表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
堅物の売れ残り女文官の秘密 その後  作者: 鈴木 みお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/19

14 ウィンダ視点

北方国境の風は冷たく、乾いていた。


 遠征三日目。

 野営地の焚き火を囲みながら、部下たちは思い思いに体を休めている。


 ウィンダは地図を見つめたまま、ほとんど口を開いていなかった。


「隊長、あまり眠れていませんね」


 副隊長のキースが、湯を差し出す。


「……平気だ」


 そう答えながら、湯気の向こうに別の光景が浮かぶ。

 事務室。机。書類。淡い声。


 振り払うように首を振った。


 その時だった。


「――あ、そういえば」


 焚き火の向こうで、若い騎士が何気なく口を開いた。


「事務方、最近ずいぶん回りが良くなったらしいですね」


 ウィンダの指が、地図の端を強く押さえた。


「ランスさんがよく顔を出してるとかで。フィーアさんと一緒に仕事してるって」


 焚き火が、ぱちりと弾けた。


 ただの報告だ。

 ただの噂話だ。


 そう分かっているのに、胸の奥がきしむ。


「……それがどうした」


 声は低く、感情を含ませない。


「いえ、特に意味はないんですが……」


 若い騎士は慌てて口をつぐんだ。


 キースがちらりとウィンダを見る。


「噂は噂だ。気にするな」


 誰に言ったのか、自分に言ったのか。


 夜。

 天幕の中で、鎧を外しながら、ウィンダは静かに息を吐いた。


(……俺が距離を置いた)


 それだけのことだ。


 彼女は、前に進んでいる。

 仕事を評価され、周囲からも認められている。


 それは、喜ぶべきことのはずだった。


 それなのに。


(どうして……)


 ランスの名前が、胸に刺さる。


 若い。

 素直。

 自分より、ずっと彼女の近くにいられる。


 拳を握る。


(……知っているのは、俺だけだったはずだ)


 化粧の下の素顔も。

 弱さも。

 夜の体温も。


 誰にも渡すつもりはなかった。


 だが——


(資格がないのは、俺だ)


 花束を断られた事実が、重くのしかかる。


 遠征命令書を畳み、ウィンダは目を閉じた。


「……早く終わらせる」


 それが何のためなのか。

 自分でも、もう分からなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