13 ランス視点
ランスは、自分が少し浮かれていることを自覚していた。
理由は単純だ。
事務方とのやり取りが増え、その中心にフィーアがいるからだ。
「この件、次の締めまでに確認が必要で……」
書類を差し出すと、フィーアはいつもの穏やかな表情で受け取った。
「分かりました。こちらで整理しておきますね」
淡々としたやり取り。
それだけのはずなのに、胸が軽くなる。
隊長の遠征が決まってから、事務室と騎士団の連携は少しだけ滞っていた。
その穴を埋める役目が、自然とランスに回ってきたのだ。
(隊長がいない間くらい、役に立たないとな)
そう思って動いているだけ。
それ以上の感情など——
「ランスさん、こちらもお願いします」
名前を呼ばれて、思考が止まる。
「は、はい!」
返事が少し大きくなった。
フィーアは小さく微笑んだだけで、特に気にした様子はない。
昼休み、廊下で偶然会った。
「この前は、ありがとうございました。助かりました」
「いえ……こちらこそ」
それだけの会話。
だが、その距離が、以前より近いことに気づく。
噂は耳にしている。
隊長がプロポーズを断られたこと。
その相手が、目の前の女性だということ。
(……隊長には、悪いけど)
ランスは視線を逸らした。
フィーアは、誰のものでもない。
隊長の専有物でもない。
それに——
(隊長、今はいないしな)
遠征は長い。
その間、事務方との連携を担うのは自分だ。
それだけだ。
そう言い聞かせながらも、心の奥で、別の感情が芽吹き始めていることを、ランスはまだはっきりとは認めていなかった。
そしてその小さな変化が、
遠く離れた場所にいるウィンダの胸を、やがて確実にざわつかせることになる。




