舞台装置
少々遅れました。
「入る?」
「あ〜……お願いしようかな」
「はいは~い」
「んぎィ!」
一瞬の浮遊感の後に部屋のような物に転がり込んでいた。
ここが彼女の部屋か……土の匂いがする。
糸で葉を絡めとっている感じで光はあまり届かない。光源はランプか。
それ以外は机と炉とキッチンと謎のスペースしかない。
まるで枯れたO……人をダメにするアレがあるからお洒落女性の部屋だ。
「あ、ちょっ……その瓶はっ」
「あふぇっ」
柔らかいものに後頭部が包まれている。
そして手に触れるやや冷たい肌の感触。
間違いない。今、俺は彼女の上に乗っている!!
「……」
「寝た?」
頭上から聞こえる規則的な呼吸音、へたり込んだ脚……完全に寝ている。
そういえばさっき瓶の蓋を開けたら音がしたんだよな。
炭酸を開けた時に似ていた気がする。何か気体が入ってたんだろうな。
にしてもおっぱいが結構重い……これが幸せの重さって事か?
「んぅ〜」
「んぎっ」
物凄い力で抱き締められ、身動きが取れない。
何も困らないし大人しく彼女の抱き枕されとこう。
視線が彼女の瑞々しい唇と端正な鼻に自然と目が吸い寄せられる。
指突っ込見たくなってきた。
足がもふもふして温かいせいでこっちまで眠くなってきた。
妙にこの部屋もあ──ったか──
「あ、起きた。お腹すいたでしょ?」
「ん……」
「よしよし、上手上手〜」
「……はっ!!」
口に放り込まれた肉を噛んでいたら目が覚めてきた。涙が溢れる。
まともに食事を取ったのも久しぶりだし気にかけてもらったのもいつ以来だろう。
「大丈夫!?まずかった?」
「ちょっと、恥ずかしくてさ……」
「……?普通だよ。何もおかしくない」
「そうかな?そうかも……」
彼女はただ寄り添って食べ物を差し出してくれている。
何か察したのかもしれないし、初めて会った時のお礼かもしれない。
久々に人の温かさに触れて張り詰めた心が限界を迎えてしまった。
「疲れたらいつでも来ていいから。自分の家だと思って寛いで」
「……うん。ありがとう」
抱き締められるのも、頭を撫でられるのも久しぶりだ。
間違いなく彼女には情がある。でも、彼女と俺とでは認識の前提が違う。
だから、彼女の誘いには乗れない。何もかも終わるかもしれない。
それが……怖い。
「あ、実は私からもお土産があるんだ」
「はい、これ」
「笛……?」
そう言って彼女は紐の付いた筒状の白いものを渡してきた。
一体どこにこんなものを隠し持っていたんだ?おっぱいか?おっぱいだろうな。
「うん。お守りみたいなものだよ」
「助けが必要な時、使って」
「絶対駆け付けるから。必ず」
「だから、大事にしてね」
「分かった」
「今日も泊まっていくよね」
首を傾け手を合わせる。なんてあざとい動作だ。
それでも、彼女がやればこうして脳味噌が魅力で焼かれる事になる。
魅力に焼かれた脳味噌が彼女の頼みを断れるはずもない。
家に帰っても気分が悪いだけだったし、断る理由がない。
「……お言葉に甘えて」
「あ、上の方にもち上げてもらえる?」
「?なんで……?」
「面倒な事になるから、ね」
「??」
彼女は困惑しながらも俺を軽々と肩車して持ち上げてくれた。
凄い安定する……記憶にある幼い頃の父よりも安定しているかもしれない。
あの母親にどう伝えるか……
出掛けたら一人暮らししてる昔の友達と偶然会って、泊まることになった。
苦しい言い訳だなぁ。苦し過ぎる。いやでもこれ以外思いつかないしな……
どうせ面倒事は待ってる。送っとけ送っとけ。
「もう大丈夫。ありがとう」
「これくらいなんでもないよ」
「それより……それは何?」
「あ〜……遠く離れた人と連絡出来て」
「あらゆる娯楽をを内蔵したもの、かな」
「……」
宇宙猫顔も彼女がやると何か深遠な意図すら感じられてくる。
娯楽を内蔵したの辺りで宇宙猫になっちゃった。
初見で聞いてもよく分からない機械だよなスマホって。
機械文明に親しくなさそうな彼女は特によく分からないだろう。
「便利なものなんですね〜」
「もうこれがない生活は想像できないね」
「ふ~ん」
彼女は不思議そうにスマホの画面をタップしまくっている。
異世界の住人なのが思い出される。
しかし絵になるな……教会に飾ってあってもおかしくない。
凄い間抜けな場面なのに。
「この順番で触ると開くよ」
「……ふーん、なるほど。返すね」
「あ、うん」
彼女がしばらくスマホを弄り、飽きたのか返してきた。
まぁ、字幕ありにしてもゴミみたいな自動字幕じゃ分かんないよな。
彼女の喋るのにこんなものは使わないからしまっておこう。
彼女との会話>>>>>>スマホなのは明らかだし。
「あ、そうだ。いいものがあるんだ」
「じゃ~ん」
「…………これは?」
「これは私達の伝統的な遊戯なんだけど」
「どういう遊戯だと思う?」
「うーん……」
彼女が色の付いた円が折られている布をどこからともなく引っ張り出してきた。
少し見ただけで凄い織物なのが分かる。
彼女がギリシア出身と勘違いする原因となった逸話の登場人物の如く見事だ。
成果物は控えめに言ってもしょうもないが。
|指定された位置に指定された体の部位を置いて倒れたら負ける遊戯によく似てる気がするな〜。
まさかそんな事あるわk
「この2つのサイコロの出目で」
「体のどの部位を場所に置くか決めて」
「倒れたら負け。楽しそうでしょ?」
「ソウダネ」
ツイスターゲームじゃねぇか!
