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堅物の売れ残り女文官の秘密 その後  作者: 鈴木 みお


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 王宮の執務室は、いつもより静かだった。


 フィーアは与えられた席で、淡々と書類を整理していた。

 指示は的確、判断は早い。

 周囲の文官たちがひそひそと視線を交わすのが、嫌でも分かる。


「……本当に、仕事が早いわね」

「助かるわ。さすが騎士団付きで鍛えられていただけある」


 そんな言葉を、もう何度も聞いた。


「ありがとうございます」


 返事はいつも通り。

 声も表情も、崩さない。


 ――評価されている。

 ――求められている。


 それは確かだった。


 昼休み、廊下を歩いていると、背後から声をかけられる。


「フィーアさん」


 振り向くと、王宮付きの若い文官が立っていた。


「さっきの判断、すごく勉強になりました」

「……そう言ってもらえると、光栄です」


 軽く会釈をして、その場を離れる。

 会話はそれ以上、続かなかった。


 気づけば、周囲との距離は常に“適切”だった。

 踏み込みすぎず、踏み込ませすぎない。


 ――昔から、そうしてきた。


 執務が一段落した頃、ふと窓の外に目をやる。

 中庭では、騎士たちが訓練をしていた。


 反射的に、その中に探してしまう。


 ――いない。


 当たり前だ。

 彼は今、遠征に出ている。


 分かっているのに、胸の奥がじくりと痛んだ。


「……」


 書類に視線を戻すが、文字が頭に入ってこない。


 評価される。

 役に立つ。

 信頼される。


 それなのに――


 誰にも、必要とされていないような錯覚。


 以前は、間違えた書類を持ってくる騎士にため息をつきながらも、

 どこかで“待たれている”実感があった。


 今は違う。


 必要なのは、仕事としての自分だけ。


 フィーアは小さく息を吐いた。


「……欲張りね」


 選んだのは、自分だ。

 断ったのも、自分。


 それなのに、

 たった一人の不在で、こんなにも心が揺れるなんて。


 夕刻、業務終了の鐘が鳴る。


「フィーアさん、今日はありがとうございました」

「お疲れさまでした」


 丁寧な挨拶を交わし、王宮を後にする。


 帰り道、夕焼けに染まる空を見上げながら、胸の奥で呟いた。


 ――評価されるのは、嬉しい。

 ――でも。


 もし、誰か一人に

 「そばにいてほしい」


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