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その日は騎士団長であるウィンダにとって、間違いなく人生の節目となるはずだった。
「謹んでお断りします。」
「…………ん?」
堅物売れ残り女文官と言われているフィーアからまさかのお断りのフレーズが聞こえてきた。
もしかしたら、自分のいう事が聞こえてなかったのかもしれない。
気を取り直して、もう一度騎士の礼である、片膝をつけながら、バラの花束を差し出して彼女に思いを伝えた。
「フィーアどの、どうか私と結婚してください。」
先程よりも大きな声でハッキリと伝えた。
「…………ですから、謹んでお断りします。」
フィーアの出勤早々、騎士の正装のウィンダが事務方にやってきた時から、周りは騒然としていた。
普段はたまに疲れた顔をして書類を提出に来るぐらい。しかもその書類もミスが多く、窓口担当のミアやフィーアから再提出を要求される事がほとんどなのだ。
そのウィンダが、なぜか正装でバラの花束を持って騎士団の事務室にやってきたかと思ったら、フィーアを指名してきた。そして彼女を正面にしていきなりのプロポーズである。周りも呆然としてその様子を見ていた。
「わぁぁ……!!」
ミアに至っては目を輝かせて、その様子を見ていた。騎士の正装を纏ったウィンダはまさに王子様。
その彼が堅物で売れ残りと言われるフィーアにプロポーズをする姿はさながら御伽話の1ページのようで、心踊る場面だ。
この後は頬を赤らめたフィーアが涙ぐませなが承諾するという場面を思い描いていたに違いない。
…………だが、現実は全く反対の様子を呈していたのだ。
まさか、振られようとは…………
ウィンダは全く予想すらしていなかった。
***
カタカタ……
ウィンダが去っていった後、フィーアはいつもと変わらず淡々と仕事に取り掛かっていた。ちょうど月末に差し掛かっていたこともあり、山のように処理していかなければならない作業があったのだ。
しかし、どうしたって周りからの視線が痛い。
事務方全員から何があったのだと言わんばかりの好奇心旺盛な視線を感じる。
まぁそれも、決して触れるな…………
というオーラを出すことで、なんとか腫れ物扱いしてもらっているのがわかった。
ちょうど昼休みになった時、いつものように休憩に立ったところ、ミアにさっそく捕まった。
彼女は私の教育係であり、一番距離が近いのだ。
「フィーアさん!!ウィンダさんとどんな関係なんですか!?!?!?」
皆の視線が一斉集まった。
皆、よく聞いてくれたと心の中でミアに拍手を送っていた。
「さっきのプロポーズでしたよね!?!?」
「付き合っていたんですか!?」
あまりの勢いに少しばかり後ろにのけぞるが、咳払いを一つして冷静に答えた。
「――――ウィンダさんにこの前いつも間違えている箇所を指導した事があって…」
それから接点ができたんです。付き合ってはいません。
――――私もまさかこんな事が起きるなんて思ってもいませんでした。
「なんで断ったんですか!?王子様みたいでかっこよかったじゃないですか!?」
「――なんでと言われても……お受けする理由がないですよ。」
「でも、玉の輿じゃないですか。ウィンダさん、若き騎士団長ですよ?勿体無い――」
「…………興味ないですから。」
「え…………あ、そうですか…………」
ミアの風船のように膨らんだ期待が、しゅ…………としぼんで行くのがわかった。




