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堅物の売れ残り女文官の秘密 その後  作者: 鈴木 みお


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18 ウィンダ視点

別れ際 ――


 ――危なかった。


 中庭を離れ、人気のない回廊に足を進めながら、ウィンダは自覚していた。

 ほんの一瞬でも、気を抜けば――連れて行ってしまっていた。


 隣を歩くフィーアの横顔。

 夜会用の装いを脱いでも、まだ頬には熱が残っている。


 瞳が潤んでいる。


 媚薬など、ない。

 それが分かっているからこそ、喉が鳴った。


 あの夜を、否応なく思い出す。

 自分の名を呼びながら、縋るように見上げてきた視線。

 触れるたびに、信じられないほど素直に震えた身体。


 ――知ってしまった。


 彼女がどんな声で息を乱し、

 どんなふうに、快感に身を委ねるのか。


 もう、知らなかった頃には戻れない。


「……送るだけだ」


 自分に言い聞かせるように呟いた声は、少し低かった。


「はい……」


 その返事ですら、柔らかくて、危うい。


 建物の影に差しかかったところで、フィーアが立ち止まった。


「……ここまでで、大丈夫です」


 振り返った瞬間、ウィンダの胸が締めつけられた。


 逃げるための言葉だと、分かってしまう。


 指先が、無意識に伸びる。

 触れたのは、手首だけだ。


 それだけなのに、フィーアが小さく息を呑んだ。


 その反応に、理性が軋む。


 ――だめだ。


 ここで抱き寄せたら、終わる。


「……顔を上げるな」


 そう言ったのは、自分のためだった。


 だがフィーアは、ゆっくりと視線を上げる。


 潤んだ瞳が、まっすぐにこちらを見る。


 あの夜と、同じだ。


 ウィンダの腹の奥が、熱を持つ。


「……分かっているだろ」


 声を抑えなければならなかった。


「今のお前は……危険だ」


「……ウィンダ様が、ですか?」


 その問いに、思わず笑いそうになった。


「そうだ」


 短く答える。


「触れたら、抑えられない」


 フィーアの喉が、こくりと動いた。


 それを見ているだけで、胸が苦しい。


 手首を掴んでいた指を、名残惜しそうに離す。


 代わりに、額をそっと重ねた。


 唇が触れるほど近いのに、触れない。


 その距離が、かえって拷問だった。


「……今日は、ここまでだ」


 低く、噛みしめるように言う。


「次は……逃がさない」


 約束ではなく、予告だった。


 フィーアの睫毛が震え、静かに目を閉じる。


 その仕草だけで、胸がいっぱいになる。


 最後に、額へ口づける。


 唇ではない。

 だが、それ以上に名残が残る。


「……おやすみ」


「……はい」


 背を向けるまで、振り返らなかった。


 振り返ったら――

 きっと、理性がもたなかった


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