蜘蛛の糸
あまりにベタ
「冗談ですよね」
「この顔が冗談に見えるの?」
近い……そんなに近付かれたら色々駄目になりそうだ。彼女の表情は真剣そのものとても冗談を言っているようには見えない。
「見えないですけど」
「地図は見たことあるけどこんな地形見たことない……ここはどこなの?」
「太陽系の第3惑星の太平洋プレート、北米プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートの交わる面積三十七万八千メートルの島国です……」
「プレート……?太陽系……?惑星……?やっぱりからかってるでしょ」
本当にわからない?プレートを知らないにしても、地図を見た事があるなら惑星の事くらいは知っていてもおかしくない。
地図と地球儀のレア度は大体同じくらいなのに知らないとなると……どういう事だ。まさか……まさか……いや、そんな……
「そんなことは……」
「あれ……?ちょっといい?」
「なっ……き、急に何を……」
今、おでことおでこを当てる今時バカップルでもやらないだろう熱の測り方をされている。
訝しげな顔が眼前に迫っている。目元しか見えないけど訝しげな顔をしているのはよく分かる。
「……おかしい。ここら辺魔物出ないの?」
「ま、魔物?そんなの居るわけないじゃん」
「居……ない?おかしい……そもそも人間と私の間でスムーズに会話が成立しているのがおかしかった。人間の言葉なんて私は喋れないはずなのに……いや、そんな事よりこの人に一切の魔力が感じられないことの方が問題。いや、そういえば、ここに来てから体の調子がいい。まさか、ここの人間は魔力が扱えないようになんらかの処置を……ぁ」
離れた……精神的な負担がなくなったはのはいいけど、物足りない。それと、女性が少しひんやりしてるの本当だったらしい。
彼女は今も一人で口に手を当て何かを呟き続けている。声量が下がってよく聞こえないが聞き流せない単語が聞こえた。
「魔力……?言葉が通じるはずがない?どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。私達と人間とでは言語体系も違う。全ての物体に魔力がまとわりついている以上、魔法が使えないのはおかしい」
「そ、そうなの……?」
「魔法は魂の籠もった言葉を発する事で相手を呪いたい、こうなりたいという願望を魔力に伝える高等な技術だから誰でもできるわけじゃないよ。でも、感情が昂ぶれば誰でも魔法らしきものが使える。それどころか、相手が憎いという感情が呪いとなって相手に降りかかるなんて事は子供あるあるなんだよ」
魔法って必死こいて言葉を発せれば使えるのか。そんな経験ないが?だからおかしいって事なんだろうな。
あらゆる物体に魔力がまとわりついている……ダークマターとかダークエネルギーの正体だったりするのか?
「君の周りには確かに魔力はあるのに、魔法らしき物すら見たことがないんだよね。ここは一体……」
「異世界」
「異世界……なるほど、確かにそうかもしれない。不可解な現象にも説明がつく。そうとしか考えられない」
壁を登って二階の天井に張り付き、糸で一階に着地し、紅茶を一口。字面だけ見ると間抜けなのになんて美しいんだ。
素粒子レベルまで観測できる技術があるのに発見出来てない魔力を認識しているなら彼女は未知の法則に従っているんだろう。
各地に精密な神話が残っているのは、今回のようなケースが昔起こっていた、と考えればありえなくはないか……?
「まぁ……そろそろ巣立つ時期だったしむしろ幸運だったかな?」
「どういう?」
「ねぇ……こっちの常識とか規律とか色々教えてくれないかな?」
「え、あぁ……はい」
彼女に貨幣経済やら法律やら警察やら、戸籍制度などの諸々の説明してたら随分暗くなってしまった。つい熱が入ってしまった。
さて、もう30分くらいしたら親が帰ってくる。終わってから紅茶しばき始めたからもう完全に出来上がってるよ。
どうすっかなぁ〜これ。ん……?ガチャ?おい嘘だろまだ5時だぞ。定時はどうなってんだ定時は!