言えない。こんないい顔してる彼女にこれ有名なゲームだよなんて言えない。
有名なだけでやったことはないけど。
これを恋人じゃない異性とやるのは駄目だろ。
異性とやるツイスターゲームなんて完全に“そういう流れ”を作る為のやつだろ。
「あ」
「どうしたの?」
「サイコロを振る役が、足りない……」
「あ〜、それならこれを使おっか」
うなだれている彼女からは最早美術品のような美しさが感じられる。
正直もうちょっと見ていたい。
が、こんな顔の彼女にスマホのルーレットアプリを隠すなんて出来ない。
可哀想すぎる。
「当たったのを読み上げるから平気平気」
「便利なんだね」
「手放せない理由はこれだよ。準備完了」
びっくりして身を乗り出す仕草一つ取り出しても魅力が詰まっている。
一連の動作だけ見たらかわいいだけが。
しかし、それを一瞬切り取った瞬間
美術館に入場したかと錯覚するような美が殴りかかってくる。
多分こんなに美しいのは蜘蛛部分から漂う動物的な美しさと美少女部分が感情のもとに綺麗に調和してるからだろう。
「これでできるの?」
「まぁ見ててよ」
『右手、赤』
「っ!?何この声っ!」
未調教のボイロよりはいくらかましな合成音声を聞いて彼女の体が跳ねる。
警戒姿勢を取っている。警戒姿勢になると脚を使って重心を落とすのか。
絵になる……サイヤ人二人が初戦で披露した構えくらい絵になる。
「凄いでしょ?……ちょっと待ってて」
「どうしたの?」
「よし……設定の微調整終わり」
「じゃあ右手赤に置いてもらおっかな」
俺が先行なのか。どっちでもいっか。
右手赤……最初の一手だからかこんなもんでしょう。
「へぇ〜……」
「まだ一手目だけど」
「しらばっくれても無駄だよ」
「その置き方、練り上げられてる」
「えぇ……」
無造作に近くの赤に手を置いただけで感心するのは歴史浅くない?
勝てそうだな。勝ってどうするという話だが。
『右脚4、緑』
「ほう……この程度です、か。ふふふ」
「そ、そっか」
蜘蛛の腹の部分が肌を擦るせいでくすぐったい。
テクニカルアタック……なんでこんな環境に居て梵天より毛が柔らかいんだよ。
『左足、青』
「ほう……」
「まだ2手目だよ?」
『左手緑』
彼女の姿勢を見て分かった。アラクネならこのゲームは4、5手で終わる。
それから2手目で意味深な発言をする流れになるだろう。
“そういう流れ”を作るゲームなので当然顔が近い。
汗ばんでいるので香りも顔面と共に襲いかかってきてヤバい。
「ぐ、ぬぬぬ!はぁはぁ……」
「あなたの顔がよく見えるね」
「ソウデスネ」
『左脚黄』
「どうしたの?置かなきゃ負けちゃうよ」
こんなに近いのにもっと近付くのか……持ってくれ、脳の血管。
地味に足がつらい。これは負けたか?
近っっっ!唇の僅かな皺も唾液で少し湿ってるのも見える。
脳の血管切れるってっ!こんなのえろすぎるっ!!
『左脚1青』
「ぬ、ぬぬぬ!はぁはぁ……ふふふ。あなたは次耐えられるかな?」
『右脚赤』
「赤……赤?」
こんな状況で足を動かすのか。
動くけど、こんな状況で動けば彼女の胸に体が沈みこみかねない。
“そういう流れ”にならないように触らないように動かさないといけない。
かなり慎重に動かさn
「あっ♡も〜、めっ♡」
「そういうのはなしなんだよ〜♡」
「……」
「大丈夫?おーい。聞こ──」
柔らかい。いや、指が沈んでいく。そしてひんやりしている。あぁ……なるほど。
そうか、そういうこ──と──か──
次も1週間後です




