今日の麦生は何人目?もう一軒!
俺の名は、樽酒 麦生。
いつものように餃子と飲み終えたところ。
今日は気分的にもう一軒。
できれば新しいお店を開拓してみたい。
そんなフロンティアスピリット。
俺は未だに冒険者で行ける。
酩酊してフワフワな今は、さながら宇宙旅行。
どこにだって行ける。
財布の中身を確認しないまま、くぐる新しい暖簾。
「らっしゃいませー!おひとり様ごあんなーい」
「元気がいいな」
席へ案内してくれたのは、手場 沙紀。
やたらベタベタとスキンシップをしてくる。
暖簾や提灯のお店と、異なる雰囲気に困惑する。
「ここはピンクなお店なのか?」
俺が今、世界で一番気になる事は財布。
その中身が心許ない。どうしても視線が向く。
しかし、それを制する沙紀。
「大丈夫。私だけがべたつく女だから」
「じ、自分で言うのか?」
「はい、おしぼり。これで安心でしょ?」
差し出される熱々のおしぼり。
顔を拭いたい衝動には抗えない。
「うっわ昭和。それにおっさん。歳幾つ?」
「沙紀は結構……辛口なんだな」
頬を赤く染める沙紀は、まるで燃える唐辛子。
ヒリつく辛さが、次の俺を呼び続ける。
シュワ~~~~~
手に残るこのベタベタも、気付けば慣れる。
おしぼりもグラスも、皆がベタベタさ。
お通しも無しだが、これはこれで。
チャージ料金が無いのは有難い。
「ご指名と伺ったわ。さっぱりしたいでしょ?」
「あぁ、さっきまでベタベタが過ぎたからな」
妙齢の女性は、馬場沙詩絵。
年齢は分からないが、さっぱりして新鮮に思う。
歳は幾つかって?女性に聞くのは野暮だろ?
「私、元々は競技選手だったのよ」
「どうして辞めてここに?」
「骨折をして、予後不良と診断されたの」
玉葱や青葱、生姜。薬は多いが怪我は仕方ない。
俺もギネス記録に載るブラックなお勤め。
ヒューなガルデンへとホワイト転職を望む。
「大丈夫!麦生さんの未来は金色よ!」
「素敵なエールを贈ってくれてありがとう」
力強い思いはまるでサラブレッド。
二人は鼻差で交差する。
シュワ~~~~~
柔らかくもしっかりとした弾力。
何度も交わした口づけは、フレッシュ。
差し馬とはこのことだろう。
俺はいつの間にか5人目だ。
トップバッターのせいでペースが早い。
「こ、こんばんは!まだ卵だけどよろしくね!」
「人生、半熟が一番いいのさ」
まだ慣れていない彼女は、湯出 珠子。
こういう場では珍しいが、冬はコンビニで見かける。
大根役者と人気を二分するスターの可能性。
「あたしね、いつかトップに立ちたいの!」
いつも二番手で、大根役者に勝てないのが悔しい。
そう語る珠子は、良く煮込まれたスターだろう。
とても未熟とは思えない。ちなみに漫画家でもない。
「白滝さんや筑和さんも強敵なの」
「茂地の欽さんもいるぜ?」
スターがひしめき合う地獄の窯と出汁の湯。
レジ横から漂う香りには惹かれてしまう。
シュワ~~~~~
未熟なんてとんでもない。彼女は完熟だ。
二番人気だろうが、俺は好きだ。
とはいえ彼女たちを一通りお試しで食べる。
みそは甘々、黄色はツンとする。それが真理。
「指名は貴方?私を安い女と思わないで」
「勿論、知った上での指名さ」
牛 賽子。本日の最高金額。
高騰し続ける彼女の進撃は止まらない。
少しは庶民に届くようになって欲しいと切に願う。
「君の香りは特に素敵だ。興味をそそる」
「貴方にこの違いが分かって?」
「添えられた瀬利さんも良いな」
ヘルプでついた羽 瀬利さん。
賽子が身に纏うバジルバターの香水含め好印象。
肉欲に溺れるとはこのことかも知れない。
「よだれが溢れてくるぜ」
「気軽に触れたら火傷するわよ?」
彼女たちの座るシートは鉄のように熱い。
俺は火傷を覚悟し、熱いままを貪る。
シュワ~~~~~
一口サイズの幸せ。それが何度も訪れる至福。
最後に瀬利さんを食べてしまう。飾りじゃない。
賽子の汁はいつまでも記憶に残る。
9人目の俺は、思い出してニヤニヤしていた。
「全く、だらしない顔をしおって……」
「あ、純センパイ!ちーーーっす!」
大先輩の、米田井純。
50%を切り捨てる、人生の猛者だ。
本醸造にあたる俺では、とても太刀打ちできない。
「日々研鑽しているか?」
「そんなに自分磨きできないっす!」
凄まじい自分磨き。先輩はその生き様そのもの。
シュワ~~~~~
今日は堪えた一方通行の逆走。
大先輩の前でレインボーは咲かせられないから。
だが、鼻に抜けてくるほのかな酸味だけは残る。
やはりチャンポンはダメだと再認識。
俺は二桁の大台に乗った。今日はハッスルしすぎか?
「ワタシ、最後で良かったアルか?」
「今日はプリップリな君を最後に楽しみたい」
彼女は恵比 千里。
赤い国の彼女は甘いが辛い。でも実は日本人。
そしてお肌はプリップリだ。
「ワタシ、餃子に負けたくナイね!」
「あぁ、君は本格的だ」
「ワタシ、テッペン獲るアルよ!」
何故日本人なのにカタコトなのか?
それは雰囲気やイメージが大切って事だ。
シュワ~~~~~
これが最後と汗だくになり頬張る。
既にベルトは解放済みだ。
明日の体重計にはモザイクが必要だな。
幸せの中、そんな現実逃避をしていた。
今日の麦生がまた1杯……。