「か、隠れて」
「なーんで隠れなきゃいけないんですか。しっぽりヤりたいから〜?恥ずかしがり屋なんだから。ちゅ〜から始めよっか。ん〜♡」
「いや、本当に今危機的状況nヒュッ……」
リビングのドアが空いているっ!そしてバックを落としている!!まずいですよ……!今はフリーズしてるだけだ。
最大限好意的に解釈したとしてもヒステリー確定。最悪の解釈の場合、化け物に息子が襲われてるようにしか見えない。
「は、離れなさい!この化け物!」
「ん〜♡ん♡ん……?はぁ……」
やはり、白露がどう言う態度に出てるか分かってない。現状本当に俺しか白露の言葉が理解出来てないんだ。
「……困ったらいつでも呼んでね。助けてって叫んだのが聞こえたらいつでも駆けつけるから。あ、もちろん会いたくなった、とかで呼んでくれていいからね♡じゃあね」
彼女はそう言ってカップを持って出ていってしまった。おぉん……残されたのは悲惨な状況だけ。
「大丈夫?何もされてない?」
「う、うん」
「本当に?大丈夫?」
「大丈夫だって……」
心配しすぎてだるい……いや、まぁ、ヒステリー起こされるよりはマシか。大分対応は楽。キスくらいしとけば良かったな……。
いやでも絶対キスだけで終わる流れじゃなかった。いやでも行きずりになりそうだったし……やっぱりすればよかったかなぁ。
「もう!聞いてるの!!」
「聞いてる聞いてる」
「じゃあ何言ったのか言ってみて」
「ッスゥ〜……えーっと、その」
うわ出た。伝家の宝刀“じゃあ何言ったのか言ってみて”分かるわけないだろ!いやまぁ悪いのはこっちだけどさ。
お母さんの想像通りの状況だったとしてもよ、こっちは色々ストレスとかあるわけじゃん?聞いてるわけないって、まともに。
「聞いてないじゃん!いい?──」
「……わかったわかった。気を付けるよ。ちょっと疲れたから寝ていい」
しぶしぶと言った顔だ。明日が酷そうだなぁ。やだやだ。折角のいい日が台無しだ。寝よ寝──よ──
「ん、んん……ん、ん!ん!!」
目覚まし時計が遠い。誰だよドア前に置いたの。俺だよ。朝飯食べて学校行くか〜。高校が一番っていうけどさ、だるいよ〜。
「なに……その目は」
「なんでもないよ。んっ、はふはふっ、ふぅ……」
「ねぇ、ちょっと!」
パンをココアで流し込み、教科書をバックに詰め込んで玄関から外に出た。時間を置けば落ち着くだろう。落ち着いてくれ……。
夫婦仲が壊滅してる上に、メンヘラな母親相手にするなんて面倒にも程がある。
金を仕送りしろって言われても一人暮らししたい。父親も性格は……まぁ良くも悪くもない。俺も含めて終わってるわこの家。
『ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめください、ドア閉まりまーす』
暇だな……Xでも見るか。何かトレンドがおもろい事になってるぞ。正体不明の言語を話す人物?新種の生物?
でも引用元は学術論文とか、ネットニュースのサイトとか比較的信頼出来るな……昨日の美少女といい、一体何が起きてるんだ?
『次は〜乾丘、乾丘〜です』
辺りに広がる農場を越えて、校庭をコの字型に囲うように建てられた校舎を要する牧原高校へと入る。
林、農場、ゴルフ場に囲まれたごく普通の何もない高校だ。まぁ、何も無いのは学校周辺だけで駅前はそこそこ賑わっている。
何が起こったとしても別に日常には関係のない。今日も今日とていつも通り授業するだけだ。
「気を付け、礼!」
「「「おはようございます」」」
「さて、今日はですね──」
ようやく昼になった。55分授業は長すぎるわ。飯飯〜、うん、今日もちゃんとしたお弁当だ。
母親はやることはやってくれるのは感謝してる。ご機嫌取りをしなきゃいけないのはなんとかしてほしいけど。
「ふぅ……」
予鈴だ、トイレ行って授業受けよ。次の授業は数学じゃん。先生の目がキマってるから嫌なんだよなぁ。はぁ……。
「起立、気をつけ、礼!」
「「「さようならー」」」
今日が終わった!これで祝日だ!!9月後半ならまだテストもないし、堕落した生活が送れる!やったぜ!!
早く帰ろう。溜まってたアニメを消化しないと。あ~積み本も消化したいな。やることたくさんあって大変だな〜困っちゃうなぁ。
「ただいま」
「……」
うわぁ……まだ怒ってる。そういや前もこんなことあったな……。その時は2日くらい謝り倒したっけ。
どっかに遊びにでも行くか。駅あたりにでも……いや、さっさと飯済ませて寝よ。寝るのが一番だ。
「……」
「……」
一言も喋らない夕食、空気が重いぜまったく。客観的に見ればこの件に関しては俺そんな悪くないだろ。
「ふぅ〜」
まったく今日はよく眠れそうだ。明日は走った後に適当に駅前でも行って本屋でも寄って、映画のある駅に──で──い──
「ふ、あぁ〜」
今日も朝が来た。せっかくの休日だっていうのに、何も楽しくない。はぁ……朝飯くって走りに行こ。
「ハッハッ……ッスゥ〜」
「そんなに急いでどうかした?私がなにか持って帰ってた?」
冬休み中は毎日投稿していきます。




