ。」
アルの眼からメラメラと闘志の炎が見えるようだ。
「え、エクスカリバー!?でもあれってナイトlevel4の先生を倒さないと貰えないやつだろ?みんな諦めて違う報酬狙ってるのに、あえてそこへ行くか普通・・・。」
モスが呆れた顔で言った。
「level4までは、普通の人だって肉体さえ強化すれば勝てる。俺たちだってlevel1までは扱えるようになったんだ。100パーセント倒せない相手じゃ無い!」
さらに言葉に熱がこもっている。
「は~、お前の前向きさには関心するよ。俺は無難に生徒同士の戦いでもらえる消耗品でも狙うかな。」
モスは溜息をつきながら言った。
そうこう話しているうちに地下闘技場に到着した。扉を開け中へと入る。中央に試合を行うためのフィールド。そしてその周りに観客席が設けられている。全校生徒がフィールドに整列しざわめいている。
「早く並ぼうぜ。またどやされる。」
モスが促す。
「ああ。」
アルが返答する。
モスキートとアルは人をかき分け自分の並ぶべき場所へと並んだ。
最前列には、教師たちが並びその中から一人の老人が前へと出る。そして・・・
「諸君。日々の鍛練と勤勉、真にご苦労。みな慣れている事だろうが、今週も模擬戦を行う。模擬戦の趣旨については毎度同じことを言うようじゃが、諸君らに合った職業に就くための言わば自分探しのようなものじゃ。既に見つけたもの、見つけていないもの、自らを向上させるため全力を出してもらいたい。」
ダルダロス校長は慣れた口調で、淡々と言葉を並べた。生徒たちは校長の話を半分も聞いていない。それよりもこれから公開される報酬にみな興味深々で、今か今かとその時をじっと待っている。
「さて、今回の模擬戦は普段とは一味違う。三年生の卒業まで残すところ後3か月となった。そこで我々学校側より、すでに校内では噂になっているようだが・・・・・・」
校長が生徒たちを見渡す。
「景品を用意した。諸君らのやる気を向上させ、三年生に至ってはギルド入門試験へのバネとして頂きたい。ではティム先生、例の物を。」
皆が待ちわびた時がいよいよ来た。生徒たちはティム先生の後を目で追い、そして垂れ幕のかかった仮設ステージの上でティム先生の足が止まった。
「今回の景品は各種名高い武器のレプリカじゃ。ティム先生お願いします。」
校長がそういうとティム先生が垂れ幕を上げ、ライトアップされた景品がその姿をあらわにした。七つの武器がある。
「左から、ナイト専用 ライトセイバー、マジシャン専用 千年樹の杖、モンク専用 ゴットハンド、ガンナー専用 沈黙の双銃、ランサー専用 ケロべロス、ヒーラー専用 女神の涙、アサシン専用 陽炎。」
校長が順に紹介する。
「エクスカリバーは?」
アルが、隣にいるモスに訪ねた。
「情報は確かだ。見てろ、おおとりは最後に来る!」
モスが不満そうなアルに促した。
「以上七つの武器が今回用意した景品じゃ・・・・・。」
会場はその品々を見て驚き同時にざわめき始めた。
「此処までは景品。じゃが、最後は景品ではない!!」
ざわめいていた会場が校長の一言で再び静かになった。
「もう一つある!!これは報酬として用意させて貰った。景品は、各職業トーナメント戦を行いそれぞれの優勝者に与えられる。しかし、今から披露する物は、優勝を勝ち取りさらに我が校が依頼して来て頂いた現役ギルド会員の オーム殿を認めさせたものに与えられる、まさに報酬と呼ぶにふさわしい物じゃ。」
会場が再びざわめいた。噂ではティム先生に勝利したものが与えられると聞いていたからだ。アルとモスも動揺を隠せない。
「どういうことだよ。現役ギルド会員って・・・。」
モスが言った。
「いや、逆に燃えてきた。そう簡単手に入る代物とは思っていなかったし、何より現役ギルド会員と一戦交えられる!」
アルの声が高揚している。
「いやいや、なんでそうプラス思考なの?手に入る可能性少なからず下がったよ。」
モスがアルに言った。しかしアルに声は届いていない。
「は~、まあ俺には関係無いか。」
モスはアルのことを心配するのをやめ、自分が狙っている消耗品がどんなものなのか想像することにした。
「伝説の剣。知らぬものは最早誰一人いないであろう名剣である。エクスカリバーのレプリカじゃ。」
会場の奥にあるスクリーンに映し出されたそれは、黄金に輝きその光はダイヤモンドに劣らない優美な外装をしている。みなわかっていたとはいえ、実物をみるとやはり驚きが隠せない。
「レプリカではあるが、時価総額 100万オル 超高級レプリカ。性能も本物にかなり近いと言えるじゃろう。」
全員スクリーンにくぎ付けである。
「今回セントラル ギルド本部から来ていただいたオーム殿からご挨拶を賜る。全員注目!」
校長の言葉で再び視線が校長へと戻った。
「オーム殿よろしくお願いします。」
校長がオームを中央へ呼ぶ。
「ダルダロス様より、紹介いただいたオームだ。」
オームは金髪で髪は長く、黒縁眼鏡をかけていてとても知的な顔をしている。
「まず初めに言っておこう。我々ギルド協会が求める物は、能力でも力でもない。それは私がここで言ってしまっては身にならないし、言ったとしてもそう簡単に手に入るものではない。諸君らの手で勝ち取って欲しい。それが何なのか・・・、見つけることができたなら誰にも負けない力を手にすることができるだろう。今回はそのきっかけを少しでもつかんでほしい。私もまだ見つけていない物だ。この報酬はそれにもっとも近い物に与えられる。以上私のあいさつとさせてもらう。」
オームはそういうと元居た位置に戻った。生徒たちはオームの言っていることが何なのか見当もつかなかった。
「ありがとう、オーム殿。それでは諸君それぞれクラスごとに分かれて、準備するのじゃ。」
校長がそういうとみな解散し、それぞれのクラスのブースへと散って行った。
「能力でも力でもないか・・・。う~ん。」
アルは一人立ち止まり、考え込んだ。
「アル、諦めろ。今回ばかりは無理だよ。それにまずトーナメントで優勝しなければならないんだぞ?」
モスは立ち止まるアルに気づき声をかけた。
「成程、成程・・・・・、わかったぞ!!」
アルは突然叫び、全員その声に反応して振り向いた。
「いや、わかったって!?」
モスはその中でも一番驚いた。
「本当に分かったのか?アル。」
モスはアルに問う。
「ああ、理解したんだよ、モス。」
アルは微笑んだ。
アルは自分のクラスのブースへと歩き始め、それに続きモスも歩き始める。
生徒たちは豪華景品を勝ち取るべく、高揚している。
今回の模擬戦がすでにギルド協会の入会試験の一環であることをまだ誰も知らない。知っているのはダルダロス校長とオームだけであった。