12 ウィンダ視点
フィーアと顔を合わせなくなって、何日経っただろう。
書類は、副官を通して受け取る。
訂正も、直接は言わない。
意識的に、距離を置いていた。
(……これでいい)
そうしなければならないと思った。
あの日。
花束を持ち、膝をつき、覚悟を決めたあの日。
「謹んでお断りします」
その一言で、すべてが終わった。
彼女の事情も、考えも、理解しているつもりだった。
それでも——
(……あんな夜を過ごしておいて)
考えてはいけないと、何度も自分に言い聞かせる。
隊の訓練中、部下の動きが目に入らない。
副隊長の声も、どこか遠い。
「隊長、集中してください」
キースの一言に、はっと我に返る。
「……すまない」
休憩時間。
ふと視線を向けた先に、事務室の扉が見えた。
以前なら、何か理由をつけて顔を出していた。
書類の不備だの、確認だの——
本当は、彼女の姿を見るために。
だが今は、行かない。
行けば、期待してしまう。
期待して、また拒まれるのが怖い。
「……臆病だな、俺は」
呟いた声は、誰にも聞こえなかった。
その日の夕刻、王宮からの通達が届いた。
「遠征命令?」
キースが眉を上げる。
「ああ。北方の国境警備だ。長期になる」
フィーアの顔が、脳裏をよぎる。
王宮勤めの話を、彼女が受けたと聞いた。
噂は、騎士団にも流れている。
(……王宮、か)
遠くなるな、と心のどこかで思う。
彼女は、前へ進んでいる。
自分は、置いていかれている。
「隊長……大丈夫ですか?」
「問題ない」
即答した。
これは、逃げではない。
そう言い聞かせる。
彼女の世界を乱さないため。
彼女の選択を尊重するため。
——本当に?
胸の奥に、鈍い痛みが残る。
(……距離を置いたのは、俺のほうだ)
それでも。
彼女が誰かに近づく姿を見る覚悟は、
まだできていなかった。




