職場で
「陳宮、引っ越して来たばかりで出仕か?」
以前曹操に仕えていた時から面識があった夏侯惇が不思議そうに見ている。
夏侯惇は気のいい男だ、裏切った俺に対しても普通に接してくれていた。
「夏侯惇、俺は手柄を立てねば居場所が無いからな、少しでも早く現状になれなければならんのだ。」
「そんなものか、まあ無理はするな、とは言えんか。
夏侯淵や、曹仁、曹洪あたり怒っているからな。」
「夏侯惇、お前も怒っているのだろう?」
「降ったお前に怨みを持ってどうする、俺は曹操の天下の為に必要ならどんな奴でも受け入れるさ。」
「お前も変わらないな。」
「陳宮は変わったな。」
「そうか?」
「ああ、以前のお前には手柄を立てようなどという野心は殆ど無かった、どちらかと言うと手柄より、名を重視するはずだったよな。」
夏侯惇は俺が降った事が不思議なのだろう、たしかに以前の俺なら降るなど無かった、いや今でも降る気など無い、だが今の俺には殿の家族を守るという使命があるのだ、安易に自害など出来なかった。
「たしかに名は大事だが、それより大事な物が出来た、ただそれだけだ。」
「そうか、なら俺から言うことはないな。
誰かと揉めた時は俺に声をかけろ、間に入ってやる。」
「ありがたい、その時は頼らせてもらう。」
夏侯惇は豪快に笑い俺の背中を叩いて別の場所に歩いていった。
「相変わらず、いいヤツだ。さあ俺も働くか。」
俺は軍部に顔を出し、曹操軍の内情を頭に入れていく。
各地の収益、軍の配置、外交関係など多岐に渡っていた。
「陳宮、よくもまあ戻ってきたものだ。」
「荀彧か、俺にも事情があるのだ。」
「ふん、恥もわからなくなるとは些か見損なったわ!」
「・・・返す言葉もないな。」
俺があっさり認めるとは思わなかったのか荀彧は意外そうな表情を見せる。
「調子が狂う、お前に手柄を立てる機会などない、今、曹操様の軍用には軍師が多数いる、お前の居場所など既に無い。」
そう言い残し荀彧は立ち去っていく。
「恥を知らぬか・・・」
荀彧の言葉は俺の心を傷つけるに余りある言葉だった。
願わくば降伏などせずにいたかった。
だが殿に託されたものの大きさが俺に自害の道を選ばせてくれない。
ため息をつきつつも、今の状況を頭に入れていくのだった・・・




