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堅物の売れ残り女文官の秘密 その後  作者: 鈴木 みお


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9 ウィンダ視点



 最初に気づいたのは、ほんの些細なことだった。


 報告書を受け取りに来た隊員たちの視線が、妙に散っている。

 こちらを見ているようで、見ていない。


「……何かあったか?」


 問いかけると、皆一様に背筋を伸ばし、慌てて首を振った。


「い、いえ! 特に何も!」


 その反応が、もう答えだった。


 副隊長のキースが、少し遅れて口を開く。

「ウィンダ。最近、事務方の空気が変わったのは気づいてるか」


「……ああ」


 理由は聞かなくても、察しはついていた。


 脳裏に浮かぶのは、

 化粧もせず、目立たず、淡々と仕事をこなす女文官。


 ――フィーア。


「ランスがな。

 ちょっとした用事で、あの文官と一緒に動くことが増えてるらしい」


 胸の奥が、ひくりと嫌な音を立てた。


「仕事だろう」


 自分の声は、驚くほど平静だった。


「だろうな。でも……」

 キースは言葉を選ぶように一拍置く。

「“見られ方”が変わった」


 それだけで十分だった。


 自分だけが知っていると思っていた。

 夜の静けさの中で、彼女が見せた表情も、声も、熱も。


 それを――

 他の誰かが、知る必要はない。


 知っていいのは、自分だけだ。


 花束を拒んだ女が、

 なぜ今になって、周囲の目を引く。


 理解できないのに、理解したくないのに。


 気づけば、拳を強く握りしめていた。





 最近、ランスの報告がやけに多い。


 内容はどれも些細なものだ。事務方との連携、書類の進捗、次の訓練予定。

 隊長としては、むしろ歓迎すべきことだというのに。


「……分かった。もういい」


 思ったよりも強い声が出て、ランスが一瞬だけ目を見開いた。


「は、はい……失礼します!」


 踵を返して去っていく背中を、ウィンダは無言で見送った。


 理由は分かっている。

 分かっているからこそ、認めたくなかった。


 ランスが報告の合間に、何気なく口にした名前。


「フィーアさんが――」


 それだけで、胸の奥がざらつく。


 仕事の話だ。ただの連携だ。そう何度も自分に言い聞かせる。


 それでも。


 自分が花束を差し出した場所に、別の男が立っているような錯覚が、頭から離れなかった。


 ――断られたのは、自分だ。


 資格がないのは分かっている。

 だが、それとこれとは別の話だ。


 拳を握り、ゆっくりと息を吐く。


 ここを離れれば、余計なことを考えずに済む。

 そう思おうとした。


 思おうとしただけだった。


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