始まりはハートフル
50年後 東の国 カリブ王国
暖かな気候と豊かな緑、そして透き通った海に面し、人が住むには幸せこのうえない環境に王都 セントラルは立地している。丘の上に威風堂々とそびえ立つ城。昼夜を問わず賑わう城下町。人々の顔はとても幸せそうである。
その中にギルドに入るために必要な知識と強靭な肉体を作るために設立された学校がある。見た目は普通の学校となんら変わらないが、地下に闘技場など鍛練に必要な設備が余すことなくそろっている。入学するため毎年1万人を超える入学希望者がいるがその中で晴れてギルド専修学校に入学できるのは、わずか100名。まさに選ばれた者のみが通ることを許される登竜門なのである。
そんな学校の一室でいつもどうり授業が行われている。歴史の授業のようだ。黒板にはダルク・ダスールの奇跡について書かれていた。
「level9である英雄ダルクが、人の域を超えたlevel11黒魔術師ハーネスをどのようにして倒したのか、多くの学者がその力バランスを考案しましたが、その答えは未だにわかっていません。」
金髪の赤い眼鏡をかけたかわいらしい女の先生が生徒に教べんをとる。生徒たちはまじめに授業を聞きノートに黒板に書かれたことを自分なりにわかりやすくそれぞれまとめている。そんな生徒の中にその波に逆行するかのようにノートを取るどころか机の下で何やらモゾモゾと怪しい動きをしている男の生徒がいた。黒髪短髪で目の色が特徴のある緑色をしている。
「カリブ王国のギルド協会史上、いえ全世界のギルド史上level11は初の偉業でした。故にハーネスは一時は英雄しされて・・・、もう、また貴方ね!」
女教師は先ほどの緑色の眼の生徒の方をまたかという表情で見た。クラス中彼に注目する。しかしその異変に気づいていないようだ。女教師が男子生徒に近づいていく。
「おいアル!エリー先生が来るぞ。」
隣に座っていたクラスメイトのモスキートが緑色の眼の男子生徒を小突いた。
「え?」
アルはビクッとして机の下で読んでいた漫画を閉じ机に慌てて隠した。教卓を見るが既にエリー先生の姿はない。
「アル君、あなたは本当に私の授業が好きなようね。これで何回目かしら?」
エリー先生は、嫌味をこめて苦笑いしながら言った。
「エ、エリー先生!?」
(何回目??ばれてたのか!?)
アルは縮こまった。
「さあ、机の中の物を出しなさい!!」
周りの生徒たちの注目が集まる。
「机の中~?何の話ですか~。」
アルの眼は明らかに泳いでいる。
(クソ!タダでさえ点数ギリギリなのに赤点にされる。何か方法は・・・)
「往生際が悪いですね。どきなさい!私が見ます。」
エリー先生がしゃがみ込みアルの机の中をガサゴソあさり始めた。
「これが動かぬ証拠・・・。最早言い逃れること敵わぬと思いなさい!!」
アルの机からマンガ本を見つけたエリー先生はアルに証拠を突きつけた。
「そ、それは・・・。」
(ダメだ・・・。下手に言い訳すると逆効果・・・。素直に謝るか。)
「も、申し訳ありませんでした!!」
アルは頭を腰の下まで下げた。
「まだでしょ?」
エリー先生が言った。
「え?」
アルの頭の上に?マークが現れた。
「カバンの中がまだです。」
「カバンの中!?」
アルはびっくりした。
「そうです。カバンですよ。」
「ああ、カバンですね・・・。ちょっと待ってください。」
別にカバンには何も入っていなかったため、スクールバックを手に取りエリー先生にカバンを差し出した。すると、悪寒が走った。隣の席のモスキートの視線のためである。
(アル!!忘れたのか!?その中には、男のロマンが入っているんだぞ!!)
モスは心の中でそう言いながら、アル目で必死に訴えかける。
(なんだろう?なんかすごい眼でこっち見てるけど・・・。なんかまずいことでもあったか??)
アルは何か見落としていることは無いかと頭の中で記憶を探る。すると頭の中を稲妻が駆け抜けた。
「いさぎよいですね。」
エリー先生がカバンをアルの手から受け取ろうとした瞬間!
アルは勢い良くスクールバックを自分の下へと引き戻した。
「何の真似ですか?」
先生の顔は笑顔だが、眉間にしわが寄っている。
「い、いえ・・・、別に何も入ってませんて。」
アルの額からものすごい量の冷汗が流れている。
(し、しまった~~~。朝モスから、エロ本貰ったの・・忘れてた・・・。赤点どころか俺のクラスでの株が暴落する・・・。)
「なんです?何もないなら見せても大丈夫でしょう。」
エリー先生はアルが抱え込むスクールバックに手を伸ばした。
「ダメです!!」
アルはさらに強く抱え込んだ。
(アル!こっちを見ろ。)
モスはアルが気づくように鉛筆をわざと落とした。
アルはそんなモスの合図を見逃さなかった。
(何か作戦があるんだね!)
ウインクをして気づいたことを知らせる。
(これを読め。)
ノートをアルの方へ向ける。そこには走り書きでこう書かれていた。
{ショウカンジュツ、サル、ビックリ、スキニカイシュウ}
(召喚術、去る?ビックリ、好きに回収?う~ん・・・・・・、そ、そうか!?召喚術でカバンの中の物をモスが何処かへ飛ばし、そして好きな時つまりいつでも回収可能・・・ビックリってことだね!!)
アルはモスに伝わったことを知らせるため再びウインクし、サインを送った。
(伝わったか・・・。もし物が見られたら俺にもとばっちりがくる。)
ノートに術式を書きモスは親指を立て、準備は出来たと伝えた。
(了解!)
「すみませんでした。見ても何も入ってませんよ。」
アルはさわやかな笑顔で再びスクールバックをエリー先生に差し出した。
「やましいことがないなら最初からそうしなさい。」
エリー先生はカバンを受け取ると、ゆっくりとチャックを開けてゆく。
(チャンスは一回!スクールバックからサルが出てきてビックリしている隙に回収するんだぞ・・・行くぞ召喚!)
ノートの上の術式に手をかざした。同時にカバンのチャックが前回になる。
「どれどれ・・・。」
エリー先生はカバンに手を入れようとするが何かフワフワした毛のようなものに当たり、カバンに手が入らない。そしてやたら重い。
「ウキッキー。キキ・・・」
そこにはバナナを食べ終え皮だけ持ったサルがいた。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
突然の出来事にアルとエリー先生はびっくりして尻餅をついた。そしてカバンと共にサルは地面へほうりだされる。サルは教室の外へと走り去った。
(何やってんだーーーーーー!!お前がビックリしてどうする!!カ、カバンの中身は!?)
モスがカバンを見る。しかし、物はまだカバンの中にある。
「な、なんなんですか!?」
エリー先生は腰をさすりながら、カバンを手に取り立ち上がった。そして、再びカバンの中へ手を入れた。
(もうだめだ!!猶予がない・・・。仕方ない。)
「アル!!カバンだ!!!!」
「分かった!!」
アルは勢い良く立ち上がってエリー先生が手に持ったカバンに向かって手をかざしながら一歩踏み出す。
「手刀!!」
カバンまであと少しと言うところで・・・
アルは先ほどのサルが落として行ったバナナの皮を踏みあまりの勢いの強さに空中を二回転ほどし、仰向けに倒れ込んだ。
「なんですかコレは?なになに・・・、眼鏡っこシリーズ第二弾・放課後の女教師!?」
エリー先生はパンドラの箱開けてしまった。エリー先生はその手に持ったポルノ雑誌を見て一気に顔が赤くなった。周りの女生徒が冷ややかな視線で倒れたアルを見つめている。
(アル・・・、お前は良くやった・・・。)
モスは倒れ込むアルから顔をそむけた。
(あ~、終わったな・・・。どうしようか・・・はは・・・・・はははっはは。)
アルは倒れた衝撃でつぶってしまった目をゆっくりとあけた。すると昼間だと言うのになんだか薄暗い。ぼやけていた視界がだんだんと鮮明になってくる。そこには肌色の桃に黒い布の線が一本引かれていた。それを見たアルは思わず言ってしまった。言ってはいけないことを・・・
「ヒ、ヒモパン???」
エリー先生の顔がマグマのように赤く染まった。そして、左足を上げまっすぐ下に踏み下ろす。
アルの顔面にクリーンヒットし、アルは気を失った・・・。
(・・・・・・・・、若干羨ましいぞアル!!)
地面に伸びる哀れなアルを見てモスはそう思った。