6 ランス視点
事務室の扉の外で、ランスは立ち尽くしていた。
――おかしい。
中から聞こえてくる声は、ざわめいているはずなのに、
そこに含まれる温度が、思っていたものと違う。
(……笑い声、じゃない?)
耳を澄ませる。
馬鹿にした調子でもない。
誰かを貶す空気でもない。
むしろ――感心するような、戸惑うような。
ランスは、そっと扉を押し開けた。
視界に入ったのは、いつもと変わらない事務室。
そして、中央に立つフィーア。
化粧をしていない。
いや、正確には――余計なものが、何もない。
光を受けた横顔が、はっきりと見える。
「…………」
言葉が、出なかった。
(……え?)
喉の奥が、ひくりと鳴る。
冗談のつもりだった。
隊長を振った“堅物女”に、少し恥をかかせてやろうとしただけ。
なのに。
「……綺麗だな」
誰かが、ぽつりと呟く。
ランスの胸が、ぎゅっと締めつけられた。
(……違う)
思っていた反応じゃない。
笑われるはずだった。
居心地悪くなるはずだった。
自分の中で、溜飲が下がるはずだった。
なのに。
皆の視線は、侮蔑じゃない。
驚きと、評価と、戸惑いだ。
ランスは、気づいてしまった。
(……俺、やったこと)
背中に、冷たい汗が伝う。
自分は、フィーアの「弱点」を突いたつもりで、
実は――隠していたものを暴いてしまっただけなのだ。
しかもそれは、
彼女を貶めるどころか、押し上げている。
(……最悪だ)
自分の行動が、軽率で、子供じみていて、
そして――卑怯だったことを、否応なく理解してしまう。
ふと、フィーアがこちらを見た。
一瞬、視線が合う。
責めるでもなく、
怒るでもなく、
ただ――静かに。
その目が、何より堪えた。
「……」
ランスは、思わず視線を逸らした。
胸の奥が、じくじくと痛む。
隊長の顔が、脳裏をよぎる。
(……俺、何やってんだ)
忠誠心を盾にした八つ当たり。
それを、正義だと勘違いしていた。
ランスは、拳をぎゅっと握りしめる。
――謝らなきゃ。
でも、その一歩が、異様に重かった。
自分が壊しかけたものの大きさを、
ようやく、理解してしまったからだ。




